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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
第四章 海まで行こう
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26.イジメ

 冷静になるととても恥ずかしい……初めて会った見ず知らずの女性に抱き付き、大の男が泣きじゃくったのだ。しかも少し前にはその人に対して「死ね」と暴言を吐いている。


──どんな顔をすれば良い?何て言えば?


 落ち着きを取り戻した頭で豊かな胸に抱かれたままアレコレ悩んでいると、彼女の方から声がかけられる。


「もう大丈夫かな?あーあ服がベトベトねぇ。それにしてもいっぱい泣いたね!」


 身を離すとしゃがみ込み、取り出したハンカチで俺の顔を拭いてくれる青い髪の女。照れ臭くて視線を落とすがそうはさせてもらえず、両手で俺の頬を挟むと彼女を見るようにと強制的に修正されてしまう。


 クネクネと波打つ艶々の青い髪の間から覗く、俺を見据えるエメラルドグリーンの瞳。


 綺麗な瞳だなぁなどと思った矢先、軽い感じで唇を奪われて抱きしめられた──あれ?なんだか変な感じだな。

 向こうからしてきておいて良いのかどうかを考えるのも可笑しな話だが、それでも恐る恐る背中に手を回すと俺もそっと彼女を抱きしめる。


「ユリアーネ……じゃ、ないよ、な?」


「さっき呼んでた名前だね。抱きしめといて違う女の名前を堂々と呼ぶのはどうなのかなぁ?」


 身体を離すとツイッと俺のオデコを指で小突いてくる。頬を膨らませてはいるもののその顔は笑っており、口で言うほど不満に思っていないのは明白だった。

 幻を見た影響なのか、なんだか妙にユリアーネに似た雰囲気を彼女からは感じる。


「ごめん、謝るよ。俺はレイ。初対面でみっともない姿を晒してすまない。君はどうしてここに?俺がここに来た時には居なかった筈だよね?」


 よしよしと満足気に頷く彼女。お姉さん的な感じも、両手を腰に当てピシッと立つ姿も、何処かユリアーネを彷彿とさせ妙な親近感を与えてくる。


「あぁっ……」


 湿り気を帯びた布が張り付いて気持ちが悪かったのだろう、お腹に手を当てると俺が涙で汚した服を摘んで眺めている。

 しかし、これ見よがしに得意気な顔を俺に向けて パチンッ と指を鳴らした次の瞬間、汚れなど綺麗さっぱり消えて無くなってしまった。


──浄化の魔法


 魔法を使ったのは確かだろうが、魔力の収束や魔法の発動を感じさせることなく一瞬にして事象が完了する、そんな凄い魔法は初めて見た。

 呆気にとられて彼女の顔を見上げると『どうだ!』と言わんばかりに胸を張り俺の反応を待っていた。心底驚いた俺はパチパチと拍手をもって賞賛すると「イヒヒッ」と白い歯を見せて無邪気に笑う。


 薄手の柔らかな生地でできた淡い水色の丈長ワンピースに身を包み、お尻まで届くかと言う艶々とした強めのウエーブの掛かった青い髪の女性。ユリアーネを思い起こさせるようなスラリとした輪郭の美人顔が見せる少女のようなあどけなさに見惚れてしまった。


「私はフラウ。ねぇレイ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


 上目遣いで俺を見つめ、両手をお尻で組みモジモジとした様子に鼓動が高鳴る。


 勿論、俺にできる事ならなんでもやらせて頂こう。だからどうか俺の恥ずかしい顔は記憶の彼方に封印してくださいっ!

 さぁっ、遠慮なく願いを……


「ご飯食べさせて」


「えっ!?」と驚いたのは言うまでもない。見ず知らずの人に泣き付くのもどうかと思うけど、綺麗なお姉さんが飯をくれと言うのって……どうなのよ?

 ユリアーネがダブるフラウなら押し負けてオッケーしてしまいそうだが、あの双子のように抱いてくれとか言わないだけマシか。


 立ち上がるとフラウに手を差し出す。


「行こうぜ、腹がはち切れるほど食べさせてやるから覚悟しとけよ?」



▲▼▲▼



「おぉっ!これも美味しいわね!んぐっんぐっ、ぷふぁ〜っ。次の持って来てね〜。ハグっ!んふ〜〜っ!美味しっ!」


 心底嬉しそうな顔であり得ないほどの大量の料理を食べ進める姿に様子を見に来たシェフは満足げに頷き、次から次へと大皿の料理を作っては自ら運んでを繰り返す。


 フラウは絶賛食事中だ。いくらでも食べて良いとは言ったものの限度というものがあるだろう。いや、食べるのが駄目という訳ではない。ただ、その細い身体の何処にこれだけの料理が入って行っているのか誰か説明していただきたい。


 テーブルの上には空のお皿が山のように積まれてそろそろ向こう側が見えなくなろうかと思われた時、買い物に出ていたモニカ達が帰って来て俺が座るテーブルを見て唖然としていた。


「お、お兄ちゃん、ただいま。これは何事?」


 白い帽子を脱ぎながら俺の隣に座るモニカの顔は若干引き攣っている。

 お腹が空いていたのか、雪が俺の膝によじ登りスプーンを手にすると運ばれて来たばかりのご飯を掬って口に放り込む。


「これは私のよ!」とばかりに物が入りすぎて膨らんだ口を動かしながらもキッと雪を睨むフラウ。だが負けじと睨み返し、これでもかと張り合うように口いっぱいに料理を頬張り出す雪には驚かされてしまった。


 ねぇねぇ雪ちゃん?なんでこのおかしなお姉さんに対抗しようと思ったの?


 雪の小さな身体ではそんな大量に食べられる筈もなく、すぐにご馳走さまとなり今度は呆れた顔してフラウの食べっぷりを眺めている。


「雪、ジュース飲む?」


 嬉しそうにコクコクと頷くのでモニカ達が食事をしている横で食べ終わった俺と一緒にリンゴジュースを飲みながらフラウの奇行を二人で眺めた。


「雪も水着買えたの?可愛いのあった?」


 俺の膝の上、ぽふっともたれ掛かりご機嫌な笑顔で見上げてくる雪の態度からは気に入ったものがあったのだと察する。


「トトさまのお気に召すかは分かりませんが、後でのお楽しみです」


 可愛すぎて思わず ギュッ とすると「トトさま痛いです」との抗議の声が上がったので謝っておいた。


「フラウも一緒に遊ぶだろ?水着がないなら買い物付き合うけど?」


 カバの如く大きくなった口から滝のようにパスタを垂らし、そのままの可笑しな顔で俺の方を向くフラウ……行儀がよろしくない。雪の教育に良くないから止めてもらえるかな?

 するとジュルリと一息で口の中へと消えて行くパスタの束。上品に食べろとは言わないけど、女の子なんだからもうちょっとこう……ないのかね。


 首に巻いたエプロンを外して口の周りに付いたソースをキュキュッと拭くと、姿勢を正してワインを一口飲む。

 いやいや、いまさら上品ぶっても遅いからっ!


「行っていいなら行くわぁ。水着は無くてもいいや、このまま泳ぐよ」


 いや待て。面倒くさがらずとも拘りがなければ水着くらいそこら辺で買えばいいじゃないかとも思ったのだが、後で必要だと思ったときに買いに行くのもいいだろう。


「それでですね、その方はどなたなのですか?」


 説明を忘れてました!そりゃサラが疑問に思っても仕方ないよな。「わたし?」と自分を指差していたフラウは持っていたナプキンを机の上にバンっ!と音を立てて置いた。


「レイの彼女です」



 …………何言い出すの?この人。



 んん?と疑問顔でみんなが一斉に俺を見るが、パタパタと手を振り違う事をアピールすれば再び皆の視線がフラウに集まる。

 自信満々に胸を張り “主張は変えない” とアピールするフラウ、そんな事をすれば皆はまた一斉に俺に視線を向けてくるので仕方なく “違う違う” と全力で首を振り無実をアピールした。


 言葉の無い不毛なやり取り。皆の首が一斉に動く様はあたかも首振り人形のよう。


 またもや皆の視線がフラウに向けられると、今度は拳を口元に当てて涙目で “信じてくれないの?” と言わんばかりに訴えかけるので、険しさの増した冷たい視線が一斉に戻ってくる。


「フラウ、そろそろ勘弁してくれよ」


「ええっ!?あんなに愛し合った仲なのに……遊びだったのね!!」


 涙目で後退るという演技までし始めた!まだやるつもりかよ……。


「レイさん、私達の誘いは断ったのに」

「その人とはして来たのって酷くない?」

「それに追いかけて行った女性はどなたなのですか?」

「まさかあの人とも!?」

「やっぱり私達のような穢れた女は駄目なのですね……」

「嘘……本当はそう思ってたの!?違うって言ったくせに!」


 追い討ちをかけるようなランリンの突然の乱入、モニカとサラの目が細められ折り混ぜられた棘が鋭さを増す。

 その不味さに気付き言葉を発しようとしたものの一足遅かった……。


「お兄ちゃん!説明して!!この人はどこの誰でどんな関係なの!?女の人追いかけたってどういうこと?二人の言うお誘いって何なの!?」


「わかった、わかった。順番に説明するから、取り敢えず落ち着いて座れよ。あのな……」


 胸倉を掴む勢いで伸びてきた手をやんわりと握り、引き攣る頬を筋力で黙らせながらもモニカを押し留める。

 モニカがこんなに怒るなんて珍しい。やっぱり俺の女性関係を気にしないなど口にはするがどだい無理な話ではないのか?ティナとはちゃんと仲良くやれるのだろうか……知らない女だから気に入らないのだと願いたい。




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