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「…私にお見合いの話ですか?」
マリーネはぽかんとしたまま、父親を見ていた。
「そうだ。しかも格上の伯爵家だ!何故かわからんがでかした!」
我が家のお荷物こと、マリーネの縁談にマリーネの父は興奮していた。
「アイルのことではなくて、ですか?」
マリーネはまだ事態が飲み込めないのか、目を丸くしたまま首を傾げて父に問う。
普通ならばアイルに縁談があるはずだとマリーネは信じて疑わなかった。
妹のアイルは姉の欲目を抜いても可憐で可愛い。
そして明るくて人付き合いも上手で貴族の夫人としてはうってつけの人材である。
格上の伯爵家ならば尚のことマリーネの筈がない。
「マリーネを直々にご指名だ!」
まるで奇跡が起こったかのように喜ぶ父にマリーネは疑問よりも、まずは安堵を覚えた。
正確に結婚が決まった訳ではないが、人として最低限の価値はあると言われたようで、ようやく家族に迷惑をかけない未来への光明が見えたようで、マリーネは嬉しかった。
努力してよかった…苦しかったけれど、頑張ってよかった。
お見合いについて詳細を確認した後、マリーネは部屋の中でホロリと涙を流して喜ぶ。
でも、まだまだよ!結婚するまでは!
マリーネは気を引き締めた。
「姉上!お見合いの話は本当ですか!?」
ガイルは何度言い聞かせても、確認もせずにマリーネの部屋に入ってくる。
「本当よ。ガイル、着替えしたりもするから、ノックはしてね?」
「はい!姉上!」
ガイルは返事だけはいいが、しっかりとあわよくばを狙っていての行動である。
「それよりも姉上はお見合いを望んでいるのですか?」
ガイルはマリーネの頰にある涙の跡に気づいて手で拭う。
「ええ。いつまででも貴方のお荷物で居たくないの。私…家のため…貴方のためになりたいの。」
「それこそ、私のためにずっと…」
上目遣いで見つめるマリーネを受け入れようと手を伸ばそうとした瞬間、またドアが乱暴に開かれる。
「お姉様!玉の輿おめでとうございます!」
流石双子と言うべきか、アイルもノック無しで部屋に飛び込んできた。
チッ。
舌打ちが聞こえてきたような気がするけれど、聞き間違えよね。
マリーネとガイルの間にアイルが滑り込むと、遠慮なくマリーネの胸の中に飛び込んだ。
因みにアイルはワザとである。
アイルの頭を一度弾いた胸は暖かく、柔らかくアイルを包み込むように受け入れてくれる。
その母性溢れるおっぱいにガイルとアイルは目覚めてしまっていた。
「気が早いわ、アイル。」
マリーネがアイルの頭を子どものように撫でると、アイルも心地よさげに顔をマリーネの胸に預けた。
「少し寂しいですが…お相手は格上で容姿も素晴らしく真面目な方とお噂の方…お姉様にお似合いですわ。アイルはお姉様の幸せを一番に祈っております。」
「ありがとう、アイル。アイルの方が先にお嫁さんになるとは思うけれど、私もアイルの幸せを一番に願っているわ。」
マリーネとアイルが寄り添う姿は美しき姉妹愛と言ったところだろうか。
しかし、それを見ていたガイルは苛立ちを隠せずにいた。
そんなガイルをマリーネはなだめるように優しい表情で見つめる。
「ガイル、心配してくれているの?私は大丈夫よ。貴族の娘として、やれる限りやってみるわ。ガイルの幸せも一番に願っているわ。」
「お姉様!それでは言っていることが違いますわ。」
「ふふ…ごめんなさい。アイルとガイル、どちらかがなんて決められない程、両方とも大切なの。許してちょうだい。」
マリーネはそう言ってまたアイルをギュッと抱きしめた。
抱きしめられたアイルはマリーネの胸の上で緩みきった表情を浮かべている。
ガイルは怒りを忘れてそれを羨ましそうに眺めていた。