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シリウスが戸を叩き、マリーネの部屋の扉を開ける。

そこでシリウスは青いドレスを身体に当てているマリーネと目が合った。

マリーネは「キャァ」と小さく悲鳴をあげると、慌ててドレスをクローゼットに隠す。

シリウスはマリーネの意思を尊重して、その姿を見ないように外を向いた。


「…恥ずかしいところをお見せいたしました。」


マリーネかわシリウスの前に立って、軽く膝を折って挨拶する。


「むしろ、かわ…いや、嬉しそうでよかった。」


マリーネの手にしていたドレスは、シリウスが渾身の知恵を振り絞って作り上げたオーダーメイドのドレスである。

特にマリーネが夜会に参加する予定は無かったが、もしものために作ったドレスをマリーネは気に入り、時々クローゼットの中から取り出して身体に当ててみたりしていた。


「良いものをいただき感謝しております。ところでどうかしましたか?」

「…パーティーに呼ばれたのだ。」


マリーネはその言葉に首を傾げた。

パーティーならば以前からシリウス一人で行っていた。

それを何故マリーネに伝えるのだろうか?


「…しかも、是非君を連れてだと。いつもなら適当に理由をつけて断るのだが目上である侯爵様の直々の依頼、断れないのだ。」

「まぁ!」


マリーネはそう言われてすぐに合点した。


「ドレスでは顔も肌も隠せないものですからね…」


お気に入りの青いドレス。

胸には長めのフリルがついていて、マリーネの胸が目立たないように丁寧に作られており、そのシックな作りにマリーネは一目で気に入った。

けれど、それだけではシリウスに阿婆擦れだと言わしめた容姿は隠しようもない。

娼婦のような女を妻に娶ったと知られたくないシリウスの気持ちは、すぐにマリーネも分かった。


「違う!男ならば妻を見せびらかしたい気持ちもあるが、私は大切に宝箱にしまうタイプなのだ!」


そんなマリーネの考えもシリウスはすぐに読み取ってフォローするが、マリーネには優しい慰めにしか聞こえなかった。


「わたくしには勿体ないお言葉です。しかし、そうと決まってはダンスの練習もしなければいけませんわ。」

「…ダンスは苦手なのか?」


強引に話を変えたマリーネにシリウスはまだ気まずそうにたずねた。


「苦手…です。ガイル…弟と練習したくらいしか経験ありませんし、身体が上手く動かないと言いましょうか…」

「そんなに、か?」


マリーネの深刻な表情にシリウスも同じく深刻な表情になる。

マリーネはどう説明したらよいのか迷っていた。

できれば説明もしたくないし、知られたくない事柄である。


「少し今ここで踊れるか?」


シリウスがマリーネの手を取り、抱き寄せる。

ふよん。

シリウスの鳩尾辺りに柔らかな何かが当たる。

その感触にシリウスはマリーネの肩を持って距離をとった。


「…そういう事です。」


マリーネは落ち込んだ表情で下を向いていた。


「練習すれば慣れる。…慣れるが、他の者と踊るのは禁止だ。」

「…はい。」


マリーネは両手で嫌でも主張してしまう自分の胸をぎゅっと押さえ込んだ。


「嫌いとかではなく…男として色々あるのだ。君は気にしなくていい。」


そうは言ってもシリウスがマリーネの大きな胸を含めた全ての容姿が嫌いなのは百も承知の上である。

マリーネはこうしたどうしようもない拒絶反応をされるたびに、やっぱり夫婦としてダメなのでは無いかと打ちひしがれてしまう。

その後はマリーネがコルセットで胸を無理矢理押さえつけたりもしてみが、コルセットを破壊して爆発するかのよう暴れ出した胸に為すすべもなく、結局はシリウスが慣れるということで落ち着いた。


「いいかい、絶対にわたしから離れてはいけない。ダンスに誘われたら?」

「…夫以外とは踊らないと決めておりますの。」

「そうだね。それ以外で声を掛けられたらわたしの背後に隠れるといい。」


シリウスは念入りにマリーネに確認する。

そこまで信頼がないのだと、マリーネは落ち込むが、確かに実績のないマリーネには念を押すくらいがちょうどいいのかもしれない。

マリーネは初めての夜会、早々に部屋に連れ込まれそうになったことを思い出す。

侯爵様主催のパーティーがあのようなものではないとも思うが、マリーネは少し怖かった。

しかし、今回はシリウスがいる。

何はともあれ、一応は夫である。

夫の前で何かしでかすような人はいないだろう。

マリーネはシリウスから差し出された手を取って、パーティーへと繰り出した。

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