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「…いたっ!」


マリーネは声を上げた。

それまで必死に声を押し殺していたが、ワザと恐怖を与えるようなシリウスの乱暴な指にマリーネは意図も簡単に傷付けられ、その痛みから声を上げられずにはいられなかった。

シリウスもその違和感を感じ取り、手を止めて、マリーネから離れた。

その開放感からマリーネは痛みに耐えるように思いっきり閉じていた瞼を開いて、恐る恐るシリウスを見る。

シリウスは自身の指に付着したマリーネの血を確認するように見ていた。


「…初めてだったのか?」


シリウスはベッドの上に横たわるマリーネにたずねる。


「…はい。」


それがどうしたというのだろうか。

マリーネの純潔は夫に散らされるためにあった。

それがどんな酷いやり方であろうとも。

マリーネは怯えた表情でシリウスを見ていた。

受け入れる覚悟はできていたが、ただ、乱暴に触れられた感触と恐怖はマリーネの中に色濃く残っている。


「…そうか。」


それだけ言い、マリーネに視線は向けられること無くシリウスは部屋を出て行ってしまった。

静まり返った部屋の中でマリーネは一人残される。

マリーネはもう触れられることの無い安堵感と、妻としての役割も担うことのできない不甲斐なさから涙を流していた。



「結婚して早々、私たちが来てよかったのかしら?」


アイルがマリーネにたずねる。


「多分大丈夫よ。結婚といってもさっぱりとした感じだし、慣れない所で一人篭るよりも気が紛れるわ。」


マリーネは屋敷を訪れたガイルとアイルとお茶を飲んでいた。


「ほら、姉上も慣れぬ所で戸惑っておられるのだ!姉上が望むならいつでも実家に戻って来られると良いですよ!」

「そこまでは言ってないのだけれど…」


ガイルの突拍子もない発言も今のマリーネにはとても癒されるものだった。

下半身に残る鈍痛を抱えつつも、マリーネは自然と笑顔になる。

式の翌日に訪ねるなんて普通は考えられないかもしれないが、ガイルの行動力にはマリーネの不安を和らげ、また明日から家族の未来を思って頑張れるような気がした。


「なんだ?お茶会か?」


招かざるこの家の主人にマリーネは振り向いて、頭を下げた。


「申し訳ありません。旦那様はお仕事だったと思うのですが、いかがされたのでしょうか?」

「この家の主人が家に帰ってきて何が悪い。」

「…申し訳ありません。」


マリーネがシリウスにそう言ったあと、振り返ると今にも言い返そうとしているガイルと目があった。


「来てくれてありがとう。私はもう大丈夫よ。」


マリーネはガイルとアイルをそれぞれ抱きしめた。

頑張ろう。

マリーネの胸に温かいものが広がる。

自分の為に頑張ろうとすると心が折れてしまいそうになるが、二人の為にと思うと強くなれる気がした。

マリーネは二人を送り出し、自分の夫であるシリウスと向き合った。


「お待たせいたしました。何かご用事でも?」


そのまま去らずに居るということは、シリウスはマリーネに用事があるのだろう。

マリーネはシリウスの瞳を見ていた。

これが他人の私に対する瞳。

きっと大多数は彼の様な瞳で私を見ている。

マリーネはそうだと分かっていた。


「いくつか質問がある。今まで君は何をしていた?」

「弟や妹やお茶会ですが?」

「違う、今までの君の生活だ。」

「見てわかる通り、醜い姿ですから息を潜めておりました。」


そう言ってマリーネは自分の浅黒い肌が露出した腕を撫でた。

ガイルともアイルとも似てない肌は、マリーネがどれだけ屋敷に篭ろうとも、どれだけこすり落とそうとも、白くなることは無かった。


「…それは両親に言われて、か?」

「いえ、全く。両親も弟も妹も私の醜い姿を憐れんで、決して無体なことはされませんでした。」


その優しい違和感はチクチクと痛んだけれど、確かに家族の優しさだった。

反抗期のガイルの言葉も、世間の言葉、いや、もしかしたらもっと言われていたかもしれない。

ガイルは唯の一度も両親の子ではないとは言わなかった。

阿婆擦れだとか事実ではないことを言われることはなかった。

マリーネは優しい家族という繭の中で甘えていたのだ。

繭から出れば厳しい言葉を掛けられるのは分かっていた筈だった。


「この様な醜い姿では悪く言われるのは必至ですから。」


私に優しい家族が、私が外に出るだけで何か言われるなんて耐えられない。

よそよそしくとも、余りものの家族かもしれないけれど、愛しているの。


「…すまなかった。」


合わせていた目を逸らし、自分の言葉を反芻するように伏し目がちになったマリーネに掛けられたのは意外な言葉だった。

パッと見たシリウスの顔は後悔の滲むような表情をうかべている。

それがマリーネを阿婆擦れだと罵ったシリウスの発言とは到底思えなかった。

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