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シリウスと出かける当日、マリーネはいつもに増して服装にこだわっていた。

前のお茶会でのことを気にしてか、服もお化粧もこだわって地味に、大人しく見えるようにあつらえる。

が、主張の激しい胸と顔は非情にマリーネを悩ませた。

最後に青いガラス玉のイアリングを耳につける。

マリーネは鏡の前で二転、三転と何度かクルクルと回る。

喜ぶように、というか、気を悪くさせないように。

少しだけ浮かれる気分を戒める様にマリーネに自分に言い聞かせた。

鏡に映ったマリーネは頑張った甲斐あって、身体の厚みが前よりも無くなり、胸も少しだけ目立たなくなっている。

マリーネは安堵のため息をついて、シリウスが待つ玄関前に向かった。


「…すごく綺麗だ。」


そう言ってマリーネを迎えたシリウスの笑みに嘘は無いように見える。

見れるがマリーネは複雑な顔になっていた。

シリウスが前に買ったイアリングに気づいて、そっと触れる。


「あっ…」


無防備に出たマリーネの吐息に二人とも顔を赤らめ、沈黙する。


「…では、行こうか。」


一息ついて、シリウスがマリーネに語りかけ、それと同時に手を差し出した。

マリーネが困惑して手を取れずにいると、シリウスは自ら手を伸ばし、マリーネの手を握る。

そのことにマリーネは初めこそは驚いたが、それが落ち着けば安心に変わった。

二人手を握り、馬車へと乗り込む。

ただのエスコート、だけれども手を繋いでこんな気持ちになるまでには随分と時間がかかったような、そんな気がした。

マリーネは下を向いて緩む表情を隠し、シリウスはそんなマリーネに気づきながらも、見ないふりをした。


「…ここからは私一人で…」


マリーネは目的地である宝石店の前でシリウスを制止する。


「店主と言えど男と二人っきりというのは良くない。」


先程まで上機嫌だったシリウスの顔は途端に険しくなっていた。


「メイドを連れて行きますので…」

「それだと私だけダメだというのは納得いかない。」


不機嫌を隠そうとしないシリウスとその顔色を伺って萎縮したマリーネは小さく息を吐いた。


「…わかりました。」


マリーネはシリウスを連れて店へに入り、店主と交渉する。


「カフスを作りたいのですが…」

「それは男性用と女性用どちらで?」

「…だ、男性で…」

「デザインはいかが致しましょう?」

「黒の宝石で良いものがあればそれを…デザインはあまり目立たないようシンプルなもので…」


シリウスの視線がマリーネに注がれ、マリーネの声はどんどんと小さくなっていく。


「他には買わないのか?」


一通り注文を終え、シリウスの問いにマリーネは体をビクつかせた。


「ええ。特には…」

「…しかし、せっかくだから何か欲しいな。」

「もしかして欲しているものがあるのですか?」

「いや、君のだが?」


噛み合わない会話にマリーネは一瞬きょとんとしたが、慌ててその申し出を断る。


「私は大丈夫です!…お気に入りがありますから…」


恥ずかしげに俯いたマリーネの耳に青いガラス玉のイアリングが揺れる。

シリウスは破顔する表情を抑えながら、心の中で思いの丈を叫んだ。

しかし、対面は冷静さを保ち、小さく咳払いをして息を整える。

店を出て、マリーネはふと周りを見渡した。

なんだか体がいつもよりも軽い気がすると気づいたのだ。

屋敷の中や夜会の時とは違い、息をするたびに空気が胸を通り清々しい気分になる。

部屋を出ればきっと傷つく羽目になると思っていたのに、街の中は自由で、頭に掛かっていた靄も晴れて行く。

隣を見ればシリウスがいて、そして、それが許されるような気がした。

もし、私たちが貴族という称号がなければ幸せだったのだろうか?

それはそれで側にいることは出来なかったとマリーネも理解できる。

今を…大切にしないとね。

マリーネはシリウスの顔を見つめると、シリウスは優しい笑顔でマリーネを迎えてくれた。

つかの間の幸せをマリーネは深呼吸するかのように楽しんだ。

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