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P.B.S  作者: 春秋夏冬
一章 魔王の試練
15/36

答え合わせ

再演


一方、魔王の執務室では

 ---


「概ね正解、といったところか」


「概ね?」


 ゆっくりと言葉を吐き出したサタンに問いを投げかけたのは、奏では無くリリノだった。奏は、己の考察に何が足りなかったのかを考え込んでいる。そこに、音も立てずに扉を開け、ベルゼブブが戻って来た。


「“概ね”と陛下は仰いましたがぁ、奏さんが与えられていた情報で推測できる範囲の考察は、全て当たっておりますよ」


「聞いていたのか?」


「いえ。居なくとも、執務室内での出来事は大体把握出来るのですよ、私」


 私が常に見ていないと、陛下は本当に休んでくださいませんから。側仕えの笑みに魔王は反論しようとして、押し止まった。どうせ平行線の言い合いが続くだけだと、未来を予想する。ベルゼブブの心配自体はありがたく受け取る。ならば反論する必要は無いだろう。


「ベルゼの言う通り、小僧の有していた情報内での考察は当たっている。違うのは、“攻め手”についてだな」


「俺は“攻め手”......迷宮で襲いかかってきた影のような悪魔について『“迷宮のサタン”がかつて教会に送り込んだ配下の悪魔』と予想を立てたわけだが」


「......貴様、あの悪魔と戦って何を感じた?」


「ああ? ()()()()()、だな。確かに強かったんだろうし、どう倒すか考えるのは楽しかった。相手がどんな奴なのか考察しながら戦うのも楽しかった。でも、それだけだ」


「仮にも悪魔だぞ」と奏は言った。異世界に来て、本物の悪魔に会えて、それと手合わせ出来る。生まれた時から、世界に馴染まない異常な身体能力を持て余していた自分が、本気以上を出して、死に直面しながら戦える。そう思っていたのに。地獄の長(サタン)クラスで無い配下の悪魔とはいえ、もっと強いものだと期待していた。もっと命をかけてでも、永遠に戦っていたいと思わせてくれるようなものだと思っていた。


「奏も、中々に戦闘狂だよね」


「まさか、とりあえず誘き寄せて殴ってみただけで形が解けて消え去るなんて思ってなかったんだよ。戦いやすいように悪魔を迷宮内の開けたところに誘き寄せながら、あれこれ考察して倒し方を何パターンも考えたのは何だったんだ......」


 ケイトの苦笑いに、奏がそれ以上に苦い顔で答えるのを、リリノが制した。


「見て」


 不安を最大限に抑えたような声音を聞いて、リリノの示すものへと奏の視線が移動する。時折揺らぐ壁に映し出された、迷宮内の映像。奏が最後に見たときには花が迷宮内を歩いているところが映っていたが、再び視線を向ければ映像は一変していた。


 壁に映し出されたのは、光苔が照らす通路。立ちすくむ花の奥で闇が蠢く。花のすぐ横の壁は、強力な力で殴られたかのように大破していた。その壁の中でも、闇は蠢き形を変えていく。闇は影に変わり、一歩前へと踏み出す。それを見て、花は来た道を戻るように走り出した。


「出たな」


 “攻め手”......影を見て、奏は低い声で呟いた。かつて自分が対峙したそれと同じような影が、花を追いかける。その速度はさほど早くない。花と同じくらいの速度だ。先に走り出したというアドバンテージがある以上、花が立ち止まらなければ追いつかれることはない、ように見える。


 だが、と奏は映像を見て疑問に思う。己と対峙した時の影の動きと全く違う。あの時の影はもっと早く動いていた。常人の目では追いきれないほどの速度で動き、攻撃をしてきていた。何故、ここまで弱々しい動きをしているのか。これがサタンの言った“手は緩める”ということなのか。黙考する奏の頭の中を読んだかのように、ケイトが口を開いた。


「手は緩めるって言ってたけど、具体的には?」


「小僧の時は問答無用で初っ端から影に襲わせただろう。今回は、迷宮内を一周するだけの猶予をやった。その時間であの娘、何やら思いついたようだぞ」


「思いついた......?」


 にい、と笑みを浮かべたサタンの瞳は映像に向いたままだ。


「はてさて、娘はどの様に我が迷宮から抜け出て見せるのだろうな? 小僧と同じ方法を取るか、それとも......」


 続く言葉が幸運を示すものか、不運を示すものか、それを知るのはサタンだけだ。



 ---



 リリノとケイトは静かに壁に映る映像を見つめ、サタンとベルゼブブは薄く笑みを浮かべる。ベルゼブブがサタンのティーカップに茶を注いだ。今回は彼女のブレンドでは無いらしく、仄かに甘みのある香りが湯気とともに室内に広がる。


 揺らぐ映像の中で、花は時折後ろを振り向き、影と自分の距離を測りながら走っている。焦っているような、それでいて何かを考え込んでいるような表情を見て、今はまだ静観していても大丈夫だろうと奏は判断する。


 サタンは花が『何かを思いついたようだ』と言っていた。この状況で思いつくと言えば、普通は迷宮から抜け出す方法のことだろう。


 しかし、アレは、そう簡単に思いつくものでは無い。迷宮から抜け出た時、自分は()()()脱出方法(・・・・)を把握しきれていなかった。脱出方法に気がつかなくても、ある条件を満たせば、あの迷宮から抜け出すことは容易なのだ。


 正しい脱出方法を思いつくのはほぼ不可能。ならば、花は何を思いついたというのか。


(......迷宮の正体、しか無いよなぁ?)


 さて、あの少女は何処まで気がついたのか。ベルゼブブとサタンによって、己の考察が唯一つを除いて合っていることは確定した。


 一つ。“迷宮”はキリスト教会の床に描かれたものが元になっていること。

 一つ。“迷宮”を元にキリスト教会を滅ぼし、並行世界を生み出した悪魔(サタン)がいること。

 一つ。箱庭に招かれた“迷宮のサタン”は、三千年前に終結した争いの中で、同一体殺し......“魔王サタン”に喰われ、その力を奪われたこと。

 一つ。“魔王サタン”は喰らった同一体の力、特性を行使出来ること。


 --二年前を思い出し、間違い......即ち“攻め手”に対する考察を、もう一度やり直す。


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