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マリーネの腫れぼったいまぶたのせいで狭くなった視界には、既に登っている日の光が差し込む明るい部屋が広がっていた。
ドレス…
マリーネは思い出して、今来ているドレスのスカートの見つめると、無残にもシワだらけになってしまっている。
しかし、昨夜体が鉛のように重くて後回しにしてしまったドレスが着替えた時と同じようにマリーネの心の中で宝物に戻っていることに安堵を覚えた。
シワを伸ばすにはどうしたらいいのかしら?
取り敢えず脱ごうとするが、背後で縛ってあるドレスの紐を解くにはマリーネ自身ではかなり難しい。
人を呼ばなきゃ…
そう思うと、昨日の王女の言葉を思い出して暗い気持ちになった。
誰だって嫌よね、私みたいな薄汚い人間に触れるなんて。
昨日の無力感が舞い戻ってしまったマリーネは脱ごうとした手を止めて途方に暮れていた。
そんな時にドアの叩く音が聞こえ、マリーネは一度深くため息を吐いて返事をする。
「…どうぞ。」
部屋に入って来たシリウスはドレスと時と同じように再び輝いて見えたが、決して届かないという想いにマリーネは切なくなってしまう。
「…その格好のまま寝てしまったのか?」
「…すみません。」
挨拶よりも先に驚いたような表情をして問うシリウスにマリーネは申し訳無さそうに肩をすくめた。
昨日は上滑していたシリウスの言葉も、今日は非情なくらいにマリーネの心に突き刺さる。
「いや、謝らなくていい。たが、楽な格好に着替えた方がよいだろう?今すぐメイドを呼んで…」
「いや…あの…今は大丈夫です。」
「…」
今は誰にも触れられたくない。
蔑む目で見られるのは苦しい。
そう言ったことをシリウスに伝えるなどできなかったが、マリーネの言葉に何かを感じ取ったようにシリウスは黙った。
マリーネはシリウスから視線を外し、ため息を吐いてしまう。
シリウスがマリーネのことを憎んでいた過去は消え去ることもなく何度もマリーネを打ちのめし、現実を教えてくれる。
「…あと、少しでも食事をした方がいい。」
しんとした部屋の中でシリウスの声が浮かび上がるように鮮明に響いた。
できない約束にマリーネは気まずそうに無言を貫く。
何をしても白くはならない肌の代わりに、華奢な身体になることでマリーネはシリウスの隣に存在してもいいと思える自分を保っていた。
特に今日は昨日のことがあってか、とてもじゃないが物を食べる気にはならない。
「…嫌いになったか?」
シリウスの問いに、マリーネは思いっきり顔を横に振った。
「…けれど、もう無理だろう。」
無理…無理なのだろう…シリウス様は…もう、私を側に置く価値を見出せなくなった、そういうことだろうか。
歪むシリウスの顔が自分に向けられた憎悪のように見え、マリーネにさらに追い討ちをかける。
ずっとわかっていたの…そばにいても愛されないことを。
それでも諦めきれずに、最後の最後にこの恋心が断罪されるまではと、しがみついてしまう愚かな自分が悲しい。
マリーネは開けば未練がましいことを口走りそうになる唇を噛み締め、シリウスを見つめた。
もしかしたら、今後一生会うこともなくなるかもしれない。
素敵な人と結ばれる風の噂を聞くことになるかもしれない。
…そんなの嫌…嫌なの…
この人と一緒に居られる時、幸せだった。
まるで自分が普通の人間になれた、そんな風に勘違いしてしまうくらいに。
初めてのお花畑と喫茶店、自分の身体にピタリと合うドレスに、彼と同じ色のアクセサリーたち、それに私の話に耳を傾けてくれて、ふとした時に蕩けるように甘い笑み、何度思い出してもそのどれもがマリーネの中で眩しいくらいに輝いている。
自分には過分なことだと知りながらも嬉しくて止まらなかった。
頭がぐわんと揺れると同時に心臓が強く跳ね、マリーネはその痛みに胸を抑えた。
はしたなく開けっ放しになってしまった口からは犬のよう息が漏れる。
口を閉じないといけないと思いながらも、苦しさから自然と開いてしまう。
これ以上嫌われたく無い…
気づけば涙が溢れて、更にぐちゃぐちゃになっていく。
早くシリウス様を解放してあげなくちゃ行けないのに…
目の前が白黒したかと思うと、マリーネはそのまま意識を失ってしまった。




