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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
第二章 愛する人
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12.受け止めた現実

 腕の中で可愛い寝息をたてて眠るユリアーネは幸せそうな表情だ。顔にまで付いた傷が痛々しいが、その顔は地上に舞い降りた天使のように思える。


 彼女に対する自分の気持ちが解り、その気持ちを持って考えうる限り優しく、丁寧に愛した。

 時折、俺が付けた傷が痛むのか苦しそうな表情を浮かべたものの、それでもお互いの気持ちをぶつけ合い、気持ち良く果てた後でユリアーネは眠りに就いた。 俺も心地良い眠気を感じてはいたのだが、それでも愛しいユリアーネを少しでも長く見ていたくてずっと起きている。


 愛しいと思う事がこんなにも切ないなんて知らなかった。


 本当にすぐ傍、俺の腕の中にいるというのに、もっと近くで、もっともっと強く彼女を感じたい。

 まだ見せていない顔、聞いていない声、出していない感情が見たい。何を考え、どんな事を感じるのか知りたい。足の先から頭のてっぺんまでの全て、髪の毛の一本に至るまで全てが欲しい、自分の物にしたい。


 膨らむ欲望は留まることを知らず、居た堪れなくなりすぐ近くにあった額にキスをしてしまった。


「んっ……レイ……」


 囁くような声が漏れるだけで自分の背中に ゾクゾク とした心地良い感覚が走る、ただそれだけで気持ちがいい。

 自分のした事に対し反応を返してくれるのが嬉しい。


 調子に乗って蜜柑色の髪の間から覗く小さな耳に軽く噛み付いた。


「はぁっ……んっ……」


 ビクッ! と反応を示すユリアーネ、そういえば耳って反応良かったな。先程までの甘いひとときを思い出して膨らむ悪戯心、舌先で刺激すれば興奮を誘う反応が返ってくる。


「んはぁっ、ちょっ、ちょっとレイ、はぁぁぁ……やめて、んんっ!」


 モゾモゾと下の方に逃げていくのを微笑ましく眺めていると、シーツの中から怨めしそうな顔で ジトリ と見返してくる。


「んもぉっ、耳は駄目っ!禁止ですぅ〜」


 そんな彼女がとても可愛いく思えて ギュッ と抱きしめれば、俺の胸に頬を寄せて抱きしめ返してくれる。 幸せな気分に浸りながら目の前にある頭に顔を埋めれば、仄かに甘酸っぱいユリアーネの匂いがした。


 なんて幸せなんだろう。この時が永遠に続けば良いのに、本気でそう思ったがそうもいかない事くらい分かっている。 でももう少しだけ、今までの人生の中で最高に幸せなひと時をもう少しだけなら味わってもバチは当たらないだろう……。


「ねぇレイ、聞いて欲しい事があるの。

私が生まれた村もねぇ、魔族に滅ぼされたんだぁ。たぶん五歳ぐらいの時かなぁ……あんまり覚えてないんだけどぉ、お父さんの胸から魔族の手が生えてねぇ、私の顔に血が ベトッ てかかるのよぉ。

 その魔族が笑いながらお父さんの隣にいたお母さんの頭を握りつぶしたの、二人とも顔も覚えていないのにその事だけはハッキリと覚えてるわぁ。


 その後ぉ村で唯一生きてた私は保護されてぇ他の町の孤児院で過ごしたわぁ。保護されて暫くは感情も無くお人形のように動かなかったらしいけどぉ、半年ぐらいして奇跡的に意志が戻ったそうよぉ。


 でもねぇ、十歳になる前に孤児院のあった町もぉ魔族に襲われて無くなってしまったの。 フラフラと崩壊した町中を当ても無く彷徨っているところをルミア先生に見つかり師匠の家で暮らすようになったわぁ。


 それから師匠と先生の指導の元、頑張った。多分だけどぉ、二回も魔族に生活壊されて私もどこか壊れてたんだと思ぅ。

 修行を初めてたった二年足らずでベルカイムの町でトップクラスの実力者になれたわぁ。それまで剣も握った事もなかったしぃ、魔法だってろくに使えなかったのにぃ……異常でしょ?


 私は魔族が憎い。私の生活を、平和に暮らしている人達の幸せを奪う魔族が憎くて堪らない。魔族を殺す事だけを目標にただがむしゃらに鍛錬に明け暮れた。


 でもぉミカルに出会い、ギンジと仲良くなって喋るようになるとぉ、なんだか私が間違った生き方をしているような気がしてきたわぁ。 だって二人共ぉとても楽しそうに生きているんですものぉ。私の表面だけの笑いと違ってぇ、心の底から笑っていたわぁ。

 羨ましかった。それはそうよねぇ、私には出来ないことを呼吸するように簡単にやってのけるんですものぉ。


 そんな時、レイが現れた。


 ただ魔族を憎むだけの私の心に違う感情をくれた。レイわぁ私の真っ黒な心に差し込んだ眩いばかりの光だったのよぉ。

 だからねぇ、これからもずっとぉ私の心に光を照らし続けてね。ずっとぉ、誰よりも近くで……私の太陽で在り続けて欲しぃの」


 思いの丈を伝えてくれるユリアーネ、君が望むのなら俺は君の太陽でもなんにでもなる。君が許してくれるのなら永遠に、一番近くに居続けることを誓うよ。


──俺の全ては君の物、だが、君の全ては俺の物だ。



「そろそろご飯にしなぁい? 昨日の夜も食べてないからぁお腹空いちゃったぁ」


 腕の中から見上げるユリアーネのおでこにキスをすると、名残惜しくもベッドから出る。

 シーツに包まり俺を見ていた彼女に向き直り唇を重ねると、丁寧に畳んであった服を着た。


「用意してくるから寝てて良いよ。ついでにユリアーネの作ってくれた墓に挨拶もしてくる、火だけ頂戴?」


 俺が手を出せばシーツからニュッと白い手が伸びてきて人差し指が触れる。するとそこに一センチ位の小さな炎が姿を見せた。


「じゃ、行ってくるわ」


 扉を開けて外に出ると太陽が眩しく、真上よりも少しばかり傾いている。こんな時間になってればそりゃお腹も空くわな、もう丸一日近く何も食べていないことになる。

 家の廃材を適当に集めてユリアーネから貰った火種を放り込む。 火が安定し、鍋をかけると墓を探しに歩き出した。


 村の家々はメチャクチャに壊され、とても人が住める状態ではなくなってしまっている。俺の実家だった場所も屋根が落ち、中に入ることすらできなかった。

 そこで目を引いたのは玄関先に残されたままの赤い染み。ドクンと鼓動が高鳴ったが、それ以上の感情は湧いてこなかった。


 村の中心だった広場の片隅に四本の木が立ててあった。その木の前の土が少し盛り上がっており人が埋められているのが容易に想像ができる。掛けてあるネックレスからそれが母達のモノだと知れる。

 ユリアーネの心遣いに感謝しつつ摘んできた白い花を一本づつ供えるとしゃがみ込み、手を合わせた。


「ごめんな。悔しいだろうけど、そんなこと忘れて安らかに眠ってくれよ」


 綺麗に並べて作られた村人達の墓にも手を合わせると、焚き火の元へと戻る。


 母親の墓の前でも涙すら出てこない俺は感情が壊れてしまったのだろうか?それとも単に、現実が受け入れきれてないだけだろうか。

 どちらにせよ、生きている俺は前を向いて歩いていかなければならない。


 死んでしまったみんなの分まで……。




 並んで仲良く食事を終えると、フォルテア村唯一の井戸の側に結晶くんを置き、通信具でルミアに連絡をいれた。

 すると光の玉が結晶くんの前に現れ、程なくして髪の長い少女の姿となる。


 現れたルミアは感情を浮かべぬいつもの顔のまま辺りを見回すと、ユリアーネの顔と身体の傷を見て大きなため息をもらす。

 何か言いたげな ジトッ とした視線を俺に向けながらユリアーネに歩み寄るルミア。珍しく持っていた木の杖を腹部に当てると、そこから湧き出した光が全身を包み込む。


「処女膜までは再生出来ないわよ?」


 一瞬言葉の意味が分からなかったが、ルミアは何も聞かずとも全てを理解したのだと気が付いた。

 傷を癒してもらいながらも俯き恥ずかしそうにするユリアーネは胸の前で人差し指を突き合わせている──うん、可愛い。


「あんた達、好き合ってたのにくっつくの遅すぎよ?まったく、焦ったいったらないわ。

 レイもやっと男になったわね。それじゃあ、どう?私も抱いてみる?」


 右手の小指を噛みつつ左手を肩に沿わせて服をズラす。綺麗な細い肩が露わになり挑戦的な眼つきで誘いをかける姿に ドキリ としたものの、そんなものに惑わされる俺ではない。


 両手を広げて肩をすくめて見せると、つまらなさそうな顔で服を戻した。


「なによ、私じゃ役不足だとでもいうの?」

「そうじゃないよ。ルミアは十分魅力的な女性だ。けど、俺は愛する人しか……ユリアーネしか抱かないよ」


 あっかんべーっとする姿が可愛らしく見た目相応に思えるが、この人は十二歳どころかその十倍近くは生きているはず。

 だがそれでも、そんなことをするルミアに思わず笑みがこぼれた。


「はいはい、傷も癒えたことだし邪魔者は消えてあげるわ、ごゆっくりどうぞ。アルとリリィには私から伝えておいてあげるわ」


「待った!ルミア待ってくれ。二人には俺から伝えたいんだ。俺達を連れて帰ってくれないか?」


「……どうなっても知らないわよ?」



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