落陽_2
サブタイは思い付かなかったのです。
おうち紹介回。
塀と同じ小豆色の扉を越えると、縦にも横にも大きな屋内が広がっていた。まるで自分が縮んでしまったかのようだ。突き当たりまで廊下が続いていて、両側の部屋とつながっている。
二人に続き、右側の手前の部屋に入る。ダイニングキッチンのようだ。大きな机が真ん中に置かれ、庭に面した壁際に台所。反対の壁際には天井に届くほどの本棚がずらりと並んでいた。本棚の中、色とりどりの書籍と、プランターに植えられた植物が目をひいた。
水瓶から柄杓で掬って手を洗う。位置が高くお姉さんに手伝ってもらった。
それからお姉さんと二人でランプを付けて回った。家の案内も兼ねていて、道中色々と説明してもらったけど、残念ながら内容はあんまり分からなかった。言語が違うからね。
ダイニングの隣には整理されているけど生活感のある部屋があり、そこはお姉さんの部屋らしかった。廊下を挟んだ反対側には扉が二つあったけど、そのうちの一つに鳥の人が入り、もう一つの方にも私たちは入らなかった。たぶん鳥の人の自室とかだろう。階段にもランプを付けながら昇って、一番手前の部屋に案内された。普段は使ってない客室のようだ。
お姉さんが私の鞄を指し示しながら何か言った。意図が分からず首をかしげていると、私のポシェットを受け取ったお姉さんがちょっと迷ってから机の上に置いた。部屋を出てから、今のが私に貸してくれる部屋で、荷物を置いたらどうかと聞かれたんだと気付いた。
その後、私はお姉さんと夕飯の準備をすることになった。お姉さんの見本にならって私が異世界版レタスとトマトのサラダを作っている間、お姉さんは手際よく黄色いニンジンっぽいものや大きなジャガイモを切り、シチューにしていた。その後パンを出したり食器を並べたり細々した作業が終わると、お姉さんが鳥の人を呼んで夕食となった。
「いただきます」
いつもの癖で手を合わせると二人は興味深そうにしていた。観察される異星人の気分だ。
食べ物は地球のものと似ていたけど、味や食感は少し違った。レタスは緑色に近くて瑞々しいし、トマトは皮が厚くて酸っぱい。シチューは少し獣臭かった。肉類は入ってないから、ミルクの風味だろう。匂いは少し気になったけど、ニンジンもジャガイモもほくほくで美味しかった。
パンは黒っぽく、フランスパンのように細長い形状。私は半分に切ったのを出して貰っている。二人がちぎってシチューにつけているのを見て真似をしようと手に取ったが。
「……か、固い」
用意したのはお姉さんだったから初めて触ったけど、持ち上げた時点で分かるこの硬度。二人は難なくちぎっているけど、これは見た目通りフランスパン並み……いや、それ以上か。
試しに何度が力を入れてみるけど、ちょっとへこんだくらいだった。しかし、私はそこで閃いた。例の平べったいバターナイフ。もしやこれで切り分けるのでは?改めて観察すると、片面にギザギザが刻まれている。試しにパンに刃を当て動かすと、僅かにだが切れ目が入った。
行ける、行けるぞ、これは。
それから一生懸命ナイフを動かし、ようやく一切れ分を切り分けた。一仕事終えた後のパンはさぞかし美味しいことだろう。満を持し、シチューをたっぷり付けてかぶりついた。
そして固いパンの耳を噛みきるために私はもう一度奮闘せねばならなかった。
結局お姉さんが微笑みながら一口サイズにちぎってくれた。お世話になってばかりだなぁ。
パンよりシチューを先に食べきってしまったので、残りは添えられたバターを付けて食べた。風味が強く、地球のものより固い。私はこっちのが好きかも。
私がパンを堪能、というかパンと格闘しているうちに二人とも食事を済ませていた。今は二人でおしゃべりに興じている。内容は相変わらず分からないけど、仲は良さそうな雰囲気。
そういえば、と考える。
二人は夫婦なのだろうか。種族は違うけど、この世界では人間も半人間も一緒に暮らしてるみたいだし。
でも夫婦というには少し距離感があるような。鳥の人にお姉さんが付き従ってる感じだったし。なんというか、お姉さんは洗練された従者さんって雰囲気なんだよな。さっきの荷物だって最初は全部一人で持とうとしていた。結局鳥の人に半ば奪われるように分担してたけど。
あと鳥の人はお姉さんに比べて年上に見える。なんとなく。
もっそもっそと固いパンの耳を咀嚼しつつ、二人を観察していると、思い出したように鳥の人が私の方を向いた。そして自分の顔を指差しながら、はっきり、ゆっくり発音する。
「バルナート」
「バルナート……?」
「ヤー、ヤー、バルナート」
彼は嬉しそうに頷いている。
すぐにピンときた。自己紹介されているのだ。
続いてお姉さんも同じように私に言う。
「ヤルン」
なるほど、鳥の人がバルナートさん、お姉さんはヤルンさん。何度か呟いて記憶に刻み付ける。
苗字は無いのかな。
それから、私も笑顔で名前を告げた。
「コトハ」
やっと名前を出せました。