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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
序章 旅の始まりは波乱と共に
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17.僕らは英雄?

「レイさんっ、レイさん起きてください」

「……ん?」

「宿場に着きました。皆さん、もう降りましたよ?」


 眠っている間に今日のキャンプ地に着いたらしい。

 キャンプ地に着くと夕食の用意をしなければならないのだが、俺達は金を払っているお客様だ。基本は御者と護衛がやることになっているが彼らは一日中働いていて疲れてるはず。暗黙の了解で馬車に乗って来たメンバー全員で手伝いをすることとなっているらしい。旅は道連れ、運命共同体ってな。俺達は乗ってるだけだし、皆で協力するのは当たり前のことだ。


 ティナと共に馬車を降り、焚き火の用意をしている人達の元に向かった。


「おはよう、よく眠れたみたいだね」


 声をかけて来たのは護衛のリーダーであるメラニーさん。そばにいる女の子三人が薪を組み、火の準備をしている。一人が薪に向かって両手をかざすとそこに火が起こり、パチパチと薪の弾ける音が聞こえ始めた。


「寝過ぎてすみません、何か手伝える事ありますか?」


「んー、もう大丈夫だからいいわ。ゆっくりしてて。

 それより、聞いたわよ?貴方が盗賊団 《スネークヘッド》を倒したスーパールーキーなんでしょ?一週間でランクCなんて凄いわね!」


「ええっ!?メラニー、それ本当なの?この子達が噂の!?」

「へぇ、噂通りカッコいいのねっ」


 えっ?ちょっ!?じろじろと間近で見ないでもらえませんかね?恥ずかしい……


「あーーっ、ずるぃぃ!私も見たいのにぃ。誰かこれ代わってよぉ」

火を起こしていた子が何か叫んでる。


 そんなに噂になっていたのか。スーパールーキーってなんだよ?

 今気が付いたけど、もしかしなくても護衛パーティーって女の子四人なのね。凄いパーティーだな。


「たまたま色んなことが重なっただけです。運が良かっただけですよ」

「謙虚なのね、気に入ったわ。後で詳しい話し聞かせてよ」

ポンって肩を叩かれた。


 俺の手をギュッとしたティナ。疑問に思い顔を向けると視線が下がっている。


「その娘は彼女さん?」

「いや、そういう訳ではないけど……」


「そう」と言うとメラニーさん達は慣れた手つきで食事の準備を始めた。

「どうかした?」とティナに聞くが「なんでもない」とニコッと笑う。よくわからないが、まあいいか。



 食事が出来るまでやることが見当たらない。プラプラしているのも気が引けて、御者さんの了承を得て馬達に餌をあげることにした。

 ティナと二人で馬車に積んである干し草を餌桶に入れて持って行くと、二頭は足を折って座り、休んでいた。一日中歩き続けて疲れたのだろう、俺は寝てただけだったな。


「ブルルッ」


 俺達が近付くと立ち上がり鳴き声をあげる、つぶらな瞳で見つめられると「よぉっ!」と挨拶でもされているかのようだ。


 餌桶を目の前に置いてあげると嬉しそうに食べる。ティナは空の桶に両手をかざして水魔法で桶に水を溜め始めた。

 そう、ティナは魔法を使える。護衛パーティーの子も薪に火を付けるのに火魔法を使っていた。正確に言えば程度の差はあれど、魔法を使えない人はいない……俺以外は。


 “生活魔法” とは日常生活で使う簡単な魔法のことで、火を付ける、水を出す、風を起こす程度のものを指す。

 でもそれが出来ない俺は大変だ。料理をしようにも薪に火を付けることも出来ない。水を出して手を洗うことも、風を起こして濡れた服や髪を乾かすことも出来ないのだ。不便極まりない。

 まぁ、そんなこと言っても産まれてからずっと出来ないからもう慣れっこなんだけどな。


「いたいた、ご飯出来たよっ」

 黙々と食べている二頭を眺めているとリリィが呼びに来た。

「明日もよろしくな」

「ブルルルルッ」




 三人で焚き火に戻ると既にみんなは食事中、アルが護衛の女の子四人に囲まれ楽しそうに談笑していた──羨ましい。


 旅の食事というと大体はスープだ。乾燥野菜や干し肉を鍋で煮込み、塩や胡椒、ハーブなんかで味付けしただけの簡単なもの。パンがあれば浸して食べたりもする。

 火にかかっているスープを自分の持って来たカップに入れると、適当な場所に腰を下ろして食べ始める。


「それにしてもアンタ、ずいぶんとあの馬に懐かれてるみたいね。そんな才能あったの?」


 素直な疑問をぶつけてくるリリィ。今まで動物に触れ合う機会なんてなかったから才能かどうかなんてわからないけど、あんなに懐いてくれるならもしかして背中に乗れたりして!?

 馬の背に跨り草原を軽やかに疾走する……うーんカッコ良いかも!


「馬はこちらの感情に敏感なのです。怖がったりしたら相手にも伝わります。あんなに自然に触れ合えるレイさんなら、才能があるとみてもいいかもしれませんね」


 まじでかーっ!そんな才能が俺にあったなんて……でも、いつ役立つんだろ?


「乗馬はね、まず馬と人との信頼関係を築くことから始まるんだよ?馬に乗り、操る事は、慣れればどんな人でも出来る。だが上手に乗りこなそうと思ったらやはり信頼関係を築くことが必要になってくる」


 老夫婦が俺達の側にやってくると、しずかに腰を下ろした。優しそうな雰囲気を纏う品のある人達だな。


「おじいちゃん、馬に乗れるの?」


 馬に乗るのに憧れているのか、リリィが目を輝かせて食い付く。金色の長い髪を靡かせて馬を走らせるリリィ、うん、カッコ良いね。


「昔ちょっと嗜んでね、乗馬はいいもんだよ。馬と一体となり風を切って走る、とても気持ちの良いものなのだ。君達も乗れるようになるといいね」

「うん、がんばるわっ!」


 頑張れ頑張れ。俺もやりたいけど機会なんてあるのかね?あるといいな!


「話は変わるがね、さっき護衛の娘達が話していたんだが、君達があのスネークヘッドを壊滅させたというのは本当なのかね?」


 優しいお爺さんの笑顔に少しばかり真剣味が増す。なんだろう?


「色々な偶然が重なって、結果としてですがそうなりました」


「そうか……いや、実はね、少し前の話しなんだが私達の知り合いも奴等に苦しめられたんだよ。奴等は随分とやりたい放題でね、子供を殺されたんだ。だからその仇を討ってくれた君達に感謝するよ、ありがとう。

 悪党共がいなくなり被害に遭う人が減るのは喜ばしいことだよ。何やら事情があるのだろうが、君達の成し遂げた事は多くの人にとって喜ばしい事だ。胸を張りなさい」


 色々な人に言われて本当に凄い事をしたんだなと思い知らされる。けど、偶然に偶然が重なっただけなんだ、その栄誉に見合うだけの実力を早く身につけよう。



 食事が終わるとそれぞれ火の周りでマントを被り横になる。夜の間の見張りは護衛の人達がやってくれるので、俺達は安心して眠りにつける。

 俺が横になった隣にティナが来てゴロンと横になった。そういえばティナは貴族のお嬢様、こんなところで寝れるのかと心配になったが大丈夫そうだ。横になるとすぐに寝息が聞こえてくる、可愛い寝顔を眺めていたらリリィが隣にやって来た。


「もう寝ちゃったの?早いわね」

「慣れない旅で疲れちゃったんだろ?俺達も早く寝よう」

「アンタは寝てばっかりじゃない……おやすみ」


 痛いとこを突かれたがまだ明日も旅は続く、早く寝よう。



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