異邦鳥
今日、ママンが死んだ。
強烈な書き出しですよね。作者は恥ずかしながら読んだことはないのですが。
今回はちょっと汚いお話があるので食事中や食前にはおススメしません。
私の感覚で一週間ほどが経った頃。
その日の昼食(私にとってはお夕飯)は焼き鳥だった。あのガチョウっぽいやつの肉だと思う。
バルナートさん的には共食い的なアレは大丈夫なのか心配だったけど平気で食べていた。ヤルンさんが調理してる間、私はずっとひやひやしていたのに。解せぬ。
まあ、ヒトも猿を食ったりしてるしな。そんなものか。
そしてその焼き鳥なのだが、ヤバかった。
ジューシーで柔らかく、噛めば噛むほど旨味が染み出てくる。皮はパリッとしていて香ばしい。
ピリリと薫るスパイスがまた味を引き立てていた。
つまり、超絶美味だったのだ。
おかげで普段以上にもりもりと食してしまった。
しかし、本当にヤバかったのはここからである。
異変は、ベッドに横になってすぐに起きた。
まず、お腹からギュルギュルと音が鳴り出した。胃が動いてるのかなーとか、思った次の瞬間。
腹痛! そりゃあもう腸を絞られているのではないかと錯覚するレベルの!
「うぐぉ……」
これはヤバイ。しばらく悶えて、少し収まった頃。とりあえずトイレに行こう、全部出してしまえ、と布団から這いずり出したその時。
強烈な吐き気! そりゃあもう胃の中身が濁流のように喉元に迫ってる感じの!
「うっぷ……」
痛みと吐き気で冷や汗をだらだら流しながら、ほうほうの体でトイレにたどり着いた。
ところでここのトイレは汲み取り式、いわゆるぼっとん便所である。
胃からせりあがるものを吐き出すため、便器を覗き込む形になるだろう?
するとウンちゃん(ぼかした表現)がこんにちはしてて、鼻がひんまがりそうな匂いがするわけです。
「おえっ……」
「はい、あーん」
あの地獄のような腹痛から十時間ほどが経った。トイレにしばらく籠った後、気絶とも睡眠とも区別がつかない感じで意識を失った。目が覚めた時、だいぶ痛みや吐き気は引いていたが、熱が出ていて下がらない。
幸い、トイレで唸っている時にヤルンさんが気付いてくれたので、今は看病してもらっている。この年で「あーん」はきついのだけど、背に腹は変えられん。正直、起き上がってるだけで辛いのだ。
ちなみに、メニューは木の実をじっくり煮込んだスープだ。木の実は甘酸っぱくて美味しいのだけど、どうにも薬臭い。薬草を一緒に煮ているのだろうか。
風邪の時の定番料理なんだろう。日本で言うお粥みたいな。
本調子ではないので、少しだけいただいて、すぐにまた横になった。
ヤルンさんが額に濡らしたタオルを載せてくれる。
「ありがとうございます……」
「良いんですよ」
そう言って微笑むヤルンさん。あぁ、ほんと女神。
丁度その時、家の外から騒々しい声が聞こえた。
「バルー! 俺だ!」
どうやら門のところからバルナートさんを呼んでいるみたいだ。来てやったぞー、みたいなことを叫んでる。
「見ない顔ですが、お客様ですかね……?」
ヤルンさんが窓から様子を見て、首をかしげる。
「対応してきます。コトハは寝ていてください」
「はぁい」
少しして、下の階から賑やかな話し声が聞こえだした。バルナートさんとお客さんが何か喋ってるらしい。
その日はうたた寝して、ヤルンさんにご飯を食べさせてもらって、またうつらうつらと眠った。
そんな中、懐かしい夢を見た。両親が昔の知り合いと飲んでいる時の夢だ。私は小学生くらいで、楽しそうに酔っ払う大人たちを尻目に料理をつまんでいた。
そのうちに、お母さんが刺身の盛り合わせを見て「あれっ」と声を上げた。
「サーモンだけなくなってる」
私は素知らぬ顔で最後のサーモンを飲み込んだ。
だって美味しいんだもん。
翌朝、鳥が増えていた。
「!?」
今日はヤルンさんとの訓練をお休みして、朝食の時間に呼ばれて起きた。熱はだいたい下がった。
そしてリビングに行ってみたら、見知らぬ鳥人間があくびをしていたのである。バルナートさんの2Pカラーか!?
「くあぁ……ん? おう! お前が異世界人か!」
鳥の人は続けて何やら捲し立てているが全然聞き取れない。まだこの世界の言葉に慣れていないのだ。流石にネイティブのマシンガントークには付いていけない。
「ヴィク、それくらいにしてあげて」
リビングに現れたバルナートさんが止めに入った。
新顔の彼はフクロウっぽい顔立ちだ。声が低いし、肩幅もがっちりしてるので男性だろう。リンゴの断面みたいな顔の模様と灰色の羽毛が特徴的だ。藍色の着物を着ている。
バルナートさんはきりっとした顔つきで鷹に似ているから、2Pカラーという発言は取り下げよう。
「コトハ、この人は僕の友人のヴィク」
「よろしく。色々、話聞かせてもらうぜ」
ヴィクさんが差し出した手を握り返す。
「えっと、コトハです。よろしくお願いします」