(2)
真っ白っていうのは、見飽きた。
ここにいるのも、今日で一週間になるか。
データっていうのはすごい。目の前に現実が示されるのだ。そして、説明される。
ここがこうなっているから君はもう長く生きられないんだよ、と。
頭が一気に靄がかかったみたいにぼんやりとして、しかし、ああやはりと頭のどこかが考え、死ぬと言われたとは思えないくらいに薄い反応をしたと思う。
医者の言葉によるところも大きいと思う。ああいうのを、余命宣告っていうのかな。
とにかくその日から、私にはよく分からない検査が続いた。いくつも。何度も。
聞くところによると、特殊能力の遺伝というのは、他に例がないらしい。
そんなことは私にしてみればそうなんだ、くらいのもので、問題はそれにより変化した環境だ。
私はL班に戻れないようだった。
だから、もう一週間会ってない計算になる。
ああ、何だか遠い日のようだ、と感じる。一週間だから、錯覚だ。錯覚なのに、仕方ない。
今も薄い青色をした検査着のようなものを着て、通路を歩いている。
今日の検査は終わりと言われたから、一人で歩いてると、
「ハル、ちょうど良かった」
リュウイチさんに会った。
「リュウイチさん」
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
リュウイチさんと会うのは、三日ぶりだ。
しかしこの人が久しぶりと言うのであれば、久しぶりであることは間違いないようだ。
小走りで近寄っていくと、リュウイチさんは勝手知ったる足取りで、私を一室に誘導した。
この人も特殊能力保持者だから、同じ区域には来るのだろう。
長細いテーブルと、それをぐるりと取り囲んでいるソファに、滑り込み気味に座る。
「今日の検査は終わったのか」
「はい。今日荷物取りに行くんで、午前だけみたいです」
足を宙でぷらりと揺らしながら、答える。
「こっちで暮らすことになるからって」
私は組織内で暮らすことになる。異変が起きては対応できないから、ということで。
久しぶりの外だ。
これまで毎日外に出ていたものだから、本当に室内にだけいるのは妙な感じ。
今日は引き上げることになる家に、最低限の荷物を取りに行くことになっている。
隣接している庭とかいう意味じゃなく、外に出るのが、これが最後になる気がしていた。
それは、口には出さなかった。
ちょっと気が滅入ってしまっているのかもしれない。
「そうか」
とリュウイチさんは言った。
たぶん、リュウイチさんは私の検査結果とか、私が組織内にずっといることになるっていうこととか、知っているんじゃないかと思う。
「ハル、」
テーブルの上に乗せてた手に落としていた目線を上げると、続くと思っていた言葉は続いて来なかった。
リュウイチさんが、何かを言い淀んでる。珍しすぎる。というか、私は見たことない。
目をぱちぱちさせていると、リュウイチさんは一旦顎に手を当てた……と思いきや、黒い目をこっちに向けた。
「外は寒いぞ」
「え、お、はい」
「出るのなら温かくしていった方がいい」
「はい」
「今日のところは寄っただけだから、また来る」
「は、はい。ありがとうございます。今から仕事なんですか?」
「そんなところだ」
合間縫ってきてくれたんですか。申し訳ないというか、本当にありがとうございますだ。
にわかに立ち上がった前の人につられて、私もさっと立ち上がる。
リュウイチさんは出ていく……と思ったら、直前に私にいつもながらの目を向けて、口を開く。
何だろう。
「レイジは来たか」
息が止まるかと思ったというのは、あながち嘘ではない。
けど、何もかも見透かしているのではいう目から、どうにか目を逸らさずに、止まっていた息を吸って言うんだ。
来たか、来ていないかではなく。
「いいんです」
ここはあまり好きではない。
ここにはじめて来たわけではなかった。半年前まで、ここにはたびたび来ていた。けれど、レイジさんには会えなかった。
だから、ここは彼に会えなかった日々を物語る。私に思い出させる。そういうことを、全部押し込んで言った。
けれど。
ひどく、息苦しい場所だ。
これからそういう日々を送ると思うと。
外に出て、それから解放されるわけでもないのに。強く、外に出たいと思った。