ガーディアンズ 3
難産でした
その割に、いつも以上に文章が拙いです
後日、気になる箇所を修正する予定
戦闘シーンもそれ以外も鬼門です
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白い湯気が、ゆらりふわりと浴室を満たしていた。
「ふわー、ビバお風呂! ビバ隣に美少女!」
これでお酒があったらパーフェクトなんだけどな。と、なんとも神様らしからぬリリノの発言だが、この浴室ならそう思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。温泉と見紛うほどに広い浴槽。外には小さな露天風呂まであるらしい。
花はといえば。神がかった美貌のリリノに褒められて、恐縮しっぱなしである。それにこんな広い風呂は初めてで、そわそわと落ち着かない。
ーー食事を終え、茶も飲み終え。「さて」とケイトが立ち上がる。
「リリノ、お前は花ちゃんを風呂と部屋に案内してやってよ」
「りょうかーいっ」
覗いちゃダメだぞ男子諸君、と言いながら、花とともにリリノも席を立つ。
「お前、俺たちが風呂入ってる時に平然と割り込んでくるだろうが」
「ほら、今回は花ちゃんがいるからね? それに、一緒にお風呂入ったって二人とも平然としてるでしょう。裸の付き合いは日本の伝統だよ?」
「やかましい。......ケイト、この後いいか」
「ああ、リーダーの仰せのままに。ローブだけ脱いでくるから、先に行っててくれ。リリノ、中庭に結界張っといてもらえる?」
「いつのもね、了解了解」
毎日のように繰り返されている会話なのだろう。主語のない会話の内容は、花には伝わらない。リリノに連れられ、自室となる場所へ向かいながら尋ねてみる。
「リリノさん、奏さんが“リーダー”って呼ばれていたのは......?」
「ああ、ラピュタにはそれぞれリーダーがいてさ。さっき出てきたアーサー王伝説のラピュタなら、リーダーは大抵アーサー王。まあ、リーダーって名称は使わず、“王”とか呼んでるみたいだけど」
リーダーとはつまり、物語の中心人物。すなわち、そのラピュタの中心、住人たちを纏める立場の者を呼ぶのだという。
「誰がリーダーになるかはそこそこ話し合ったんだけどさ。いつの間にか奏になってた。近くにいると意識しにくいものだけど、あのカリスマ性はすごいよ」
かつての出来事を懐かしむように、リリノは笑って言った。
「ここが君の部屋。私の部屋は隣だから、何かあれば声をかけてね」
リリノに案内された部屋は、適度な広さで、ベッドと机、棚が2つ置かれていた。「必要なものはまた買い揃えよう」、そう言ってリリノは花の手をぎゅっと握る。
「リリノさん?」
「さ、どんどん行こう!お風呂だよ、花ちゃんっ」
手を引かれるままに進み、着いたのはもちろん風呂である。花も身につけていた服を脱ごうと袖に手をかける。その動きが不意に止まった。リリノが衣を脱いでいる姿が気になって、ちら、と見てしまう。
和服を実際に見るのは初めてだった。十二単のような豪華な着物は『竹取物語』や『落窪物語』の絵巻で目にしたことこそあるが、リリノの服はお姫様が来ているようなものではなかった。
「あはは、この服が気になる?」
「すみません、着替えているところを見てしまって」
「いいよいいよ。これは水干。元は男物だったのを、私の丈に合うように仕立て直してもらったんだって」
他人事のような語り方だった。違和感を感じ、尋ねてみる。
「覚えてないんだ」
とリリノは言った。
元々いた世界、ラピュタのことを思い出そうとすると、記憶に霞がかかったようになってね。よく、思い出せない。水干のことも、ケイトから伝え聞いたんだ。
でもきっと、いつか失った記憶に正面から向き合わなきゃいけない時が来る。だからさ、その時に向けて、少しでも強くなっておかないとね。
ーー記憶の内容がどうあれ、今出来ること、やるべきことは変わらないのだと。リリノの考えは、花も「見習わなければ」と感じる、何処までも前を向いたものだった。
そして、冒頭に戻る。いい話が台無しだ。
すらりとした四肢。凹凸の......主に凸の主張の激しいリリノの体は、風呂の熱気で火照り、艶かしさを増している。異性だけでなく、同性すら魅了してしまえそうな肉体を惜しげもなく曝け出し、リリノは艶やかな髪に櫛を通す。
隣で体を洗っていた花が、そういえば、と顔を上げた。
「リリノさん、ケイトさんと奏さんは中庭で何をしているんですか?」
先ほどの会話。ダイニングを出る前、ケイトはリリノに中庭に結界を張るように頼んでいた。すでに結界の中であるラピュタに、二重に結界を張って何をするというのだろう。
「気になる?」
何故か嬉しそうに身を乗り出して、リリノがそう聞くものだから、その勢いに押されつつ花は頷いた。
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月明かりが照らす中庭。結界が張られたその場所で、奏とケイトは対峙していた。中庭の隅には、人形の黒い影が控えている。この影は、ダイニングを出ていく直前にリリノが寄越したものだった。渡された時には人の形をした紙切れだったが、中庭に吹く風に紙を乗せると、黒い霞が何処からともなく集まって人型を成す。リリノが「式」と呼んで使役する意思を持たない影が、彼女の命に従い中庭を一周する事で、簡易的な結界が完成するのだ。
「いつも通り、でいいんだよね」
「ああ。命は奪わない。それ以外なら何でもありだ」
互いに十歩ほど下がり、距離を取る。ちら、と式に目を向けると、式は無言のままに頷き、空に向けて矢を射った。
矢は空高く昇り弧を描く。そして中庭へと、向かい合う二人の中心へと突き刺さる。
それが、開始の合図。
瞬きのうちに、奏の視界からケイトが消えた。奏の右、後方。ケイトはそこに現れた。空間転移を使ったのではない。純粋に彼の動きが速いのだ。けれど身体能力では奏も負けていない。即座に反応し、振り上げられたケイトの足をくぐり抜けるようにして躱す。そのまま後ろを取り、がら空きの背中へ右拳を放つ。
その拳が当たることは無い。ケイトの姿が霞のように消える。空間転移がある以上、二人の手合わせでケイトの有利は揺るがない。だが、当たらないのは想定内だ。即座に後方へ飛びすさり、その場を離れる。中庭に生える木には近づくなんて愚は犯さない。頭上は空を駆けるケイトの領域。木を背にし、後方の安全を取ろうとすれば、枝葉の陰から奇襲をかけられるだけだ。
箱庭に来てから二年間。奏が毎日のように繰り返している日課が、夜の鍛錬だった。付喪とはいえ、神であるリリノが「人間離れしている」と賞賛するほどに奏の身体能力、格闘のセンスは優れている。けれど奏は武芸を学んだことがなかった。ここは箱庭。神が、悪魔が、人でないものたちが集うこの世界で、勘を頼りに身体を動かしても敵わない相手が山ほどいるのは、奏も理解していた。
- 箱庭に広がる空。ガーディアンズより遥か上。少し前、そこで二つのラピュタが滅んだ。神群同士が争い、相討ちという形で双方が滅んだのだと、ケイトから聞いていた。
ケイトが語るように、箱庭は暗く鬱々とした世界ではない。けれど、神は往々にして気紛れで傲慢だ。何気ないことがきっかけで、ラピュタ同士が争うことは珍しくない。神や悪魔、魑魅魍魎が跋扈するこの世界に住まう以上、いつ火の粉が降りかかるか分からない。
“火の粉”が奏の好む“面白いこと”であるとしても、巻き込まれるのは趣味ではない。巻き込まれるより自分から飛び込んでいきたい。喧嘩は買うより売っていきたい。その主義を貫く為にも、強くならねばならない。
ケイトは長い時を生きている。そして本人曰く、世界を渡り歩く中で厄介事にも散々巻き込まれてきたという。自分と同じく体術をメインにして戦う、経験豊富な先達がすぐ側に居るのだ。頼らない手はない。
「考えごと? 余裕だね、奏」
「まさか。お前を相手にしている時に、余裕なんてあるわけないだろっ」
動きを止めた奏をからかうように、ケイトが声をかける。言葉を返しながら地面を抉るように踏み切って、ケイトの懐に拳を繰り出す。またしても避けられる。
(かかったっ......!)
ケイトは確かに戦い慣れている。その動きには一切の無駄がない。ゆえに、ケイトは奏の拳を最低限身を躱すことで防いでみせた。突き出した拳が、ケイトの背後まで届く。それこそが奏の狙い。
くるり、と手のひらを返し、奏はケイトの背を覆う服を掴み取る。そのままぐい、と引いてやれば、自ら懐に飛び込んできた獲物を捕らえようと重心を前へと傾けていたケイトは、一気にバランスを崩す。空間転移する間など与えない。鈍く重い音と共に、奏の手でケイトが地にねじ伏せらる。
「あー......降参。今日は奏の勝ちだね」
「今日は、な。今までの戦績をトータルで見りゃ、まだお前には敵わん」
ケイトとて、軽口を叩きつつも真剣に手合わせに挑んでいる。鍛錬を始めてしばらくはケイトが圧倒していたが、少しずつ奏が勝ちを拾う日も増えてきていた。
「俺の癖を読むのが上手くなってるな、奏。あーあ、弟子が強くなってくのを見るのは寂しいものだね」
「お前はそういうがな、こっちは毎回お前の空間転移への対策を練ってきているんだ。それも、一度使った手は使えないから新しいのをな。勝たせてもらわないと困る」
「それについては俺も感謝してるさ。空間転移だって万能じゃない。だけど自分じゃその穴には中々気がつけないものだよ。お前のおかげで、『空間転移の対策の対策』ってやつが練れてるわけ」
明日は俺が勝たせてもらうよ。そうケイトが口にしたところで、賑やかな声が聞こえた。風呂上がりのリリノと花である。
「あー、もう終わっちゃったの?」
「お風呂で手合わせのこと、教えてもらいました。今日の手合わせはどっちが勝つか、賭けをしないかって、リリノさんが提案してくれたところだったんですよ」
「リリノ、お前ねぇ...」
「賭け、やったことがないのでちょっと楽しみでした」なんて花は言うが、神様が積極的に賭け事を勧めるのは如何なものだろうか、とケイトは考える。いや、古今東西、神様なんて碌でもない逸話を残しているのばかりだった。日本神話も中々にひどい。例えば、そう。リリノが敬愛してやまない三貴神の末なんか、やりたい放題もいいところだ。
「今来たとこか?」
「んー、もうちょっと前。奏がケイトの懐に飛び込んでいく辺り」
「お二人とも、かっこよかったです。私は目が追いつかなくて......リリノさんに解説してもらって、やっとどう動いていたのか理解できました」
む、とリリノが口を尖らせる。
「私だって花ちゃんにかっこいいところ見せたかったのに」
「リリノさんの結界も凄かったですよ。結界の外には、お二人の動きの振動が全く伝わってきませんでした」
ケイトたちの全力の鍛錬がラピュタや洋館に影響を与えないように、リリノが式に守りの結界を張らせていたのだ。先ほど、奏がケイトの懐に飛び込む時に強く蹴り込んだ地面。リリノの結界が無ければ、そこはクレーターのように抉れていただろう。
「ね、真剣じゃなくて木刀でいいからさ、ひと勝負付き合ってよ」
「素手で相手しろって言うの? 木刀で金属斬るやつを?」
冗談だろ、とケイトが引きつった笑みを浮かべる。「俺たちが刀持ってお前と向きあったって、瞬殺されるのがオチだろ。式を相手に打ち合え」と奏もケイトに同意する。
木刀で金属を斬る。そんなことが可能なのだろうか。
「えー......。いつもの鍛錬相手は式だけどさ、自分の式神相手に打ち合ったってあんまりかっこよく見えないような?」と悩むリリノを横目に、奏とケイトが彼女の特技を語る。
刃先が鋭く整えられているとはいえ、木刀で金属を斬ってみせるというリリノ。彼女は奏たちのように体術を駆使するのではなく、刀や槍、暗器などの武器をまるで手足のように扱い戦うのだという。その腕前が凄まじいことは、伝え聞いただけの花でも理解できた。
「そうだっ! 花ちゃん、あの木をよく見てて」
中庭の木のうちの一本を、リリノは指し示した。一度その木に近寄り、木肌を撫で「ちょっとだけごめんね」と囁く。木から離れ、花たちの近くに戻ったリリノの手には、一本の枝があった。先程の木の下に落ちていたものを拾い上げてきたようだ。
くるくると手の中で数回枝を回し、リリノは「よし」と呟いた。リリノと木の距離は15メートルほど。
「『願はくは、あの木の真ん中射させてたばせたまへ』、なんてね」
『扇の的』の那須与一のように、付喪神は目を閉じて祈りを捧げる。祈りを終え、凛とした瞳が正面の木を見据えた。
一陣の風が、空を切り裂いた。それが錯覚だと気がついたのは、枝が木を貫いているのが目に入ってからだった。完全な錯覚とは言い切れないかもしれない。刹那のうちにリリノが投擲した枝は、確かに空を切り裂いたのだから。
「これなら、ちょっとはかっこよくみえたかな?」
このくらいの枝なら、ちょっと長い棒手裏剣みたいな感じだね。あ、でも手裏剣なら「射る」じゃなくて「打つ」か。
軽い口調でリリノは言ってみせるが、今彼女が行ったのは「絶技」と呼び讃えても足りないほどのものだった。先が尖っているわけでもない自然に落ちた枝で、木を貫く。奏たちの話で理解したと思っていた彼女の腕前は、眼前で披露されてこそ、その真価を真に理解出来るものだった。
リリノが、何かを期待するような目で花を見つめる。その意味を察し、花は心からの言葉を彼女に送った。
「とっても、かっこよかったですよ。リリノさん!」
リリノにとってその言葉は、何よりの賛辞だった。花が咲くような笑みを浮かべる少女たちを微笑ましげに見つめつつ、奏とケイトは場を切り上げるために声を出した。
「鍛錬はそろそろ終いだな。花。今日一日、疲れただろう。部屋でゆっくり休んでくれ」
「リリノ。お前何だかんだで風呂上がりに動いてるけど、もう一度湯を浴びる?」
「浴びる! 花ちゃんを部屋に送った後に行くから、先に入ってて」
「お前また乱入してくる気か」
奏の言葉をさらりと聞き流したリリノは、「ちょっと待ってね」と花に、「先にお風呂行ってて」とケイトたちに告げ、先程の木の方へと歩いていく。どうしたんだろう、と不思議そうな花に対し、付き合いの長い奏とケイトは彼女の行動の理由を察する。
「おやすみ」と花に告げ、奏とケイトはリリノの言葉通り中庭を去る。その背中に「おやすみなさい」と花が返すと、二人はそれぞれ、軽く手をあげて応えた。
枝で貫いた木の肌を、リリノがもう一度優しく撫でる。すると、枝は溶けるように消え、木は心なしか葉の色が鮮やかさを増した。
『礼』なのだという。自らの腕試しに付き合ってもらった礼として、落ちた枝の力を木に還したのだと、リリノは言った。アフターフォローもバッチリなのでした、と茶化すように言うが、その心配りの細やかさは、モノに宿る付喪神であるが故、ということなのだろう。
式の姿を解き、人形の紙を仕舞う。「じゃあ行こうか」と花に告げたリリノは、穏やかで優しい表情を浮かべていた。
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まだ館の中にも慣れていないだろうから。そう言ってくれたリリノの厚意に甘え、再び部屋へと二人で戻る。
「それじゃ、おやすみ」
「リリノさん、ありがとうございました。おやすみなさい」
奏たちと同じように、ひらりと手を振ることで応え、リリノは自室へと入っていった。風呂の用意をしに立ち寄るのだろう。リリノはどうやら風呂が好きらしい。それを見送って部屋の中に戻りながら、かつて読んだ『古事記』を思い出す。
(そういえば、日本神話には温泉の神さまがいたような...)
『古事記』では、神産巣日神の子とされる小さな神さま。 温泉以外にも酒造や穀物を司る、蛾の羽を纏ったその神の名は、少彦名命という。大国主 の国造りに力を貸したという少彦名命の影響を、古事記の付喪神であるリリノは受けているのではないか。
ベッドに腰掛けてそんな妄想を膨らませる。事実かどうかは分からないけれど、そうだったら素敵だ。童話や神話を読んだ後に、その物語のifを考えるのが花の癖だった。
ふわ、と欠伸が漏れる。巡るましい1日だった。昨日までは、自分が森の外へ出ることすら想像していなかった。目に入る全てが、未知の世界。
ーーいつか会ってみたいと思っていた神様に会えた。何より、普通の人間に会えた。......奏を“普通の人間”という括りに入れていいのかは兎も角。自分とメルヘン以外の人間を見て、知ることが出来たあの時、今まで読んできた物語の中の住人たちのことを、心底から生きていると思えた。
ベッドに体を預け、目を閉じる。まだ、分からないことは沢山ある。
.....奏たちがメルヘンを怪しんでいるのは、分かっている。書庫の奥の隠し扉、その奥に本を置いておけるのは確かにメルヘン以外にはいない。けれど花はメルヘンと十六年、一緒に過ごしてきた。
花が好きな本をくれた。
森で摘んできた花を渡すと驚いたように笑ってくれた。その夜、メルヘンが摘んできたという花を贈りかえしてくれた。
花が笑うと、笑みを返してくれた。
メルヘンは花に沢山のものを贈ってくれた。彼の行動は全て、花の為を思ってのものだった。けれど、それを知っているのは自分だけ。
分からない。分からない。どうすればいいというのだろう。花はメルヘンを信じている。新たな仲間......家族のことも等しく信じている。けれど、手を貸してくれる新たな仲間たちは、メルヘンに不信感を抱いている。その理由も十分に理解できるから、どうすればいいのか分からない。
渦巻く思考が、ゆっくりと暗闇に落ちていく。次に目を開けたら、何が見えるだろう。見慣れた丸太小屋の天井か、それとも、空飛ぶ島に聳える洋館の天井か。
今日はどんな夢を見るのだろう。ただ暗闇の中に沈んでいくのは寂しい。夜も暗闇も好きだけど、寂しいのは好きじゃない。
今日の出来事のifを思い浮かべようとする。夢に見ようとする。
もしも、もしも今日一日が夢の中の出来事だったら。
目が覚めたとき、私は何を思うのだろう。
沢山生まれるであろう感情の中の一つだけが、はっきりと想像できた。
ー 異世界で出会った家族との縁が、夢でなければいい。
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「FGOをプレイしている身としては世界観が分かりやすい」という感想を頂きました
作者の最推し鯖は水着ネロです。宝具以外はパーフェクト。
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