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「君は…恋路の邪魔などしていない。」


シリウスは表情はそのままに何かを考え込んだように固まってしまった。

シリウスの言動はマリーネを許してくれるようだったが、一方で何かを含んでいそうな姿にマリーネの不安は増していく。


「しかし、私のことは生理的に無理なのでしょう?」


無言に耐えきれず、マリーネが問う。

問題は一時のものだけではない。

手を繋ぐまではよしとしても、シリウスはこれまでマリーネとのある程度の接触を拒んできた。

これは夫婦としては致命的である。

今後友人のような関係であっても夫婦として機能しなければ、一緒に居たとしても未来は無いないのだとマリーネは思っていた。


「…生理的に無理というのは間違いない。」


改めて聞くシリウスの拒絶の言葉に、何故かマリーネは胸が引き裂かれる思いでいた。

その言葉は「阿婆擦れ」と呼んだかつての言葉よりもマリーネを深く、抉るように傷つける。


「男女の接触というものには合意が無ければいけないものだろう?」

「シリウス様が嫌だということですよね?」


自分で言ってしまった後にマリーネは自身の言葉に傷つき、後悔する。

そして自分で抉ってしまった傷の痛みに顔を歪ませた。


「君の方のことだ。」

「私は先程申した通り、全て身を任せる覚悟です。」

「覚悟ではなく、こういうことは気持ちが必要だろう!」


シリウスの大きな声にマリーネはビクリと肩を震わせた。


「気持ちがないのにそういうことをするのは破廉恥だ!」


続け様にそう言うシリウスにマリーネは思わず顔を上げて首を傾げた。


「…確かシリウス様は以前、友人のような関係の夫婦にと…」

「ダメだったのだ!友人は無理だ。…心が欲しい…」


ここ、ろ?

マリーネはまたしても首を傾げる。


「それは好意を持つと言うことですか?」

「ああ。友好関係ではない、男女としての好意だ。」


マリーネの問いにシリウスが答えると、「男女の好意」と言う単語にマリーネが反応する。


「…シリウス様は大丈夫なのですか?」

「大丈夫もなにも君とそう言う関係になりたいのだ。」


真っ直ぐ貫くような強いシリウスの視線にマリーネは囚われて固まってしまった。

マリーネの頭の容量を超えた問題はどう処理したらいいのかも分からず、マリーネの頭を埋めていく。

いっぱいいっぱい、正にそれである。


「友人もいなかった私に恋愛のあれこれなど…」


マリーネは自分の頭ではお手上げです、と言いたかったが、その前に目を回して倒れてしまった。

この日、マリーネは頭がいっぱいになりすぎて倒れるということを始めて体感する。

自分の容姿のことはウジウジと何度も考えたが、恋愛についてなど全く考えも及ばなかった。

政略結婚して、旦那様に任せていれば良い、としか考えていなかったのだ。


「私は君のことを好ましく思っている。きっとこれからももっと好きになっていくと思う。」


気づけばマリーネはシリウスの腕の中で優しく支えられている。

こんな近く距離で初めて向けられる好意は眩しすぎて、マリーネは目をパチパチを何度か見開く。


「私…は…」

「ゆっくり考えて欲しい。君がその手のことが初めてだと知っているし、こちらもこんなに早く言うつもりは無かったのだが…君が逃げるから。」


今までマリーネは不快にさせないようにと人との接触を避けてきた。

家族から見捨てられるのが怖くて、問題を起こさないようにと部屋に引きこもっていたし、それでよかった。

逃げることでしか自分の居場所を確保できなかったマリーネは、夜会の時も馬車の中でも、いやもっと前から目の前にいるシリウスから逃げ続けていたのだ。

マリーネはそのことにようやく気づく。

家族とさえ衝突しないようにといつも逃げていたマリーネも、このようにシリウスに面と言われたからには逃げられない。

シリウスと恋をするか、それとも離婚するか。

気持ちは決まっている。

けれど、自信がない。


「本当にいいのですか?」

「君がいい。」


最後の最後まで逃げようとするマリーネに、シリウスの言葉はトドメのように突き刺さった。

逃げられないのは苦しい、苦しいけれど、マリーネにはどうしようもなく嬉しく心に響く。

もし、誰かを愛する未来があるのならば、私はシリウス様がいい。


「私もシリウス様がいいです。」

「ありがとう。」


シリウスからマリーネは抱きしめられる。

マリーネは気がつけば耳の奥にドクドクと自分の鼓動が早く鳴っていることに気がついた。

恥ずかしくて、顔が熱い。


「すまない。」


体が離され、マリーネはなんとも名残惜しいけれど、安心する気持ちもあった。

マリーネは改めて見る夫の顔に自分には勿体ない人だと気後れする気持ちもあるが、頰が染まるその顔が自分と同じであることに自分の居場所を見つけたような気がしていた。

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