答え合わせ 3
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「あ、待て、サタン」
奏の少し焦ったような声を聞いて、サタンは首を傾げた。
「何だ、小僧。まだ気になることがあるか」
「いや、忘れてた。俺の時と花の時で、“攻め手”の身体能力に差があるのは何でだ?いや、影を身体って言って良いのかは分からんが」
ふむ、とサタンは何かを考えるように目を伏せた。
「答えても良い、別に大した答えでは無いから期待しないように、とだけ言っておくが。......その対価に、俺の問いにも答えてもらおうか」
奏の肯定を確認したサタンは、満足げに口を開いた。つまるところ、アレはあくまで影であって、実態では無い。闇から影へと変わる方法が『迷宮に入り込んだ誰かがつくる影』に依存するのと同じで、その身体能力も、『誰か』に依存するのだという。
「なら、複数人があの迷宮に入ったらどうなるんだ? 影が二つに分かれて、それぞれに対応した強さになるとか?」
「......そういえば、複数人を放りこんだことはなかったな。たった今より、実験台大募集中だ。気が向いたらそこな同胞とでも応募してこい、小僧」
「次は俺の問いだな」とサタンが紅玉を煌めかせた。
「貴様、二年前に俺が出した、もう一つの問いを覚えているか」
「......そういやあったな、思いっきり忘れてた」
サタンが心底からの溜め息を吐く。だと思った、と言わんばかりの態度だが、忘れていたのは事実なので、大人しく謝罪の言葉を口にした。
「すまん、忘れて悪かった、サタン」
二年前、『迷宮の正体』と共に出されたもう一つの問い。「答えは分かったらで良いぞ」と魔王様が言っていたものだから、すっかり忘れていた。
『俺も聞きたいんだが。小僧、貴様......悪魔を体内に取り込んだのか?』
『いや、俺にも分からん』
『貴様、存外適当だなァ? ......取り込んだというわけでも無いのか。それなら俺の中から、取り込まれた分の悪魔の反応が消えるはずだし、感じ取れるはずだ。......おい小僧、報告は分かったらで良い、この件について貴様の方でも探ってみろ。自分の身体のことなんだ、俺や他の連中が探るより良いだろう』
......そんな話をしたような気がする。要するに『悪魔を取り込んだように見えたあの時、何が起こっていたかを把握し、報告しろ』というサタンからの宿題である。
「で、この二年間で分かったことはあるのか?」
「あると言えばあるし、無いと言えば、無い」
「何だ、はっきりせんな」
「悪魔を取り込んだわけではない、とは思う。あの時何が起きていたのかは、いまだに分からん。......強いて分かっていることを言うなら、アレ以降も特に体調、身体共に変化も異常も無しってことくらいだな」
「......まあ、良い。何か分かったら報告しろ、今度は忘れるなよ」
溜め息一つと軽く睨まれた程度で、魔王の許しを得られたのは幸いだろう。
何も分かっていないのは事実だった。何せ手がかりも何もない。二年前、悪魔について記された本を片っ端から集めて読み漁った記憶はあるが、めぼしい成果は無かったと記憶している。自身のことなのだから事の起こった直後はそれなりに気にかけていたのだが、余りにも変化も異常もないので、飽きて忘れてしまっていた。
変化が無いと飽きがちなのは、少々自省が必要かもな。なんて呑気に思うあたり、自身の思考には反省を感じられなくて、思わず笑ってしまいそうになる。誤魔化すようにテーブルの上のティーカップに手を伸ばす。
それとほぼ同時だった。
「......あ」
何とも言えない、色々な感情が混ざった二つの声が耳に届いたのは。
困惑や驚き、似たようで少し違う、様々な感情が篭った声を発したのは、リリノとケイトだった。何だ、と思いながら、彼らの視線の先を見る。
魔王の執務室の壁。そこに映し出されているのは、“迷宮”攻略中の少女。先程見たときには、確か、悪魔から逃げている真っ最中だった。サタン曰く、悪魔の身体能力は花に依存している、つまり、花と悪魔は互角のはずなのだ。だからこそ、多少は目を離していても大丈夫だろうと、あれこれ考えを巡らせていたのだが。
(そりゃ、ケイトたちも困惑しきった声をあげるよな......)
目に飛び込んできたソレを見て、奏がそう思ってしまったのも無理はないだろう。無意識のうちに、奏の口からも困惑が漏れた。
「......は?」
壁に映し出されていたのは、少女が盛大にすっ転んで、腕に抱えていた本を放り出す場面だった。
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