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「姉上に何をした?」


その声と同時にマリーネは背後から抱き寄せられた。


「何も、されてないわ…ガイル…」


マリーネは自身より背の高くなったガイルを見上げならそう言う。


「けれど、姉上はお辛そうな表情を浮かべていました。」

「それは…」

「それじゃあ、大切なことは伝えたことは伝えたから、失礼するよ。」


男がさらりと逃げるように去っていった後、マリーネはガイルの顔をじっと見つめいた。


「姉上、よければひと気のない場所にでも移りませんか?」

「…ええ。少し外の空気を吸いたいわ。」


瞬きもせずにマリーネはそう言う。

邪な気持ちを滲ませていたガイルも、人形のように固まってしまったマリーネを前にその気持ちはすっかりと消え去ってしまった。

マリーネは見守ってくれていたアイルとその友人方に声をかけた後、ガイルに手を引かれ共に庭の外へ出た。

小さなベンチに腰掛けるとマリーネは小さく溜息を吐く。


「疲れてしまったのですか?」


ガイルに問われてマリーネは静かに首を横に振った。

夜風は心地よい涼しさでマリーネの火照った頰を冷やして行く。

ぼーっと一点を見つめるマリーネをガイルが抱きしめる。


「姉上、本当にお辛いのなら、家に戻られても良いのですよ。僕が姉上を一生幸せにします。」


「もう、調子がいいんだから」とガイルの冗談を笑い飛ばすのに、今日のマリーネには優しく染み渡るようだ。


「ありがとう。ガイル。でも本当に大丈夫なの。」


マリーネはガイルを抱きしめ返す。

幼い頃、ガイルやアイルが風邪をひいて苦しんでいると、いつも変わってあげたいと思っていた。

マリーネはそのことを思い出していた。

同じように、もしシリウスが苦しんでいるのならば変わってあげたい、そう思えるくらいに自身の中で大切な存在になっていることにマリーネは気づく。

そして、ガイルが私を抱きしめてくれたように、マリーネもシリウスのことを抱きしめたい、シリウスが悲しむ時に寄り添う人間でありたいと同時に願った。

そんなことをしたらきっと嫌がられるから、マリーネはしないし、できない。

それが、酷くもどかしいのだ。

互いに身体を離すと、マリーネはガイルを見つめる。

抱き合っていた時にも薄々感じてはいたが、マリーネよりもすっかり高くなった身長と逞しくなった身体に、ガイルも大人になったのだと、マリーネは感慨にふけっていた。


「姉上…」

「なぁに?ガイル?」


ガイルがマリーネの頰を優しく撫でる。


「お姉様!」


アイルが飛び出すように二人の前に出てきた。


「アイル?どうしたの?ご友人方は?」

「あまりに遅いのでガイルが狼に…いえ、体調はいかがですか?」

「もう大丈夫よ。」


マリーネはアイルを心配させないようにニッコリと笑ったが、アイルとガイルともっと一緒にいたい反面、挨拶回りや夜会の雰囲気の中には耐えきれそうにない。

アイルやガイルと居ると癒されるわ…

それでもマリーネの悲しくなった心も少しずつだけれども、消化されて表には出ないようになった。

私がシリウス様に対して出来ることって何かしら…

アイルやガイルを見つめてマリーネは考える。

二人の様に…?


「マリーネ!」

「…はい。」


足早に近寄ってきたシリウスから呼ばれ、マリーネは小さく返事をした。

というのも、シリウスから名前をあまり呼ばれたことが無いのもあるが、過去の話を聞いてしまった後ろめたさもある。

マリーネはまるで怒られた子どものように下を向いてしまった。


「お姉様は体調を崩していらっしゃるみたいなので、シリウス様がご都合が悪いのであれば、私達が実家にお姉様をお送りしますけれども。」

「いや、いい。私も今都合のついたところだ。一緒に帰る。」


ヒリヒリするようなアイルとシリウスのやりとりにマリーネは心配しながら二人の顔を交互に見た。


「行こう。」


シリウスから差し出された手にマリーネが自分の手を重ねようとした瞬間、ガイルからもう片方の腕を掴まれた。


「姉上が本当に安らげる場所がいいのでは?」


次はガイルとシリウスが目を合わせて、ヒリヒリとした空気を出している。


「シリウス様、弟の無礼をお許しください。」


マリーネは膝を折って頭を下げると、振り向いてガイルの方を向いた。


「ありがとう、ガイル。心配かけてごめんね。」


マリーネが軽くガイルを抱きしめると、ガイルは無言でギュッと力強く抱きしめ返す。

その腕の力にマリーネを離す気は無いようだったが、アイルがパシッと持っていた扇子でガイルの頭を叩いた。

その手の緩んだ好きに、アイルもマリーネとハグをする。


「アイルもありがとう。今日会えて本当によかったわ。」

「私もよ。ずっとお姉様のことを紹介するのが夢だったの。」

「アイル…」


マリーネは名残惜しいけれど、アイルから離れてシリウスの手を取った。


「お時間かけて申し訳ありません。私はもう大丈夫です。」


マリーネは振り絞るようにシリウスに笑顔を向ける。


「それでは失礼する。」


シリウスの言葉に合わせてマリーネもアイルとガイルに膝を折って礼をすると、二人で夜会の会場を後にした。

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