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まずは主催者である侯爵夫妻に挨拶をする。


「ほぅ…これは…」


侯爵が感嘆の声を上げる。

頭を下げて直接侯爵の顔を見ているわけではないが、マリーネは自分が値踏みされていることがなんとなくわかった。


「今日はお招きいただきましてありがとうございます。こちらが妻のマリーネになります。」

「この方がお噂の。」


シリウスに紹介され、侯爵夫人が声を上げた。

そのわざとらしさに何かを感じながら、マリーネは騒つく心を表に出さないようにする。


「初にお目にかかります。マリーネでございます。」


シリウスに恥をかかせないように、マリーネは丁寧に、貞淑に挨拶をこなす。


「これほどの美しさなれば多くの方から声がかかったのでは?」

「自慢の妻でございます。」


侯爵の言葉にマリーネではなくシリウスが答えた。


「あら、仲の良きこと。シリウス様が結婚されて娘も悲しんでおりましたのよ。」

「それは身に余る光栄でございます。」


夫人の言葉にマリーネはピクリとしたが、シリウスは淡々とした表情で答えている。

きっと色んな指摘だったり、牽制だったりをしているような気はしているが、マリーネは全てを理解することはできなかった。

ただシリウスに任せているだけである。

それが正しいのだが、果たして本当にそれでいいのだろうか?

そんな疑問がマリーネの頭に浮かんだ。

挨拶が終わり、その場を離れるとシリウスがハァと溜息を吐く。


「このエロ親父と意地悪女狐め。」


シリウスは小さな声で呟いた。


「えっ?」


マリーネは驚いてシリウスの顔を見つめた。


「あの親父は君を愛人にしたそうにしていたし、それに夫人は牽制するかのように意地悪なことばかり言っていただろう?」


マリーネは首を傾げる。


「そうなのですか?でも、シリウス様が結婚されて悲しまれた方は沢山いらっしゃることはわかりましたけれど…」

「…全く…君は…社交界にはみんな獣物だから、安易に近づいてはダメだよ。君みたいな女性はパクリと食べられてしまうから。」

「パクリと食べちゃうぞ、と。」


そう言って、シリウスの背後からニュッと出てきた顔にマリーネは驚いて仰け反る。


「近づくな獣物!」


急に出てきた男から守るように、シリウスがマリーネの前に立ちはだかった。


「友人に妻を紹介してもいいんじゃない?」


シリウスの腕の隙間から見たシリウスの友人と思しき人は緑の瞳が綺麗な少し赤毛に近い茶色の髪の男性だった。

マリーネはその男性と目が合うと、シリウスが体をずらして完全に見えないようにする。


「友人はやめた。」

「そんなぁ…結婚前後はよく相談してくれていたじゃないか。」


マリーネはシリウスの結婚前後の態度を思い出して、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「行こう、マリーネ。」


そんなマリーネを知ってか知らずか、シリウスがマリーネの肩を抱いてその場を離れようとする。


「和解したのかい?それともたらし込まれたの?」


男がそう言った瞬間、シリウスは振り返って男の胸倉を掴んだ。


「…黙れ。」

「もっと酷いことを言ってたじゃないか。」


一触即発の状態にマリーネは思わず話しかけていた。


「わかってます!わかってますから、どうか穏便にお願いします。私のような阿婆擦れ顔ではなく…シリウス様はそう、あちらの方の様な繊細で上品で美しい方が好みなのです。その事は重々承知ですから。」


慌てて多弁になったマリーネは偶然側を歩いていた、飴細工のような金色の髪を持つ妖精のような神秘的な美人を指差す。

その瞬間、シリウスは凄い顔をして固まり、友人の男性も固まってしまった。


「…君の妻は勘が鋭いね。」


友人からそう言われ、マリーネは嫌でも分かった。


「わ、わたくしたちは政略結婚ですし、人の心はどうしようもないですからっ!」


兎に角シリウスの想い人に一緒にいるところを見られてはいけないと、マリーネはすぐにその場を去った。

決して側を離れてはいけないと言われてはいたが、今はそんなことを言っていられない。

でも…どうしよう…

シリウスの恋路を邪魔するつもりはない。

けれど、存在するだけで邪魔なのだ。

このまま妻の座に納まっていたいなんて我儘なのかしら?

シリウスとはぐれてしまったマリーネは侯爵家自慢の広い庭に出てきてしまっていた。

暗闇の中で姿は見えないが、恋人たちが愛を囁き合う声が聞こえる。

えらいところに来てしまったものだと、マリーネは思いながらもいざ明るい所へは戻れずにいた。

シリウスもあの美しい人に愛を囁きたかったのかしら?

邪魔者であることしかできない自分に情けなくてマリーネの目には涙が溜まってゆく。

一層のこと侯爵様の愛人ならば誰も不幸にならなかったのかしら?

今からでも頼みに行ってみようかしら?

マリーネはそうも思ったが、夫人の顔を思い出して自分の考えの甘さを知る。

私を好きだと言って必要としてくれる人なんて…居ないわよね。

見上げた夜空は真っ暗で星も見なかった。

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