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黒の皇子と七人の嫁  作者: 野良ねこ
第二章 愛する人
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9.決心

 気を失ったままのレイを抱きしめているとユリアーネの中の怒りも徐々に収まってくる。このまま愛しい人を抱きしめていたい気持ちに駆られながらも、この村の人達を埋葬してあげなくてはと立ち上がった。

 レイが目覚める前に全て終わらせておこうと思い奇跡的に壊れていなかった家のベッドにレイを寝かせると、一人、家の外に出る。


 改めて見た村の様子は見るも無残な状態。恐らく生きている人はいないだろう、そう思わざるを得ない惨状だった。

 村の殆どの家は壊され瓦礫と化し、唯一残っていたレイを寝かせた家も半壊しており雨風をしのげる程度しか形を保っていない。


「酷い……この村の人達が一体何をしたっていうの?ただ平和に暮らしてただけじゃない。魔族とだって関わりがあった訳じゃない……なのに、なんで……」


 ユリアーネの視界がぼやけ、頬を涙が伝う。道に転がる生首とその持ち主だったモノ。体に風穴の空いた遺体。手や足が離れているのはザラで、酷いものだと原型を留めておらず肉の塊にしか見えないものまである。

 それでも、こんな村の様子をレイに見せたくない一心で、遺体の欠片を一つ一つ丁寧に集めては村の中心にあった広場に一人づつ土魔法で埋めて行った。


「おば様……」


 その中には当然のようにレイの二人の母親の姿もあった。


 レイに着いて遊びに来た自分を優しく迎え入れてくれた二人も、今はもう動く事のない屍に成り果てている。

 収まっていた涙が再び溢れ出すが今はそのままに、二人を他の村人とは少し離れた所に埋めて墓標代わりに小さな木を立てると、そこに二人が首にしていたネックレスを掛けてあげる。こうしておけば誰が眠る墓なのか分かるからだ。


 リリィの母親もアルの両親もレイの母と同じように墓標を立て、身に付けていたネックレスを掛けておいた。


「さてとぉ、これで終わりかなぁ。レイは……起きたかしらぁ?」


 一人呟き、仕事の完了を自分自身に言い聞かせるとレイの元へと向かう。

 その途中、道に転がる黒い刀を見つけた。遠目に見えたあの時の朔羅は禍々しい黒い霧に包まれていたような気がして、少し慎重になりながらも拾い上げてみる。

 しかし今はもうあの時のような違和感は無く、同じ黒い霧ながらも普段から身に纏う色の薄い霧があるのみ。落ちていた鞘も拾い上げ仕舞ってやると キンッ と小気味良い鍔鳴り音が響いた。




「レイ、起きたのねぇ。何処か痛いとことか、無い?」


 家の中に入るとレイはベッドに腰掛けていた。声をかけてはみたものの返事はなく、ただ ボーッ とこちらを見ているだけで反応すらしていない。

 泣いているのかな?と思い、薄暗くて顔のよく見えない部屋の中に朔羅を立てかけると、レイの前に椅子を置き、そこに腰を下ろした。


 それでも反応の無いことを不審に思い覗き込んでみれば、虚ろに開かれた目は視点が合っていない。

 一目でレイの状態を理解すると慌てて肩を掴んで激しく揺さぶるユリアーネ。


「レイっ……レイ!?大丈夫?レイったらっ!」


 尚も虚ろな瞳のまま座るレイは何の反応も示さず置物のように座っている。

 思わずベッドに膝立ちになり抱きしめればユリアーネの豊な胸にレイの顔が包まれた。


「レイ……帰ってきてよ。辛いのは分かるけど逃げちゃ駄目なのよ。貴方は強くなるんでしょ?その為に村を出て旅に出たんでしょ?

 今だけは泣いても良いから……辛いなら私が側にいてあげるから……帰ってきてよぉ……レイ……お願ぃ」


 膝の上に座り、顔を見つめる。 レイの瞳に光はなく、ただ開いているだけの金色の瞳には涙を流すユリアーネの顔が写っていた。


 顔を近づけ静かに合わせた唇、それは彼女にとって生まれて初めての口付け。だがそれは乙女が思い描くような甘くトロけるようなものではなく、ただ砂埃の味がするだけの悲しいものだった。


「王子様わぁお姫様のキスで目覚めるのよぉ。レイ、起きてよ……」


 故郷を焼かれ、家族を失った。心に負った傷の深さから自分の殻に閉じこもったレイシュア。

 そんな姿に落胆し、崩れ落ちるように床に膝を突いたユリアーネはレイの太腿に顔を埋めて温もりを感じ取る。


 それはあたかも、愛しい男の哀れな姿から目を逸らそうとしているかのように……。




 ユリアーネが気が付いた時には辺りは闇に包まれていた。いつのまにか寝ていたようだ。

 顔を上げると虚ろな瞳のレイが同じ格好のまま座っている。


(これは夢なんかじゃない。私がレイを助けなきゃ!)


 このままでは駄目だと名残惜しくも立ち上がる。振り返る事なく家の外に出たのは万が一に備えて結界くんを設置する為だった。


 結界を張り終わり淡い期待を胸に戻って来たのだが、その願いは叶わず、座ったままのレイは微動だにした気配がない。


「よしっ!」


 二人きりの部屋に乾いた音が響く。両手で自分の頬を打ち気合を入れると自身の来ているワンピースの肩に手を掛け一気に脱ぎ去った。

 下着も外し、一糸纏わぬ姿となったユリアーネを壊れた窓から入る月明かりが照らす。その姿は神秘的で、レイに意識があったのなら見惚れていただろう美しい姿だったのだが生憎、今のレイにはそれを認識するだけの力が無い。


 それでも、レイに見られているという羞恥心がユリアーネの心で蠢く。


「やっぱり恥ずかしぃ……でもぉ、暗いから見えないよね!見えない見えないっ」


 自分自身に言い聞かせるよう言葉が洩れる。


 恥ずかしさを振り切り、座ったままのレイのシャツを脱がせ、丁寧にベッドへ寝かせると意を決してズボンを脱がせた。

 下着を脱がせれば生まれたままの姿。そうなればユリアーネも一人の女だ、視線はレイの男性自身に釘付けになる。


「これが、レイ……」


 顔に熱が溜まり、赤くなっているのが自身でもよく分かる。だが、興味から目を逸らすことが出来ずにいる自分にも気が付き、更に火照る顔。


「わたしって……やらしい」


 鼓動が高鳴り、心臓が飛び出ないかと心配になるくらい力強く脈打っている。

 未だかつてない緊張に逃げ出したい自分を見つけた。しかしここで手を引けばレイはずっとこのまま、生きる屍のままだろう。


「行くわよユリアーネ。レイを取り戻すのよ!」


 (かぶり)を振って耳元でうるさく鳴り続ける心臓の音振り払う。そして恐る恐る、レイ自身に向けて手を伸ばしていった。



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