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「ガイル!」


心細かったマリーネはガイルに飛びつくように駆け寄る。


「姉上、大丈夫でしたか?」

「ええ。部屋に誘われても行かなかったわ!でも、ドレスを汚してしまって…」

「部屋に…誘われた?」


それを聞いたガイルは驚いた表情で固まっている。


「聞いてはいたけれどちょっと怖かったわ。」

「…因みにそれは誰ですか?」


マリーネはガイルを心配させないようにとおどけたように話すが、話を聞いたガイルはマリーネの肩を持って真剣な表情で問いただした。


「名前は聞いていないですけど…私には夜会は合わないみたいね…」

「そうです、姉上。姉上のような清純な方には夜会なんて似合いません。」


最近、ガイルの姉びいきが過ぎるが、その持ち上げ方は大袈裟すぎてマリーネには冗談にしか聞こえなかった。

こんな浅黒い私が清純なんて似合わないわ。

そういうのは真っ白い絹のような肌をした、砂糖菓子のように繊細で美しい女性に言うものよ。

マリーネはそう思う。

対してマリーネは性格こそは清純かもしれないが、その見た目は血が滴るような分厚いステーキのように胸焼け必須な色気を放っている。

更に言えば顔立ちも派手で、浅黒い肌がどこかエキゾチックさは一筋縄にはいかないが触れられずにはいられないようなスパイシーな感じもある。

何より家族をギクシャクさせてしまった昔の自分を戒めのように思い出して、マリーネはどんな家族や周りの称賛も受け取れずにいた。


「清純なんて、良くいいすぎよ。物知らずで臆病なだけだわ。」


マリーネはクスクスと笑い、ガイルとの会話でやっと普段通りの落ち着きを取り戻した。


「こんばんは、ガイル。珍しい方をお連れで。」


二人が話していると、ガイルの友人らしき男性が数人話しかけてきた。


「ああ。今帰るところなんだ、済まないな。」


ガイルはマリーネの腰に手を当てて抱き寄せると、素っ気なくそう友人に言い放ち、踵を返した。


「ガイル…友人なんでしょう?いいの?」

「いいの。」


マリーネが申し訳なさそうに友人とガイルの顔を交互に見るが、ガイルは出口へとスタスタと進む。


「隣にいらっしゃる彼女を独り占めしたいからって、それは無いんじゃないかな?」


少し離れたところで、友人たちは大きな声でガイルをからかう。


「ガイル、彼女なんて…勘違いされてしまったわ。」

「いいよ。勘違いさせた方がいいから。」


マリーネはガイルと友人たちを仲違いするのではないかと、心配しながらガイルを見るが、ガイルは振り返るでもなくそのまま会場を後にした。

会場を出ると、ガイルはマリーネの腰に当てていた手に力を入れて抱き寄せる。

しかし、マリーネの豊満な胸がポヨンとガイルの胸に当たり、近づくのを邪魔をした。

ガイルの喉がゴクリと鳴る。


「お姉様!お帰りはダメですよ!」


ちょうどガイルが何かを話そうとした時、二人を見つけたアイルが二人を制止する。


「アイル?アイルも来ていたのね。…でも…私…残念だけど、ドレスを汚してしまったの。折角アイルが選んでくれたのに…」


マリーネはションボリと報告すると、アイルもしょうがないと兄弟三人で仲良く帰ることになった。

ガイルとアイルと普通に話しながら一緒に居れるなんて幼い時以来かもしれないわ。

マリーネは馬車の中でそれだけでも来た甲斐があったのだと思った。

けれど、夜会自体はやはり自分の実力不足を否めなかった。


「やっぱりダメだったわ…私にはお見合いがいいと思うの。後妻とかならば私にもお呼びがかかるかも知れないし…」


マリーネがポツリと呟く。

マリーネは今日の夜会ですぐにつまみ食いされそうになった恐怖とドレスを汚してしまうという自分の失態ですっかり自信喪失していた。


「姉上は結婚せずとも…」

「ガイルは黙ってて!お姉様は後妻と言わず、その気になれば玉の輿だって乗れるポテンシャルはあります!たった一回で諦めてはいけません!戦争だって諦めたらそこで敗北です!」


アイルは喋ろうとしていたガイルを制止し、何かが乗り移ったかのように熱弁を振るう。

その姿にマリーネは唖然としながらも、どこか心強さも感じた。

アイルってこんな性格だったのね…

マリーネはアイルの新たな一面を見れて嬉しく思う一方で、以前はその一面を見せることができないほど気を遣わせていたのだと、深く反省する。


「ありがとう、アイル。慰めてくれたのよね。お姉ちゃんは大丈夫よ。みんなに迷惑かからないように頑張るから。」


マリーネは首を傾げて微笑む。

その微笑みに男子のガイルだけではなく、女子のアイルまでもが頰を赤らめた。


「…お姉様はまだ自分の魅力を分かっていませんわ…」


アイルは小さな声で呟く。

隣でガイルが無言で頷いていた。


「…でも、ガイルに恥をかかせてしまったわ…」


マリーネのエメラルドグリーンの瞳が涙で潤んでいく。


「姉上!?」


ガイルは焦り、アイルはそんなガイルを冷たい目で見ていた。


「…せめてアイルとガイルお友達に紹介できるくらいには頑張らないと…」

「あれはっ…違っ…」

「お姉様は私たちの宝なのです!きっとガイルは宝は隠すタイプなのです!犬みたいに!」

「犬って…でも姉上を不埒な視線に晒したくないのは本当です!」

「二人ともいいの…気を遣わなくて…ガイルも前みたいに素直に言っていいからね…」

「ああああ…!」


ガイルの叫びが馬車の中に響く。

自信なさげに身体を丸めてメソメソと涙を流すマリーネをガイルとアイルは必死に慰めつつ、屋敷へと戻った。


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