(3)
世界が交わったと同時に、ごくわずかな人間に起きた異変、特殊能力。
生まれる法則とかは未だに分かっていなくて、不規則だそうだ。
私の、でたらめであろうと、大まかな地図を見たら頭の中でそこの地図が開けて、行ってみると確かだっていうのも、特殊能力。
私が主に補助(主に雑用)要員である前に、組織にいることができる理由として、もう一つ、こちらは役に立つ特殊能力をもっているが、こっちは道案内くらいにしか使えない。
でもまあ、役に立つと言えば役に立つ。
世界が交わったせいで、地理はぐちゃぐちゃになって、それは今も続いているらしい。
なぜだか、無かったところに道が出来ていたりだとかしていることもあるそうだ。工事だって絶えず行われている。
だから地図はずっと更新し続けなければ追い付かない。事実追いついていない。
だから出来るべくして出来た、能力と見られる。
何よりここにいられる理由が一つでも多くあるということは、いいことだ。
「どれだけこの地図滅茶苦茶なんだよ」
入り組んだ道ばかりで、一見するとぐちゃぐちゃの地図は、さらには実物とはずれているものだからたまったものではない。
実際、今私たちが歩いている道は地図には載っていない。
私が部屋に籠っていた内に外は夜になっていて、もうすっかり辺りは暗い。
おまけに、目指すエリアは灯り一つついていない場所らしい。加えて人影も今のところ見ていない。すごく静かで、私たちの靴音だけが聞こえるくらいだ。
そんなエリアの道を、レイジさんと歩いている。
「サディさんが印をつけた辺り、もうこの辺りですよ」
サディさんがちらりと言っていた目撃情報と、噂の場所は、地図につけられていた赤い印が示す位置だ。
十五分くらい前までレイジさんに担がれていた私は、今回の事件というか目的というかの内容を担がれたまま聞いた。
「それにしては全く何もいないな」
今回、やるべきことは一つ。
人身売買の場所と、実態を調べること。
そして、そこから首謀者とかを捕まえてそのルートなどを明らかにしていく……のは他のところの仕事になると思う。話が本当なら、大規模になるだろうから。
けれども、そもそも、誰もいない。
「行われる日が遠いんじゃないですか?」
行われる頻度は分からないけど、そうとしか思えない。それとも、それだけ慎重に動いているということだろうか。
あと考えられるのは……。
「そっちはリュウイチの方が調べてるから、こっちは場所特定したいところだが……。情報自体がそれを指しているかどうかも定かじゃないからな」
行われる日が分かっても、毎回同じ場所でしているのなら、どこでやるのかという情報は流れないかもしれない。
今手にしている情報は、全く関係のない情報かもしれない。
「でも何で賑やかなところでやらないんですかね? その方がどさくさに紛れられるじゃないですか」
残念ながら、そういう危険エリアが存在するようだし。
さすがに私は行ったことはないけど、こことは正反対でかなりうるさいし夜でもかなりの数がいるという。
私はそっちでやった方がいいと思うのだけれど、こっちがそう思うと考えて、裏でもかいてるのだろうか。
「賑やかってことは、関係ない奴がいるってことだろ。奴らはこっそりやりたくても、売買の内容上、少なからずデカい荷物にもなる。少なくない目に触れることになる。そうすると、だ。関係者は口をつぐむだろうが、他の奴らはんなことお構いなしだろ」
「なるほど」
「そっちにも一応調査は入ってるから安心しろ」
内容が内容だけに、他の手も多く入っているらしい。
それはそうか。チャンスはそうは巡ってくるとは思えない内容でもある。
……それより今、無闇に目立つわけにいかないので懐中電灯もつけていなくて、私の視界はもれなく真っ暗。
レイジさんを一応掴んでいるんだけど、レイジさん、あてもなく歩き回りすぎではないかな。
「ったく、ただのここらの下見になりそうだな」
やっぱりあてもなくただ歩いているみたいだ。レイジさんがぼやいた。
運が良ければそれっぽいものを見かけられるかな、くらいだろうか。
ただ、この時点で私は役に立たない。夜目がきくわけでもないので、真っ暗闇できょろきょろしても意味もない。
そんなとき。何かが震える音がした。
「――何だ。あ? 吐いた? で?」
電話だったようで、レイジさんが立ち止まって近くの壁にもたれかかってそれに出る。私もその横にもたれかかる。
「今日だ? 地下だな、分かった」
どうやら問題の日時は今日これからみたいだ。それに地下か。どうりで。
「……あ」
道の先で、ちかり、一瞬何か灯りみたいなのがついた。
この時間に。ここで。噂のここで。
一時の光にレイジさんも気がついたようだ。通信端末をしまうのが見えた。
「ここでじっとしてろよ」
「はい」
返事をしたのに、物言いたげな目で見られて私は首を傾ぐ。
それも一時。ふっ、と風が横を通りすぎた。
横を見ると、もうレイジさんの姿は無かった。私の横にいた彼は光が見えたほうに駆けていったのだ。
言われた通りそこでじっと止まったまま。待つ。
場所って結局この辺りなのだろうか。
とりあえずさっきの電話内容では、この後地下探しか。道案内だけでは済まない様子になってきた。
今のうちに探したほうが時間短縮だろうか。
どうせレイジさんは、私が多少動いても見つけてくれるだろう。
ということで、地図の印刷された紙を広げて懐中電灯の光を下に向けて照らす。
まず大きな建物でも探そうか、と思ったが、地下だから建物の大きさって関係ないのかもしれない。そもそもこの地図の建物の大きさが正確かどうかも怪しい。
地図と今いる場所を照らし合わせつつ、ちょっと歩きだす。
「アニキ今行って受け付けてくれますかね」
声が聞こえて、私は顔を上げた。
「いけるだろ。この前なんて途中でもいけたしな」
「本当っすかなら余裕ですね」
「なんなら今からどっかで一稼ぎしたいくれえだな」
「あ、アニキ」
「うん? ――お、人間」
鉢合わせたのは、私のニ、三倍も大きい筋骨隆々の見るからに怖い人たちだった。そもそも人か。賭けてもいい、違う。
おまけに彼らが持っているのは大きな袋だ。中に何が入っているかなんて知りたくないような、知らなければいけないような……。
「らっきーちょっとは足しになるか」