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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
第十章 嬉しい悲鳴をあげた大森林
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36.集結(上)

「今日明日の大まかな流れをご説明させて頂きます。

 このあと十時より、王宮前広場にて、現国王セルジル様より此度の選挙の趣旨説明を行なって頂き、次期国王候補者御三方による選挙演説となりますが、事前にご説明さしあげました通り、お一人様二十分以内で簡潔にお願い致します。


 その後十二時より、国民による投票が開始されますが、皆様に関しましては別館にて、官僚を交えての昼食会となりますので移動の方をお願いします。

 なお、官僚方の投票は二十時からとなっており、全ての投票は二十四時をもって終了となります。


 夜を徹しての開票作業を終えるのが明日の朝八時の予定。再び王宮前広場にて十時より予定されております国民集会の場でセルジル様より結果の発表をして頂き、異例ではありますがそのまま全国民の前での即位の儀へと移らせて頂きます。


 以上となりますが何かご不明な点はございますか?」


 さっきまで体調悪そうにしていたのは何処へやら、アリシア以外の候補者である左大臣アルミロと右大臣フラルツを交えての朝食の席で、ラブリヴァ始まって以来の国王選挙を取り仕切る獣王騎士団のトップであるアーミオンが二日間の予定を教えてくれる。


「宜しければ説明を終えますので、十時の開催に遅れませぬようよろしくお願い致します」


 自分の仕事を気合だけでやり切った彼はまさしく人の上に立つ者。


 “爪の垢を煎じて飲ます” とは言うがセルジルにはそれで足りると思えず、どうせならアーリオンの手ごと口にぶち込んでやれ!と思ったところで、彼の手を舐めるセルジルの姿を想像したら気分が悪くなった……。



 馬鹿げた妄想をする俺の隣から魔力を感じれば、見るまでもなくそれがサラだと気付く。


 自分には不相応な役職だと言っていたアーミオン。

 一先ずの仕事を終えて気が抜けたのか、いつもの定位置である壁際へ移ると、なるべく表には出さないようにと気を配りながらもへたり込んでしまったトラ耳のように壁へと寄りかかった。


 眉をしかめて気分悪げに口元を押さえていた彼を薄っすらとした白い魔力が包み込む。それは、今も尚、仕事に勤しむメイドさん達に視姦と言っても過言でないほどの嫌らしい視線を送り続ける四人のジジィに付き合わされた可哀想な彼への労いなのだろう。

 カンの良い彼は自分の体調の変化に気が付くと同時に、それがサラの魔法によるものと知り、少しだけ覗かせた白い歯が キラリ と光る幻視を見せつつ『ありがとう』と目礼をしてくる。


 タイプは違えど同じイケメンであるイェレンツがしたのなら イラッ とする仕草も、ジェルフォの息子という先入観があるからか、アーミオンだとまったく気にならないのが不思議に思う朝の出来事だった。



△▽



 国王の選挙とはいっても、はっきり言えば俺達にやる事はない。


 だが、アリシアにとって山場とも言える今、風竜の所に行きたいとは言い出せずにみんなでまったりしていれば何かおかしな感覚がする。


「これって……ギルベルトさん?」


 ソファーに座る俺の隣、何故か猫のように太腿に顔を擦り付けて戯れていたモニカがおもむろに起き上がると、窓の外に顔を向けそんな呟きをする。

 その様子に『この頭に猫耳が付いてたらもっと可愛いのに』などと妄想してみるが、残念ながらモニカは正真正銘の人間、その願いが叶う事はない。


「よくそんな事が分かるわね、この変態」


 反対の太腿を枕にモニカの真似をしていたティナには分からなかったようだが、ここは俺達の家ではないので、例え遊びに没頭していても有事に備えて警戒しておいて損はない。


「いやはや、素晴らしい索敵能力のお嬢さんだな。私も気付いたとはいえ、それが誰なのかまでは分からなかったよ」


 謙遜なのか何なのか、気付くだけでも流石に闇魔戦争を生き残って来たご老人、メルキオッレの能力は並の者とは一線を画すようだ。

 それでも魔力探知の能力はモニカが一番かと思われたが、既に立ち上がり出かける準備を始めていたリリィの方が早く気付いていたのかも知れない。


「そう言えばギルベルト達も来るんだったな。族長会談って何を話すのか知らないけど、気が付いておきながら無視するのも忍びないから迎えに行こうか」



△▽



 王宮前の広場は前代未聞の選挙演説を聞こうと集まる獣人でごった返していた。


 若者、老人、男に女。


 二万とされるラブリヴァに住む人の大多数が押しかけているように思えるほどの人の集まりは正しく獣人達の展覧会で、エルコジモ男爵が見たら諸手を挙げて踊り出しそうなほど様々な種別の獣人が見受けられる。


 そんな獣人が織りなす人波に投下された赤い隕石の如く、面積の少ない銀の鎧に身を包んだ騎士団の指示により出来上がった体長三十メートルの巨軀を避ける円形の人垣。

 地に足を着けた彼の背から飛び降りる人影が見えるが、不思議な事に時の流れが緩やかになったかのように、五メートルの高さをゆっくりと降りて行くのと同時に竜の体が赤い光に包まれた。


 風魔法で作られた絨毯に乗り空を飛んで登場すれば、小さくなったギルベルトの代わりに民衆の視線を釘付けにするには十分過ぎる存在感だったとは後から気付いた事。


「レイシュア、アリシアは何処だ?休む間も無く二往復もさせやがって……旨い酒でも出してもらわねば割に合わんぞ?」


 巨軀が消え去り、都合良く空いたスペースに降り立てば、人間の姿で腰に手を当て、俺達の到着を待ちわびていたギルベルトが冗談まじりの苦言を言い放つ。


「そんなこと仰いますが、本当の狙いがレイシュア殿の持っている人間の造ったお酒だとは見透かされていますよ?」


「うっせぇな、分かってても直接言わないのが人間流のマナーってやつなんだよっ」


 一歩後ろに立ち、両手をお腹で重ねる姿は上品な淑やかさを感じさせるのだが、イケナイと分かりつつも目が行ってしまうのが、腕に押されて更に強調された破裂しそうなほどに大きなお胸様。

 お顔の方は年相応に年齢を重ねているものの、サラマンダー族族長オレリーズの肉体は若い俺からしても魅力を感じずにはいられない。


 隣で母を真似て立つリュエーヴも将来こうなるのかと思うと、可愛いらしいが先行する彼女はほどほどに育ってくれたら嬉しいと願うのは俺の勝手な切望。

 だがその反対側に控える姉ミルドレッドを見れば、母と同じく細く締まった体付きにサラマンダー特有のこれ以上ない程に育った胸を持っている。その後ろに控える五人の女性共々、何が起こるのかと見守る一方で彼女達を羨む獣人達の視線を根こそぎ集めているので、残念なことにリュエーヴが同じ道を辿るのは確定事項なのだろう。


「ご挨拶が遅れました。アリシア殿の召喚に応じ、サラマンダー一族を代表して参上しました族長のオレリーズです」


「娘のミルドレッドにございます」

「同じく娘のリュエーヴです」


 数日前、レッドドラゴンの居城パラシオで散々喋ったというのに、何故か改めてされた自己紹介と共に片手でパレオを摘み頭を下げ始めるので、不思議な気持ちでそれに合わせて頭を下げ返す事になった。



「お久しぶりです。私もお供で来たのですがグランマ達より早く着いてしまったようですね。流石はギルベルト様です」


 上空からの声に『お?』と思えば、緑色の光を振り蒔きながらゆっくり降りて来る身長四十センチの小さな二人。


「改めまして自己紹介させて頂きます。

シルフ族族長ノンニーナの血族にあり、族長の座を押し付けられそうな可哀想な娘ファナと申します」


「警邏隊副長ケールであります」


 目線を合わせて何も無い空中に立つと、お揃いの蕾スカートを揺らして腰を直角に曲げる。


「ファナ様!?」


 挨拶が終わるや否やここぞとばかりに笑顔で飛んで来ると、雪を抱く腕とは反対の肩に腰を降ろしてその感触を確かめている。


「うん、グランマが気に入るだけのことはありますね。座り心地が良いと言うよりは、なんだかほんわかとさせる居心地の良い椅子です」


 苦笑いをするケールを他所に、ノンニーナのように耳を手摺りにして機嫌良さげに小さな足を トントン と打ち付けてくるのは構わないのだが、断じて俺は椅子などではない。




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