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 ──一度手放したものに、基本的に未練はない。

 だが、それが近くに戻ってきたとき、何とも形容しがたい感情が湧く。














 帰るためにエレベーターに向かっていると、上から降りてきた当の密室の箱から出てきたひとがいた。


「レイジさーん」


 その姿に、私は、エレベーターに向かってではなく、出てきた人に走って行って飛びつく。


「急に飛びついてくんな」


 よろめくことなくというのは言うまでもなく、受け止められて、それが嬉しくて笑顔でそのまま上を見る。

 降りてきたのは、レイジさんだったのである。

 と、見上げてみて、いつもラフな格好をしている彼が、スーツを着ていることに気がついた。


「おぉ……レイジさんカッコいいですね」

「そうかよ」


 真下から見上げると、首が痛くなるほどの長身は、見事にスーツを着こなしていた。

 いつも着ていればいいのにというくらいに似合っているのだけれど、同時にはて、と私は首を傾ぐ。


「でも、どうしてスーツなんですか?」


 イメチェン?


「説明するのが面倒だ。お前は何してんだ」

「えー気になるんで教えてくださいよ。私はサディさんのお手伝いです」

「またか……もうあいつの助手になれよ」

ですよ! ずっとデータ処理とか、頭回ってパンクします」

「それを進んで手伝いに来てるんだろうが」

「うっ」


 それはたまにで、それこそ「バイト」みたいなもので給料も出るし、とか考えてると、


「そろそろ離れろ、歩けねぇ」


 と引きはがされる。

 仕方なく離れると、髪を柔くかき混ぜられた。笑みが溢れてしまう。


「で、それは終わったのか」

「はい、今から帰ります」

「送ってってやる」

「え、やった! あれ、でもレイジさん仕事じゃないんですか?」

「お前が気にすんな」

「うわ」


 急に、進んでいた方向と逆の方向に力が加わる。

 それというのも、すっと目の前に腕が伸びてきて肩に手をかけられ、ひっくり返されたのだ。

 見える景色の半回転。足を出すと、先にはもちろんぴったりと閉じきった扉。


「だってここで降りたんじゃ」

「文句あんのか」

「ないです!」


 ついたエレベーターに、二人で乗り込む。


「レイジさん、結局なんでスーツなんですか?」


 結局、教えてくれなかった。








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