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マリーネは緊張した面持ちで、相手方の応接間に座っていた。

夜会の時に男性と話した経験はあれど、その時とは違った緊張感がマリーネを襲う。

マリーネの両隣には父と母がそれぞれついてくれていたが、マリーネにとっては失敗できないプレッシャーになっていた。

ただ単に両親が望んでいるからではなく、両親に認められたいという欲がマリーネ自身の念が重くのしかかっていたのだ。

ドアを叩く音がマリーネの心臓を直接叩くように響く。

マリーネたちは席を立って相手家族が部屋に入るのを待っていた。

父親らしき男性と、当人らしき男性、そして母親らしき女性…順にマリーネは目に入ってきたが、その母親らしき女性を見つけた時に小さく声を出してしまった。

そんなマリーネを見て、女性は優しく微笑む。


「お久しぶりですね、マリーネ様。」


マリーネは声を掛けられ、慌てて頭を下げた。


「お久しぶりです。その際はご迷惑を…」

「いいえ!私の方こそお召し物を汚してしまい、申し訳ありません。」


マリーネが謝るのを遮り、女性は謝るが、それを見ていた父親らしき男性がコホンと咳払いして二人の会話を止めた。

まずは正式な挨拶を、ということだろう。

お見合い相手の母親らしき女性はなんと、初めて参加した時にマリーネがぶつかってしまった女性だった。

マリーネは恐縮する思いもあったが、そのことで幸いにもお見合いに対する意識は薄らぎ、その後は相手側に見知った女性がいたと言うことで、マリーネは少しだけ肩の荷を降ろすことができた。


「わたくしが居ては、わたくしばかりがマリーネ様とお話ししてしまいますわ。お家のことはわたくし方でお話しして、当人同士はお庭でも巡ってきてはいかがでしょうか?」


女性はマリーネの見合い相手の叔母であり、後ろ盾である人物であった。

その女性から促されるがまま、シリウスという名のお見合い相手はマリーネに手を差し出し、マリーネもその手を受け取る。

このまま結婚してしまうのかしら?

マリーネはお見合い相手の顔を見た。

緊張して気づかなかったものの、シリウスは端正な顔立ちをしており、いかにも社交界の華といった人物である。

物腰も柔らかで、女性のエスコートもすごく上手い。

マリーネは不釣り合いなお見合いに疑問を抱きながら、中庭へと手を引かれて行った。


「どうやって取り入った?」


中庭に着くなり、繋いでいた手は投げ捨てられ、マリーネに険しい視線と言葉を投げつけられる。


「…取り…入った?」


マリーネはシリウスのそのギャップの激しさに何が起こったのかわからなかった。


「申し訳ないが、君を受け入れることは決してできない。こちらからの申し出で断るのは角が立つ。君から断ってくれないか?」


恫喝されるように、顔を近づけてそう言われ、マリーネは声も出さずにただこくりと顔を縦に振った。

これがマリーネ初めてのお見合い。

マリーネは驚いてはいたが、こんな自分を受け入れてくれる人が少ないことは分かっていたので、なんの疑問も持たなかった。


「物分かりが良くてよかったよ。こちらも酷いことはしたく無いからね。」


マリーネの見開いた瞳に妖しく笑う美しい青年が映っている。

その歪んだ笑顔はマリーネを傷付けること厭わないと言わんばかりだった。

…私はそこまでされなければならないほど、醜い人間だろうか。

マリーネはそうも思ったが、生まれながらに夫婦に、家族に、波風を立たせてしまう自分の存在を思い出し、小さな戸惑いを消し去った。

私は…そんな存在だからこそ、頑張らなければ…

焦点の合わぬ景色を眺めながら、マリーネはそう決心した。

きっと…若い人なら誰でもいい人とか、大きい胸が好きな人とか、はたまた介護が必要な人とか世の中にはいるかも知れない。

だから、諦めるのはまだ早い。


「もう、いいでしょう。さあ御手を。」


マリーネは仕方なく差し出された手を取り、来た道を戻った。


「お帰りなさい。」


ドアを開けると彼の叔母がにこやかに二人を迎え入れる。


「ただいま戻りました。」


シリウスは先程までのマリーネに対して浮かべていた侮蔑や害意の含みがない、柔らかな笑みを見せていた。

マリーネは少し惨めに思いながらも、仕方ないと笑顔を作る。


「うちの甥っ子はどうだったかしら?」


予期せず彼の叔母から感想を聞かれて、マリーネは固まってしまった。


「是非とも私もお聞きしたいです。」


マリーネが話し出すのを促すように、シリウスがマリーネに笑顔を向けてたずねた。


「…わ、わたくしには勿体ないくらい素晴らしいのお方でした。」

「そんなことないわぁ!でも私はお似合いな二人だと思うの。」


彼の叔母に追随してマリーネの両親が頷く。

その示し合わせたような反応に、マリーネは心の中で一歩引いてしまっていた。

私は…この中で破断なんて言えるのだろうか…

初めて向けられる両親の心から嬉しそうな表情に、マリーネは胸が締め付けらる思いで一杯だった。

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