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お父様、お母様…本当に愛してくれていますか?


「私の可愛い娘…」


ありがとうございます、お父様。


「愛しい私の娘…」


ありがとうございます、お母様。

でも、言った後に目を逸らすのはやめてくれませんか?

あと、最近可愛い弟と妹もよそよそしいんですけど。

年頃なのはしょうがないですが、弟の蔑む目め妹の哀れむ目…お姉ちゃん悲しいです。

伯爵令嬢である私、マリーネは何故か下賤の民のように色黒である。

ちなみに父も母も貴族らしく色白のきめ細かい綺麗な肌であり、色黒マリーネは全く両親に似ていない。

辛うじて黒い瞳と癖の強い黒髪は父に似ていたし、ぽってりとした唇は母に似ていたので、色んな意味で争いにはならなかったが、父と母は大いに狼狽えたらしい。

加えてこのでっぷり体型。

お腹って大き過ぎると皺もできないんですよ?知ってました?

マリーネのお腹は、臨月を迎えた妊婦またはビールを飲みすぎた中年男性の様に、今にもはち切れんばかりに丸く膨らんでいた。

もちろん、父と母は痩せていてスタイルもいいです。

周りの人はよく言ったものです。

「黒豚令嬢」と。

話を巻き戻しますが、最近伯爵家の中で居場所が無いのですけど…

思えば、いつも父と母はよそよそしかった。

それを決定付けたのは双子の弟と妹が生まれてからだった。

弟と妹はしっかり母と父にそれぞれ似ており、さぞかし喜んだらしい。

私が存在していた家族は偽りの幸せな家庭を演じていたのだと気づいた5歳の春。

今まで図太く見ないふりしてきたのですが、限界が近づいてきました。


「おい!穀潰し!」


そんな直球ストレートな暴言をマリーネに投げつけたのは反抗期真っ最中の弟である。

確かにマリーネは成人しても縁談一つ無い、穀潰しだ。

それでもマリーネには、まだ姉の存在の異質さに気づかずに慕ってくれていた幼い頃と変わらない可愛い弟に見えていた。


「…どうかしたの?ガイル?」


マリーネは弟の名を呼び、肉に埋もれた細い目で微笑む。

その顔は嬉しそうに肉を頬張る太った肉屋の子どものよう。


「俺が家を継いだら追い出すからな!」


弟のガイルはそう言ってマリーネを一瞥して去っていく。

これはガイルがマリーネに顔を合わせる度に言うお約束の言葉である。

ガイルは成人前で寄宿舎卒業後、父の仕事を継ぐべく修行真っ最中であり、マリーネの置かれている現実について分かるようになったらしい。

大人になったね、お姉ちゃん嬉しいです。

とは思うものの、事態は深刻だった。

両親はマリーネがこういう姿になったのは自分たちの所為だと、生涯お抱えしてくれるつもりみたいだが、その重荷はいつか弟や妹にのし掛かってくるだろう。

ひいては未来の甥もしくは姪たちにも…

マリーネはそのことに身震いした。

幾らよそよそしくともマリーネにとっては両親も双子の弟や妹も大切な家族だ。

その家族に迷惑なんてかけたく無い!

マリーネは一念発起した。

まず、食事は大好きなパンやお肉、オヤツを好きなだけ食べていたのをやめて、野菜のみを食べる様にした。


「あら、マリーネ、どうかしたの?体調でも悪いの?」


マリーネの様子に気づいた母がマリーネにたずねる。


「健康に気をつけようと思いまして…」


マリーネがそう言うと母と父は口の端を引き攣らせている。


「そうね、健康が一番ですものね。」


お母様、本当にそう思ってらっしゃいますか?

…もしかして不健康の方が早く片付く…

嫌ね、お腹が空いてネガティブになったわ。


「ええ、がんばりますわ。」


マリーネはそう言って肉団子のような笑顔で微笑んだ。


「無理だろ。何ならいっそのこと…」


ボソリとガイルの声がする。


「ちょっと…」


その言葉に妹のアイルが隣のガイルに肘でつついてやめさせる。


「いいのよ、今まで甘え過ぎていたから、そう思われてもしょうがないわ。でも、みんなには迷惑かけないように頑張らなくちゃ…」


マリーネは目を見開いて奮起したが、周囲はその顔に気付いてはいなかった。

食事を終え、マリーネは運動を始める。

部屋でできる運動は一通りしたはいいが、本によれば歩いたりするのも大切らしい。

マリーネは部屋の中をグルグル回る。

途中、目が回りマリーネは部屋の真ん中に倒れた。

…せめて宮仕えできるくらいの容姿になれたら…

家族はマリーネに外には出て欲しくないようだった。

マリーネもその意思を汲み取り、幼い頃から屋敷に引きこもっている。

「一族の恥」

ガイルは以前そう言った。

他の家族は優しいから言わないが、少なからず人に見られたくないと思っているのはマリーネも知っていた。

力無く四肢を投げ出して天井を見上げるマリーネの目からは涙が溢れていた。

変わりたい。

変わって…普通になりたい。

普通に家族の一員になりたい。

ピーピーと醜く鳴る鼻音とともにマリーネのささやかな願いは部屋の中に溶けて消えていった。

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