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こんな世界の真ん中で、生きていくならあなたの近く  作者: 久浪
『海が楽しいのは最初だけ』
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 私の学校には、一年間に二回の長期休暇がある。一学期と二学期の間と、二学期と三学期の間だ。

 三学期と新しい一学期の間にも休みはあるけど、二回の休みよりは短いものだから別とする。

 そして、その長期休暇は、学期末のテストの後にやって来る。


「バイトでの怪我だとは聞いているが、テスト前に入院していただろう。大丈夫か?」


 私は現在、職員室にいる。

 テストが終わって一安心していたところに、先生から呼び出しがかかったのだ。

 教室で呼び出されたものだから、友人たちに何をしたのだと脅かされて、やばい何かやったかな。テストの点数が絶望的なまでに悪かったのがあったのかな、と、テスト勉強は一生懸命した記憶があるのに不安に襲われた。


 しかし、ノックする手を一度だけ躊躇って、入室したら意外な言葉。

 教師の注意を引くには十分な事柄だけども。


「大丈夫です完治しました」


 二、三週間か前に、人狼事件のときの関係で入院したことを思い出しながら返答した。


「先生はお前がバイトをしている理由を知っているから応援してやりたいが、そのせいで学業に支障が出れば本末転倒だろう?」

「はい」


 休んだ際には、理由を書いた紙を提出しなければならない。そのため、誤魔化すことも出来なかった私はどうやら心配されている。

 それはそうか、今まで入院までしたことはなかったから、心配もしくはどんな仕事か疑わしくもなるというものだ。


 顔は真面目に相づちを打っておく。

 骨折とかしなくて良かった。

 ……したら、それもすごい早さで治ったりする薬とかあるのだろうか?

 知りたいようで、知ってしまう日はきっと、私がそうなったときなので、遠慮したいところだ。

 そんな見て分かる大怪我をすれば、それこそ「バイト」するのに教師から注意がかかりそうだ。入院が続けば、怪しいことこの上ない。


 学校ではあの仕事を「バイト」と称し、仕事先を明らかにしなくてはならないわけではないので、友人たちだけでなく先生たちも私の仕事は知らないわけで。


「長期休暇に入るわけだが、安全第一を念頭においてバイトを選んでやってくれよ」

「はい先生」

「ああそうだ。テストの出来は良かったと先生方が言っていたぞ。この調子で頑張れよ」

「本当ですか。分かってます」

「二学期からは、授業中に寝ないようするんだぞ」

「善処します」


 最後に、テスト本体が返ってくる前に安心する言葉を貰った私。

 ハッピーになったので、最後の最後の小言にいい加減に返事する。

 それから、怪我しないように私もしたいです。と、これから休みだが、「バイト」のスケジュールはばっちりな私は、願望と決意を胸に職員室を出る。







「えー、ハルカ長期休みもバイトなのー?」

「……長期休みこそ稼ぎ時だから」


 教室に戻ると、友人たちに何をやったんだと口々に聞かれた。失礼な。まあ、私も心当たりを探していたけど。

 正直に職員室で話した内容を話すと、期待していたようなわくわくな顔を崩す友人たち。

 そして話題は、問題の長期休暇の予定について移っていった。しかし、遊びに行こうとはしゃぐ友人たちに私は「バイトが入っている」、とただ事実を言った。

 別に、私なしでもいいだろう、と思ったら、ブーイングが飛んできた。


「それは分かるけど、長期休暇くらい……。休み教えなさい休み」

「何で学校のときと変わらないことを聞かなきゃなんないんだよ、俺らは」

「いっそあたしたちもバイト三昧する?」

「お、いいなそれ」

「で、休みまとまった日あるわけ?」


 質問とただの喋りがごっちゃになって飛んでくる。


「あー、確か……うん、あったはず」


 最後の質問だけに、考えて答える。


「ほんと? じゃあそこら辺はあたしたちが押さえるから」

「みっちり計画立ててやんよ」

「ついでにバイトしてるハルカに超楽しそうな写真送るから」


 ゆっくり出来る休みは残してくれるのだろうか。

 確かに私も友人たちと遊びたいのだけれど、ちょっと不安になった。

 後で詳しい日程は教えると約束したものの、私は確実に数日はごろごろ出来る日を残せるようにすることを心に決める。死守します。








「や、ハルくん元気かな? ハルくんの予定表を見るに、そろそろ学校は長期の休みに入るのだと僕は予想しているんだけどそうだよね。いやーグッドタイミングとはこのことを言うんだねきっと。ね、リュウイチくん」

「そうだな。でなければ他の手伝いに行ってもらうことになっていたが、良かった」

「良かったかどうかは分からないっすけどね」


 ハルちゃんにとっては、とテンマさんが首を傾けての意味深な一言。

 何だ何だ。私の休み中の仕事には何が起こるんだ。

 来るやいなや、サディさんの喋りに出くわした私。今日はどうやら何かの話から入るらしく、L班三人がソファの空間に集まっている。私もソファのひとつに座る。


「何かあるんですか?」

「何かっていうか、ちょうど入った事件がちょっと遠出っていう話。それでもって、一日じゃ解決しないかもだから」


 向かい側のソファから、テンマさんが答えてくれる。

 どうやら、いつもより遠くへ行って、事件の解決にあたる模様。だからグッドタイミング、なのか。

 ここにL班がいないとなれば、私はここに来ても仕方がない。他の手伝いになる予定だったみたいだ。

 うん、良かったのかどうか、今のところ判断できない。問題の事件内容による。


「レイジが来たら詳しく話す」

「一日で解決するのが一番いいんだろうけど、個人的には……おや、噂をすればレイジくん。グッドタイミング」


 個人的には何だろう。その先が不謹慎なものでないと願う。そして事件がそんなに深刻でないことを。

 いや、でも、深刻でなければその土地の人が対処するか。どれだけ遠出かによるなあ……。

 そこで本当にいいタイミングで入ってきたのはレイジさん。長い足でとっととソファの空間にやって来て、私の隣に座る。


「では、今日の業務に入る前に話を始めよう」


 指を組んだリュウイチさんが、話を始める。


 リュウイチさんの話を、私なりにまとめるとこうなる。

 今日入ってきた事件で、どうやら海辺の街でのことらしい。

 海に船を出したり、釣りをしている人が、海の中に引きずり込まれるということが起きているそうだ。

 現在で計四件。

 いずれの場合も、打ち上げられた死体が翌朝見つかるという。


 その事件が起きている土地の情報を、こちらが照らし合わせてみると、何やら関係しそうな情報が。その海には、『人魚』が暮らしているそうだ。

 ただ落ちたのではなく、海に引きずり込まれた、というのも納得だ。

 だが問題は、全て死体が見つかっている点。引きずり込まれたひとは、全員偶然にも発見される場所に流れついたのか。

 人魚が、返しに来たのか。しかし、返しに来たとすれば、なぜ引きずり込んだのか。

 これも、私には理解できない理由があるのかもしれない。理由がない可能性もあるけど。

 ということで、本当に人魚が犯人であれば厄介で、現場のある土地だけでは解決が困難で危険。

 さらにその近くで起きている事件も合わせて解決、もしくは確認も兼ねて行くことに。


 ああ、そういえば友人が海に行こうとはしゃいでいたなあ。季節外れにも。

 一時のテンションであればと思うが、本気なのであれば、私は一足先に海を拝むことになりそうだ。








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