迷走
高校2年生最後の春休み、僕と美晴は、和人と灯と共にダブルデートをした。
実は僕と美晴が付き合うよりも以前から、和人と灯は付き合っていた。明かされたのは僕達が丁度付き合い始めた時だった。
当時は度々ダブルデートもしていたが、大災害の後はそれも無くなっていた。
半年ぶりのダブルデートだ。
当然のことだが、和人は紛れもなく女性、灯は男性にしか見えなかった。
ダブルデートの後、相談したい事があると和人に呼ばれた。
僕が和人の家に行くと、和人は薄暗い部屋の中、ベッドに座りこんでいて、普段は見せないような辛そうな顔をしていた。
和人は、灯を女性として見られなくなっていることを、僕に打ち明けた。
とても悔しそうに。とても悲しそうに。
和人が、僕と同じ気持ちを抱えていたことに安心しきった僕は、ついその事を和人に伝えてしまった。
僕が肩を落としていると、和人は僕の前髪を片手でかき上げて覗き込んだ。
「お前……本当に宗太だよな……?」
和人と目が合った。部屋にうっすらと入っていた月明かりが和人を照らす。
切れ長の目でとても美しい女性の顔。僕も美晴もそうだったが、単純に身体だけが変化したわけではない。和人は骨格も声すらも、以前の面影は全くない。
和人は何か思いつめたような、何かを懇願するような眼を僕に向けていた。
とても美しく魅力的で、そして妖艶に見えた。
僕は怖くなった。
和人の事が怖かったわけではない。怖かったのは、心のどこかで何かを期待してしまった、僕自身の存在を感じてしまったからだ。僕は、僕自身に芽生えかけた、今まで感じた事の無い違和感に、恐怖という拒絶反応を示した。
その恐怖に強張った表情が、自然と顔に出てしまっていたのかもしれない。
僕を見つめていた和人が、突然はっと我に返ったような顔をした。
やがて和人は僕の髪から手を離して目を背け、肩を落とした。
「悪い……」
その後、和人は酷く落ち込んでいる様子だった。
見かねた僕は、思わず和人と2人で出かける約束をしてしまった。
その時は、あくまで同性の幼馴染と遊びに行くだけであると、軽く考えていた。