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「あの子ちょっと潔癖なところがあってマリーネ様には迷惑かけてしまうかもしれないけれど、どうかよろしくお願いします。」


式の終わりに彼の叔母からそう言われて、マリーネは後悔していた。

何故、この結婚を断らなかったのか。

必要とされる人のところに嫁げば良かったのに、マリーネは自分の臆病さ故に互いに不幸になる結婚を選んでしまった。

私は嫌われるだけではなく、憎まれるだろう。

いつか誤解が解けて、それなりだけれど友好的な関係が築けるとも思っていたが、それももう絶望的だろう。

彼は私の唇の横にキスを落とした時、一体どんな気持ちだった?

それは初夜ではっきりとわかった。

何も知らないマリーネが判るほどに乱暴で投げやりな彼の手、そして限界が来たかのようにマリーネに触れることをやめた。

我慢ができないほど、彼はマリーネのことを穢らわしいと思っている。

結局はマリーネは周りにいる人を不幸にするしかない存在だと自覚するほかなかった。



「違う!潔癖ではない!」


吠えるかのようなシリウスの抗議にマリーネは目を丸くした。

しかし、何かに気づいたようにまたマリーネは下を向く。


「しかし…」


シリウスが潔癖ならばマリーネを嫌う理由としてこれ程なくしっくりとくる。

それ以外ならば、シリウスがマリーネを根本的に嫌い、と言うことになる。

触れなければ少しは大丈夫かと思いきいや、存在することが嫌となれば話し合うことさえできないかもしれない。

それはマリーネにとって絶望的だった。


「何を思っているのかわからないが、多分違う。これ以上は悪くしない。」


その悲壮感溢れるマリーネの顔を見て、シリウスがなだめるように言う。


「ひ、酷いことはされないのですか?」


過去の発言を取り上げたマリーネにシリウスは頭を抱えて、自身を恥じた。


「しない。私の勘違いだったのだ。そのことは非常に申し訳ない。」


それは美しく如何にも気位の高そうな夫が初めて頭を下げて謝る姿だった。


「えっ…あの…」


マリーネは戸惑い、自分がどうしたらいいのか分からなかった。


「君の許しを得られるならば…普通に話したりしたいと思っている。」

「普通に…?」

「そうだ。普通にだ。」


普通にと言われて、マリーネはまた戸惑ってしまっていた。

話すことが何もないのだ。

部屋にこもりきりで家族以外とはほとんど口の聞いたことのないマリーネは、シリウスにかける言葉は全く思い浮かばなかった。


「例えば、今日のお出かけはどうだったとか?」

「楽しかったです!私…花畑を見たのは初めてで…それで…月並みですが、感動しました。」


優しく語りかけてくれたシリウスにマリーネは食いつくように笑顔で答える。

しかし、我に返るとマリーネは頰を赤らめた。


「…それは良かった。」


一瞬止まってしまったシリウスの表情にマリーネは不安をのぞかせる。


「いや、あの…話すと本当に…年頃の娘のようだ、と…」


マリーネの不安そうな顔に気付いたシリウスが慌てて付け加えた。


「…確かに…娼婦のような容姿ですから…」


マリーネは自身をそう卑下する。

自分自身の容姿に少し違和感を感じながら生活していたが、シリウスに「阿婆擦れ」と言われてやはり世間ではそう見られるのかと納得した部分もあった。


「君は娼婦なんかじゃない。そのことは誰よりも分かった!だから、挽回する機会を与えて欲しんだ。」


シリウスはマリーネの見た目だけを見てレッテルを貼ってしまったが、そのことが違うと初夜で存分に分かっていた。

むしろ、結婚直前までマリーネが尻尾を出さないかと調べに調べていたが、結果的にマリーネは真っ白だったのだ。

しかし、疑り深いシリウスは初夜のマリーネの純潔を傷つけるその時まで信じられなかった。


「中身は違うと言うことだけ知っていただけたので大丈夫です。」


マリーネは安堵の溜息をつくように、下を向いた。


「けれど、もう私たちは夫婦だ。」

「…私は形だけで構いません。」


マリーネの言葉にシリウスがムッとした顔になる。


「…私は世に言う潔癖症ではないが潔癖と言うのは本当だ。異性関係の汚いのが許せないのだ。女を囲えばいいというような言われ方は…傷つく…」


自分が阿婆擦れ呼ばわり言っていたことを思い出すと、シリウスの語尾が小さくなっていく。


「ご無理はなさらないでくださいね…」


初対面の見た目だけであれ程嫌われたのであれば、マリーネの容姿というのは異性として対象外であることは明白だった。

世の中には心の無い政略結婚と言うものもある。

それでは駄目だろうか…そうだな…駄目だろう…

マリーネはシリウスの潔癖な性分ではそうも行かないのはわかっていた。


「友人のような夫婦もいると聞く。せめて友人のような関係を築きたい。」


シリウスの言葉にマリーネはキョトンとした顔になる。

そうだわ…私…


「…友人のような関係というのを分かりませんわ…」


長年一歩も外に出ず、人とも会わなかった、マリーネには友人はおろか、知人さえもいない。

マリーネの世界には家族と少しの使用人しかいなかったのだ。

入院が控えている最中風邪を引いてしまったので、少し早いですが更新停止します。

気紛れに更新しますが、基本的に2、3週間お休みします。

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