表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
序章 旅の始まりは波乱と共に
45/561

43.アリサの力

「お前はあの時の女か、邪魔だから退いてろっ。それとも、お前も遊んで欲しいのか?くっくっくっ、ん〜ん〜、そうかそうか。ソイツの始末を付けたらたっぷりと遊んでやるから今はすっこんでろ!!」


「女だからってぇ舐めないでもらいたいものねぇ」


 ユリアーネさんが腰を低くして剣に手をかけ、いつでも抜ける構えをとる。

 俺とは違い油断ならぬ相手と取ったのか、背中の剣に手をかけ攻めるタイミングを見計うケネス。


 しばらくの睨み合い、お互い身動ぎすら無いままに時間だけが過ぎて行く。


 きっかけはなんだったのか俺には分からなかったが、先に動き出したのはケネスの方だ。間髪入れずユリアーネさんも踏み込んだのだが、一歩踏み出した瞬間、横に飛んで急停止をかける。


 その直後に空から伸びる一筋の光。ユリアーネさんが踏み込んだ更に一歩先、それに導かれるように現れたのは地面に突き刺さる一本の黒い剣。

 ケネスも同じような状況だったようで、奴のすぐ前にも行手を塞ぐようにして同じ剣が刺さっている。


「ケネス、人間に接触するのは駄目だと言ったはずよね?」


 声のする方を見上げれば、地上を照らす月を背にした髪の長い女性が宙に浮かんでいる。逆光で表情はハッキリしないが、威圧感を感じる声からして怒っているように思える。


 苛立ちが顔に出るケネスへと冷たい視線を送りつつ、膝丈のスカートを少しだけ膨らませながら二人の間を割るように舞い降りた天女。地面に足が着いたかと思えばその姿が消えて無くなる。

 かと思えば次の瞬間には、地面に転がる俺の腹を労わるように優しく手を置き ニコリ と微笑みかけていた──これは転移の魔法……凄い。思わず苦しさなど忘れて目を丸くする。

 アリサさんの手から溢れだす優しい光、それを注がれるとみるみるうちに痛みは和らぎ、ほとんど感じないまでになった。


「ごめんなさいね、癒しの魔法はあまり得意ではないの。これくらいで勘弁してね」

「ありがとう、凄く楽になったよ。アリサはなんでも出来て凄いね」


 上品に微笑むアリサさんはなんだか嬉しそうだ。


「名前呼んでくれたの、初めてね」


 あれ?そうだっけ?魔法の凄さに思わず呼び捨てにしてしまったな。


 でもアリサさんは本当に凄い。普通の人では使えないはずの幻影と転移の魔法に加えて治癒も出来る。おまけにさっきは空飛んでたよね?俺なんて簡単な魔法の一つも使えないんですけど……上級魔族とはこうも特別なものなのか。


「アリサ!なんでそんな奴に構う!?ムカつく人間共なんて殺してしまえばいいだろっ!なんで助けたりするんだ!!」


 アリサさんは立ち上がると、これ見よがしにため息を吐いてケネスへと向き直る。

 その眼差しは切れ長の目も相まってとても冷たく、若干の怒気すら含まれているようにも見えた。


「貴方に説明する気はないわ。それより命令よ、これ以上ここに居ることは許さない。戻りなさい」


「くそっ!なんでだよっ!なんなんだよソイツ!!さっさと殺しとけばよかったんだ…………邪魔なら今ここで殺せばいいか」


 ケネスの顔が溢れ出した狂気に満ち、アリサさん越しにでも痛いほどの殺意が俺へと突き刺さる。


──本気で来るのか!?


 思った途端に地面に刺さっていた二本の剣が宙に浮かぶ。

 この剣はさっきの……


 壁を作るように浮かぶ六本の黒い剣、少し離れたところには更に二本浮かんでいる。全部で八つの剣先は仲間であるはずのケネスに向いており、攻撃体勢をとっているようにしか見えない。


「聞き分けのない子は嫌いだわ……お仕置きが必要なのかしら?ケネス、もう一度だけ言うわ。今すぐ帰りなさい」


 圧倒的な力を見せつけたケネスと言えども、流石にこの数を相手にすれば無事では済まないのだろう。舌打ちしながらも大剣を背中に収め、渋々ながらもアリサの命令に同意を見せる。だがその顔は苦虫を噛み潰したかのように歪んでおり、向けられた殺気は収まるどころか強さを増したように感じる。


「次会った時はお前が死ぬ時だからな!せいぜい少ない人生を楽しんでおけよっ」


 吐き捨てるように投げつけられた言葉。それが届いた時には シュッ という音を残して姿が見えなくなり、強烈な殺気と重圧が無くなったことに ホッ と胸を撫で下ろす。


「うちの子が迷惑かけたわ、ごめんね。後で叱っておくから許してちょうだいな」


 心底申し訳なさげな苦笑いを浮かべるアリサさん。


 ユリアーネさんへと視線を向けた次の瞬間には彼女の背後に転移していた。

 肩に手を置き耳元で何かを呟いてるが、この場にいるのは三人だけだ。つまり、俺には聞かせたくない話なのだろう。



(レイが成長したら貰いにくるわ、それまでは貴女の自由にさせてあげるから精々仲良くなっておくことね。まぁ頑張りなさい)

(な、なにを!?)

(あら、レイの事好きなんでしょう?フフフッまぁいいわ、好きになさい。後悔だけはしないようにすることね。お姉さんの助言よ?)


 顔を赤らめ美人顔を可愛らしくコーディネートしたユリアーネさんと、その肩越しに小悪魔スマイルでウインクを飛ばしてくるアリサさんの共演(コラボレーション)にはグッとくるものがあり『わぁおっ!』とひとりごちていれば、軽く手を振ったかと思った次の瞬間には元々居なかったかのように姿を消してしまっていた。


「アリサさんと何話してたの?」


 癒しの魔法のおかげで普段通りに動けるようになっていた。赤い顔のまま遠くを見つめて心ここに在らずのユリアーネさんに近付き覗き込むと、手足をばたつかせてあからさまに動揺を見せる。


「ななな、なんでもないわよぉ?夜も遅いしぃ、さっさと帰ろぉっ!」




 言いたくないなら別にいいかとさっくり諦め、夜の町を散歩しつつ二人でみんなの元へと戻る。


 さっきの出来事を話すとミカ兄とギンジさんは殺気立って飛び出そうとしたが『もういないからっ!』と必死になって皆で押さえ込む羽目になった。魔族や魔物じゃないんだから町中で暴れようとしないでくださいよぉ……。


 念のため数日様子を見たが魔族が現れることはなく、どうやら本当にこの町を出たようだ。

 魔族の脅威はチェラーノから去った。ミカ兄が領主へと報告したことで今回の事件は終わりを告げたのだが、結局、魔族達はこの町で何をしていたのだろう?何も分からず終いだったな。


 あの魔族──ケネスとはいずれまた会うかも知れない。そのときは今回みたいに一方的にやられるような無様は晒したくないが、その為にはもっともっと強くならないとだな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ケネスのような魔族に対抗できるようになるにはどうしたらいいのか。 レイがチートじゃないのがいいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ