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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
第四章 海まで行こう
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18.罪

「少しだけ我慢しなさいよっ!」


 肩に生えるシュネージュを掴んで一呼吸。真剣な面持ちのサラは気合いを入れると、力任せにソレを引き抜いた。

 栓が抜かれて吹き出した血飛沫、それを追いかけるように赤黒い血液が ゴポッ と音を立てたかのように溢れ出す。



「くあぁぁぁぁああああぁああぁぁああぁっっ!!」



 割れんばかりの勢いで発する悲鳴、再び襲いかかる激痛にモニカの顔が激しく歪む。

 伝播する痛みは俺の顔をも歪ませるが、その様子を目にしながら何も出来ない自分に歯噛みして、せめてもと彼女を抱きしめている腕に力を込めた。



慈悲深き神よ(レスカテ)()救いの手を!(ヒルフェ)



 肩から抜けたシュレーゼを手放すと素早く両手をかざして力のある言葉を発するサラ。

 すぐに現れた白い光。暖かみのある光が傷口を包み込めばあっという間に血は止まり、大きく口を開けていた傷口など元々存在しなかったかのように綺麗さっぱり消えてなくなる。


 身体を突き抜けていた大きな傷にも関わらず、ものの数秒で完治させた癒しの魔法。これは凄いなんてもんじゃない。


 痛みが無くなり楽になった様相を見せるモニカも、堅く瞑っていた目をゆっくりと開く。サラに向けた顔には疲労が色濃く現れていたが、それでもと掠れる声で言葉を紡いだ。


「サラ、ありがとう。もう痛くないわ」


「すまんモニカ、俺が油断しなければこんなことにはならなかったのに……サラもモニカの肩を直してくれてありがとう。あんなに深い傷だったのにすぐに治せるなんてサラの癒しの魔法って凄いんだな」


 大きく息を吐き親友の無事に安堵の表情を浮かべたサラ、褒められた事がよほど嬉しかったらしく、指で頬を掻きながら照れた様子を見せる。


 盗賊団は壊滅した、モニカも無事じゃないけど無事だった。コレットさんも一安心して胸を撫で下ろしている、当面の憂いは根絶したはずだ。

 ささくれ立っていた俺の心もサラの可愛い仕草に少しだけ癒される。


 そこでようやく、現状で最も気がかりな事に足を踏み込んだ。


「それで気になってたんだけどさ……その子、誰?」


 全員の視線を浴びてキョトンとするモニカの頭を撫でていた六歳くらいの女の子。綺麗な水色の髪をおかっぱ頭で纏め、モニカと同じ青い瞳で俺達を見回す。


 着物って言うんだっけ?ルミアと似たような服装でバスローブの布バージョンの様な服を二十センチほどの幅広の帯で腰巻に留めている。

 この場には似つかわしくない小綺麗な格好。一体全体、何処から出て来たんだ?


『私の番?』と小首を傾げる彼女に『君の番』と全員で頷き返す。


 少し離れて姿勢良く立つと、お腹で両手を合わせてペコリと丁寧にお辞儀をする青髪の少女……なんて出来たお子ちゃまなんでしょう!優雅さが滲み出るような静かで流れるような動作は感心せざるを得ない。


「はじめまして。私は雪と申します」


 か細く静かな声だが凛としていて耳障りが良かった。雪は小さな手でモニカの手を取るとニッコリと微笑む。


「カカさま、お怪我はもうよろしいのですか?痛くありませんか?」


 俺の腕に抱かれたままのモニカが疲労も忘れて コクコク と頷く。

 それを聞いて微笑んだ雪、胸に手を当て安心したような素振りは大袈裟な振る舞いではあったものの、嘘偽りのない心からの安堵に見えた。


「カカさま?」


 しかし聞き慣れない言葉。思わず疑問を口にすれば、すかさずコレットさんからフォローが入ったがその言葉に耳を疑った。


「お母様って意味です」



「「「ええっ!?」」」



 唖然とし雪を見つめる俺とモニカ、サラに至っては口をパクパクしながら後退っている。

 雪から見てモニカがお母さんってことは雪はモニカの娘ということになる。モニカは俺と同じ十五歳だ、どう考えても計算が合わないだろう。少し考えれば分かる事だが、そんなことを許さないぐらいの衝撃を俺達は受けていた。


 混乱する俺達に向かい、更なる爆弾を容赦なく投下してきた雪。


「何を驚いていらっしゃるのですか?トトさま?」

「ちなみに、お父様って意味ですね」


 間髪開けずという完璧なタイミングでコレットさんが説明してくれるが……俺が父親!?いやいや待ってくれ!そういう行為はしていますがモニカが子供を産んでないことは明らかだし、初めてそういうことをしてから子供が生まれるほどの時間も経っていない。


「トトさま、もしかして私の事を認可していただけないのですか?私はトトさまとカカさまから産まれました。私は居ない方が良いのですか?要らない子でしたか?」


 悲しそうな目で見てくる雪の青い瞳に涙が溜まっていく。

 そんな彼女がいたたまれなくなり頬に手を伸ばそうとした時、俺から降りたモニカが雪を抱きしめた。


「そうじゃないのよ。ビックリしただけ。要らないなんて事ないわ!大丈夫よ」


 モニカの背中へと手を回した雪は胸に顔を沈めて動きを止めた。安心したのか嗚咽を漏らすでもなく、ただその存在を感じるかのように抱きついている。

 全然訳が分からないが、こんな小さな少女を泣かせるのだけは駄目だとは理解できる。


 俺は雪の頭をポンポンと撫でてやり立ち上がると少し離れて馬車を取り出した。


「一先ず安全は確保したから乗っててくれ。だが一応警戒はしておいてくれよな。

 俺は盗賊共の住処をみてくるよ」




 ボスの出てきた崖の上にはこれ見よがしな洞窟が口を開けていた。

 鉱山のような通路を少し進めば、扉の付けられた小部屋に水と食料、それに奪って来たであろう大量の金やら宝飾品。いわゆる盗賊の財宝ってやつだな。その量は凄まじく、一生遊んで暮らしても余るだろうというほど。もしかしたらこれが魔族共の活動資金になっている?


「あの、大丈夫ですか?」

「ヒィィッ!?」


 さらに別の部屋には攫われてきたであろう丸裸の女性が二人。どういう扱いをされたのかは一目瞭然で酷く怯えた目で見られたが、事情を話せば理解するだけの力は残っていたようだ。

 別の部屋にも似たような女性や子供の姿もあったが残念ながら息をしていなかった。仕方がないのでこんな所で申し訳なかったが洞窟の外に埋めてやった。


 食料は怖かったので放置するとして、金品は戦利品として頂戴する。

 無事だった女性にはカバンから出した清潔な布を巻いてもらったが、歩けない様子だったので失礼して抱きかかえると一人づつ馬車へと運んだ。


「お兄ちゃんは駄目!少し待って」


 二人目を抱えて馬車に戻ってくると止められたので女性を降ろしてその場を離れる。なんでも先ほどの女性にカバンに入れてあった予備の服を着せているのだそうだ。





 準備が整い動き始めた馬車。男の俺は中に居ない方がいいだろうし人数的にも入れないので、御者席、コレットさんの隣に座る。

 少し急ぎ気味に山を越えれば、なんとか日が落ちきる前に宿場に到着することが出来た。


 女性の世話はモニカとサラに任せて俺はテキパキとご飯の準備を始め、出来上がるとコレットさんに一声かけてから近くの小さな森の中に入った。

 特に危険な魔物も感知されないし、ここからならキャンプも見える。何かあっても対応が出来ることを確認して木にもたれかかると腰を据えた。


 盗賊共の住処に裸で居た。どれくらいの期間そうしていたか知らないが何人もの男に辱めを受けたのだろうことくらい予想は着く。男性恐怖症になってもおかしくはないだろう。ならば俺は居ない方が良い。


 俺も男だ、しかも性に対する欲求は強い方だと思う。加えて自我を失いユリアーネを襲う姿を自分自身で見ている。一皮剥けば野党のソレと何ら変わりない前科者なのだ。


──そんな自分が許せない……


 嫌がる女性に無理矢理欲求を叩きつける行為をする男を許すことが出来ない。例えそれが自分であっても、だ。

 勿論そんなものは人それぞれの考え方があるだろう。けど、俺は嫌なんだ。



──男って、女性にとって害悪な生き物だな



 寄せては退いていく罪の意識の中マントに包まり木に寄りかかっていると、月明かりしかない薄暗い森の中、いつしか眠りに落ちていた。




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