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ツトレノガトン  作者: 三方一所健之
1/3

前編

     1



「ツトレノガトン!」


 ──という言葉を残して、彼は私の前から消えた。


 ツトレノガトン──まったく、意味不明。


 しかしながら、この意味不明な奇っ怪な言葉のために、私は捨てられたのだ。


「許せん!

 絶対に見つけ出し、圧倒的極まりない制裁を加えてやる!」


 私は胸に誓い、家来のドレン・パレドゥルンに訊いてみる。


「ねぇ、ねぇ、ドレンちゃん。

 ツトレノガトンて何?」


「はぁ?

 姫さま、頭おかしくなりましたぁ?

 知りませんよ、そんな言葉。

 世の中に、存在すらしてないでしょうよ」


「わからないから訊いてるのに!

 ドレンちゃんの意地悪っ!」


 ドレンは黒髪ロングの麗人で、ハーフ・フレームの眼鏡がとっても理知的な感じで似合っている。

 王国一の、私の理解者──理解し過ぎて、いつもとんでもなく無礼な物言いをするのだけど。


「パトロマルス・サーティーフォーで調べてみては如何です?

 いつもゲームするか、マンガやアニメ見るときにしか使ってないんだから……。

 ()もそのほうが本望だと思いますよ?」


「ホント、ドレンちゃんは手厳しいわ!」


 仕方ない。取り敢えず、自分で調べてみるとするか……。


     ❈❈❈❈❈


 首から下げているペンダント──それが、クリス・パトロマルス3世が、34歳のときに開発に成功したウルトラ・コンピュータ「パトロマルス・サーティーフォー」だった。


 私は、そっとそれに、右手の人差し指を載せる。


 パパパパァァァッ!


 ちょうど眼の高さの位置に現れるスクリーン。

 ひび割れた、起動ボイスが甘く言う。


「お呼びでしょうか、姫さま?」


「いつもながら、惚れ惚れするようなバリトン・ボイスね」


「ありがとうございます。

 ご要件は──アニメ『ソレイユの空』第11話のBパートからでよろしかったでしょうか?」


「違うわ」


「これは失礼致しました……。

 では──『ポリッシャー・ファミリー』の第12話でしょうか?」


「うう〜ん、それも違うぅ」


「これはこれは!

 何というご無礼おば……。

 不肖パトロマルス・サーティーフォー、この(CPU)に懸け、姫さまのご所望の──」


「あのぅ、パトさん。

 ちょっといいかしら?」


「はっ!

 姫さま、何なりと!」


「調べて欲しいものがあるんだけど……」


「おおっ!

 姫さまが、まさか小生のメイン・ファンクションを活用なさる日が来ようとは……。

 大きく、成長なされましたな」


「もう。

 パトさんは大袈裟おおげさね」


「いやいや、感動で胸が熱くなってまいりました」


「熱くなり過ぎて、オーバーヒートしちゃ嫌よ?」


「ご心配は無用です。

 ささっ!

 お調べしたい、キーワードをおっしゃい下さい」


「じゃあ──。

『ツトレノガトン』!」


「おおっ!

 元気が良く、大変けっこうです

 ええ──ツ、ト、レ、ノ、ガ、ト、ン……」


 パトロマルスは検索を始める。


 彼の中には恐ろしく多くの情報が蓄えられており、またたとえその中に求めるものが存在しなくても、オンライン・ネットワークを通じて、必ず知りたい情報を手に入れる。


「ピーッ!

 検索不能!

 キーワードが違います!」


「えっ!?

 何それ!?」


 聞いたこともない、甲高い音声。


「姫さま……。

 大変心苦しいのですが──検索することが、不可能でした」


「検索不可能!」


 まさかまさかの事態。

 あのパトロマルス・サーティーフォーに検索出来ない言葉があろうとは!


「でもパトさん。

 検索出来ないと、可愛らしい声を出すのね」


「これは姫さま!

 大変失礼おば──」


「いいから、いいから!

 謝ること、ないわ。

 それより──」


「姫さま。

 不肖パトロマルス・サーティーフォー、同じ失敗は3度と致しません」


「どういうこと?」


「ツトレノガトンという言葉、確かに検索出来ませんでした。

 しかし、それを知っていると思われる人物は、検索することが出来たのです」


「まぁ!

 そんなことって……」


「もしかすると、これは呪文の一種なのではないか──と、不確かながら、過去の検索ワード実績から、推量致しました」


「さすがね、パトさん。

 転んでもただでは起きない!」


「いやはや……。

 お褒め戴き、光栄の至りでございます」


「そ、れ、でっ!

 誰が知ってるかも知れないの?」


「王国第27護衛師団、トランジェニス・ゴルトバーク団長なら、お力添えして戴けるかと存じます」


「ああ、トーランくんね。

 ありがとう、パトさん。

 シャットダウンしていいわよ」


「御意に……。

 不肖パトロマルス・サーティーフォー、いつでも姫さまのお側に──」


 バイバイ・ボイスも最高のバリトン!


 スクリーンは跡形もなく収束し、何ごとも無かったかのように、ペンダントは胸に光る。


「さて、トーランくんに、来てもらわなくっちゃ」



     2



「姫さま。

 トランジェニス・ゴルトバーク、せ参じました」


 重厚な鎧に身を包んだ男は、神妙に片膝をついた。


「ご苦労さま。

 トーランくん」


「姫さま。

 我が第27護衛師団に、何か問題をお認めでしょうか?

 ならばそれをべる者の責として、如何なる処罰もお受け致します」


「まぁ、トーランくん!

 何であなたを処罰しなくてはならないの?」


「違うのですか。

 姫さま?」


「王国を敵国の魔の手から守り抜くあなたの手腕、褒められ讃えられこそすれ、何故処罰の対象になどなるものですか」


「では──。

 別のご用命でございましょうか?」


「そうそう!

 ご用命よ、トーランくん!

 あなた、『ツトレノガトン』って、ご存知?」


「ツトレノ──ガト、ン……で、ございますか……」


 片膝をついたまま、トランジェニスは考え込む。


 むぅ、あれでは膝が痛いだろう。


「トーランくん。

 ちょっとお立ちなさいな」


「は、はぁ……」


 すっくと立ち上がるトランジェニス。


「ええっと、そこの椅子に腰掛けて話しましょうよ。

 ずっと片膝立ちなんて膝が可哀想だわ」


 私はトランジェニスを賓客ひんきゃく応接用のテーブルまで連れてゆき、両肘を載せられる、ゴージャスな椅子に座らせた。


「これは──。

 なんとも、こそばゆいですな」


「う〜ん……。

 その鎧、邪魔じゃない?

 脱いじゃいなさいよ」


「いえいえ、滅相もない!

 無礼が過ぎます」


「そうでもないんだけど……。

 まぁ、あなたがそう言うのなら、無理強いはしないわ。

 でもね──お茶とケーキは、つき合ってもらうわ」


 私はドレン・パレドゥルンに用命した。

 あっ!──と、思う間も無く、ドレンが給仕に現れた。


「ありがとう、ドレンちゃん。

 随分早いのね?」


「姫さまのことですから、お茶とお菓子をご所望なさらぬ訳がございません。

 いつでも給仕出来るよう、用意をして、待っておりました」


「さすがドレンちゃんね!

 私の一番の理解者だわ!」


「姫さまのことなら何から何まで、存じ上げております。

 恋わずらいなさってる、殿方のことも──」


「もう、ドレンちゃんったらっ!」


「失礼致しました。

 私は下がります──」


 と、ドレンはそそくさと部屋をあとにしたが、その去り際、私のほうをチラッと流し眼。

 如何にも──という感じに、微笑んでみせた。


 ああ!

 ドレン・パレドゥルン!

 あなた、勘違いをなさってるわ!


 でも不思議。

 私のことは隅から隅まで知っているドレンが、何でこんな簡単なこと(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)を、間違ったのだろう?


「──ま、いいか」


 私はぼそっと呟いて、トランジェニスの向いに、腰掛ける。


「で、トーランくん。

 さっき言ったことだけど──」


 ドレンが給仕してくれたお茶を飲みながら、トランジェニスに顔を向ける。


「ツトレノ、ガトン──でございますか?」


「そう、それ!

 よく憶えていたわね」


「はい。

 昔、どこかで耳にした覚えがあるのです」


「まぁ!」


「あれは──強大な魔力を誇るエクセラ・テトの神官との戦いにおいて、神官が唱えた呪文のような気が致します」


「エクセラ・テト!

 私の知らぬ間に、とても恐ろしいところと戦っていたのね」


 エクセラ・テトは恐るべき侵略国家で、科学と魔法が融合したこの世界において、未だに魔法に依存する割合の高い「魔帝国」だった。


「姫さまに、あらぬ心配をさせぬよう、陛下のお心遣いでしょう。

 その神官、残念ながら討ち取ることが出来ませんでした。

 もしかしたら、あの(﹅﹅)呪文によって、強力な結界が張られたせいでかも知れません」


「と、いうことは……?」


「ツトレノガトン──とは、敵国エクセラ・テトの生み出した、強力な結界呪文──ということに、なりましょう」


「まぁ……。

 では彼──ルキアス・ザハルディは、何故そんな呪文を知っていたのでしょう?」


「第3護衛師団のザハルディ団長が?」


「ええ。

 その言葉を口にしながら、王宮から消えたの」


 そのときのトランジェニスの表情を、どう表現すれば良かったのか、未だに結論は出ていない。

 ただ驚愕きょうがくに満ちていたことだけは、間違いなかった。


「姫さま。

 これからわたくしめが申し上げる言葉、しかとお聞き入れ下さい」


「何?

 ちょっと怖いわよ、トーランくん」


「王国第3護衛師団団長ルキアス・ザハルディは、敵国エクセラ・テトへ、寝返ったのです」


「ええっ!?

 そ、そんな……!」


 手にしていたティーカップが、カタカタと震えだした。



     3



「姫さま。

 ザハルディ団長は、いつから居なくなったのですか?」


「もう、4日になるかしら……」


「4日ですと!

 姫さま。

 ことはかなり重大なものであると、存じ上げます。

 早く手を打たなければ、取り返しのつかない(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)ことになるでしょう」


「でも、まさか──ルッキーが……」


「姫さまの心中、お察し致します。

 わたくしも、あの(﹅﹅)ザハルディ団長が反旗をひるがえすなどとは、想像だに出来ません。

 ですが──事実をまの辺り(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)にすれば、それがたとえ信じたくないものであっても、がえんずるしかありません」


 トランジェニスの真剣な眼差まなざしに、一瞬「こくん」と、頷き掛けた。

 でも──。


「トーランくん。

 あなたの言ってることも良くわかるわ。

 でもね、私はルッキーがそんな不遜ふそんな男だとは、とても思えないの」


 バカでアホでおたんこなすで、戦闘の指揮をる師団の団長にあるまじきお人好しで、私をったらかして「ツトレノガトン」とほざいてどこかに消えてしまう男だけど、とても優しく誠実で、どんな困難にも諦めず立ち向かっていく勇気と気概きがいを持った、素晴らしい青年だった。


「──仕方ありませんな。

 姫さまのお心を、無碍むげにする訳にも参りますまい。

 確かに、まだそう(﹅﹅)と決まった訳でもありませんからな。

 では──こう(﹅﹅)しては戴けないでしょうか?」


こう(﹅﹅)──って……?」


「この件は、わたくしめに一任して戴きたいと存じます。

 本来なら参謀長に報告し、方策を講じるのが当然の流れとなります。

 ですがその場合、ザハルディ団長は、完全に『おたずね者』の扱いとなってしまいます」


「それは絶対に嫌っ!」


 語気の強さに、トランジェニスは苦笑する。


「──失礼致しました……。

 つづきでございますが、わたくしめに一任して戴ければ、隠密おんみつにザハルディ団長の行方ゆくえを捜索出来ると考えるのです。

 我が(﹅﹅)、第27護衛師団を使って……」


「第27護衛師団──」


 それは、王国きっての精鋭部隊で、特に諜報ちょうほう活動において、他の師団の追随を許さない。


「わかったわ、トーランくん──いや、ゴルトバーク団長。

 王国護衛師団、参謀()長ローゼスカ・ティアムの名において、あなたに、ザハルディ団長の捜索を命じます」


「御意に──」


 命を受けると、トランジェニスは部屋から出ていった。


 テーブルの上には、手の付けられていないお茶とケーキが、寂しく残っていた。


「やれやれだわ」


 片付けのため、ドレンを呼んだ私は、彼女に向かって溜息をつく。


「あれ?

 姫さま、お楽しみ(﹅﹅﹅﹅)ではなかったんですか?

 せっかく最高級のお茶をお出ししたのに……」


「……さっきもちょっと感じたんだけど──ドレンちゃん、勘違いしてない?」


「は?

 勘違い……。

 何のことです?」


「いやいや、知ってるくせに〜!

 皆まで言わせる気なのぉ?

 ドレンちゃんの意地悪っ!」


 私が本気で「プンスカ」したものだから、ドレンも少し考え込む。


 そうそう!

 普段は私に対して無礼な振る舞いが多いドレンだけど、私が本当に困っているときは、いつも真摯しんしに答えを探してくれるのだ。


 そんなドレンが、私は大好きだった。


「──では、あの噂は……虚偽情報だったのかしら?」


「えっ、何!?

 私に対して、変な噂が流れてるの!?」


 ドレンは顔をこちらに向けると、眼鏡のフレームを、すっと直す。


「いえ、一週間ほど前からでしょうか。

 姫さまが、ゴルトバーク団長にご執心であるとの噂が、城内に流れまして……」


「はぁ!?

 何を言ってるの、ドレンちゃん!」


 これには私も、びっくり仰天した。


「ですよねぇ……。

 だって姫さまの胸中の方はザハル──」


「ストップ、ドレンちゃん!

 全部言わなくていいからっ!

 わかってるならそれで良しっ!」


 私の剣幕に、くすっと笑うドレン。


「やはり、姫さまは楽しい方ですね。

 参謀総長なんて仰々ぎょうぎょうしい肩書が、これほど不似合いな方も珍しいわ」


「いいじゃない。

 かっこいいんだから」


「そうですかねぇ。

 とっても可愛らしいから、敵が油断してくれるかも」


「ホント、ドレンちゃんは口が減らないわね!

 私の能力だって知ってるくせに!」


「もちろんです。

 たとえ敵が油断しなくても(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)、姫さまが戦闘で負ける筈、ございませんから」


「いや〜、そんなに褒められると、照れるなぁ……」


 思わず頭を掻いてしまう。


「姫さまの支援魔法の力は絶大ですから。

 それにザハルディ団長の剣術が加われば、如何なる敵も、その存在を保つことは不可能でしょう」


「そうなのよね〜。

 私とルッキーが組めば最強──」


 はたと気付く。

 これはもしかして──。


「どうしました?

 姫さま?」


「わかったわ、敵の策略が」


「──と、言いますと?」


「要するに、分断させたいのよ。

 私とルッキーを」


「ははぁ……。

 分断させて力を削ぎ、それぞれと相対すれば勝てるということですか?」


「甘いわ。

 そんなことしたって個々の力だけで──ルッキーだけで、1個師団壊滅させられるんだから」


「では、あまり意味が無い策略と言えますねぇ」


「でもその推測が確かなら、敵はルッキーと私が組めないこのとき(﹅﹅﹅﹅)を、逃さない筈よ」


「個々の戦力が強大でも、チャンスあり、と──」


「であるのなら、ルッキーのことはともかく、護衛師団に警戒を怠らぬよう、通達しておかなきゃならないわね。

 ドレンちゃん──」


「御意に──で、あります。

 参謀総長」


「もうっ!

 ドレンちゃんはかしこまらなくていいのっ!」


「はいはい。

 じゃあ、指示出しておきますねぇ」


「それで良し!」


 ドレンは出ていく。

 すぐに通達書を作成し、各師団の団長宛に送られるだろう。


 それにしても──。


「ルッキーのヤツ。

 ホント、どこ行ったのかしら……」


 私は溜息をついた。



     4



 その夜、私は再びパトロマルス・サーティーフォーを起動する。


「これはこれは姫さま。

 ご機嫌うるわしゅうございます」


「こんばんは。

 パトさん、早速だけど──例の『ツトレノガトン』、エクセラ・テトで生み出された、結界呪文だったみたいよ」


「エクセラ・テトの──で、ございますか?」


「そうよ。

 トーランくんが言ってたもの」


 パトロマルスは沈黙する。


 あれ?

 どうしたのだろう?

 NGワード踏んで、壊れちゃったのかしら?


「──姫さま。

 大変失礼致しました」


「んもうっ!

 壊れたかと思っちゃったわよっ!」


「いえ──。

 エクセラ・テトについて、すべての情報を検索し直していたのです」


「それで?」


「やはり、『ツトレノガトン』という言葉は、見つけられませんでした」


「でも、おかしくはないんでしょう?

 だって、トーランくんなら知ってるかもって、パトさんが教えてくれたじゃない」


「確かに、不肖パトロマルス・サーティーフォー、そのように申し上げました」


「じゃあ、いいじゃない」


「エクセラ・テトと、ゴルトバーク団長を結びつける接点が、見つかりません」


「──わからない。

 どういうことなの、パトさん?」


「小生が過去に取得したエクセラ・テトの情報の中には、『ツトレノガトン』も、その呪文使いの神官と戦ったゴルトバーク団長の記録も、ございません」


「トーランくんか報告していない──て、ことかしら?

 あれ、おかしいな?

 彼は『あらぬ心配をさせぬよう、陛下のお心遣い』──と、言っていたわ。

 ならば、お父さまには報告している筈よ」


「国王陛下がご存知であるのなら、このパトロマルス・サーティーフォーにも、インプットされている筈でございます」


「むむむっ!

 嫌な予感がするわ!

 お父さまを叩き起こしてくる!」


「姫さま!

 お待ち下さい!」


「何よ、パトさん?」


「どうも、これは罠のような気が致します」


「罠って……。

 私を嵌めようというの?」


「左様でございます。

 如何にも、見え透いている(﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅)ではござりませんか?

 すぐに判明してしまう虚偽を、あの(﹅﹅)ゴルトバーク団長が何故申したのか?」


「むぅ……。

 トーランくん自身が、何で私に疑われるようなことを言ったのか……。

 で、何でそれが私への罠に繋がるのか──。

 まったく、わからないわ」


 本当にわからない。

 お手上げだ。


「不肖パトロマルス・サーティーフォーに、しばしの猶予を戴きとうございます」


「えっ!?

 パトさん、徹夜で調べるつもり?」


「左様でございます。

 ことの次第が判明しないのに、おちおち寝てられは致しませんからな」


「ありがとう、パトさん」


「いやいや……。

 これしきのこと、造作もございません」


 私はペンダントを外すと、壁のホルダーに嵌め込んだ。

 こうすることで、パトロマルスは外部からの接続を絶ち、内部高速演算状態になるのだ。


「朝眼が覚めたら、この謎が解けていますように──」


 そう願いを捧げると、私は眼を閉じた。


     ❈❈❈❈❈


 朝が来た。


 眼を覚ますと、私は壁を見た。


「ええ〜っ!?

 そんなぁ……!」


 何ということだろう。


 パトロマルス・サーティーフォーは、その姿を消していた。


 もう、あの甘い起動ボイスを聞く機会は、永遠に失われてしまったのだろうか?


 私は、愕然とした思いで、壁を見つづけた。

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