動物愛護のその気持ち、間違ってますよ。(チンパンジー談)
あれですね、「盲導犬ってかわいそう~」のCMみたいなノリで(笑)
評価や感想をいただけると嬉しいです。
「動物園の動物って、かわいそう。本当はもっと広い場所で自由に暮らしていたわけでしょ? 人間の都合で狭い檻に入れられて、見世物にされてかわいそ──」
ある日のこと、そんなことを檻の前で話していたカップルがいた。
「……なぁ嬢ちゃん。お前さんは、野生での生活を知って言っているのかい?」
金網の向こう側でシマウマが言う。
「あの広々とした場所で毎日毎日、どこから襲ってくるともわからない猛獣の存在に怯えながら、生き抜くために食い物を探し回って生きている生き物たちの気持ちが──わかるって言うのかい?」
あきれた感じでため息をついたのは、一月前に動物園に連れて来られたばかりのインパラ。
「まったく、ここは何もしないでも時間になればメシが出てくるし、気温は安定しているし……何より安全だし。自由はないけれど、食い殺される心配がない分、安心して暮らしていけそうだよ」
人間は自然の掟を知らなくて幸せなんだろうな──と、群れのインパラたちが呼応する。
「おれたちゃ水辺で暮らしていたが、見てくれこの透明な水を。こんな透明な水があるなんて、いままで知らなかったぞ。こんな新鮮な水がもらえるなら、あの汚い泥水の世界なんか、もう二度と戻りたくないね」
水の中を自由に泳ぎ回りながら、カバが大きく口を開けてカップルを驚かせた。
「まあ確かにここは自由がない。だが自由ってやつは割合に危険なものだ。狩りがうまくいかなければ飢えて死ぬし、外敵に襲われて死ぬこともある。自由は(安全な)自由ではないんだな」
ハシビロコウがじっと草葉の中で、瞑想しているみたいに立ち尽くしながらつぶやく。
「まあまあ、何の不自由も知らない人間に、そんなことを言ったって仕方がない。見てみろ、何の警戒心も持たずにスマホとやらを持ち歩いてさまよう姿を、まるで群れからはぐれたヌーのようだ」
チーターが人間を嗤うと、チンパンジーが手を叩いて皆の注目を集めた。
「人間という生き物は、ぼくらとは違ったやり方で囚われているんだよ。彼らは『社会という檻の中で暮らす』という、ぼくらには理解できない自由を謳歌している種族なのだ」
チンパンジーの声に、多くの賛同が動物園の中でわき起こった。
動物園の中で暮らす彼らの想いは、人間たちの思うところとは違うようだ……