九頭龍教占領地の奪還後編その2
麗花と敵の隊長「水尾」との戦いがメインになります。
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細い山道を、馬に跨った少女が駆け抜けていく。馬蹄が土を叩く軽快な音が連続で聞こえ、少女は器用に馬を操って左右にくねる道を往く。
村から北へ伸びる街道を走らせる事約一時間半。森の木々ばかりだった視界が開け、山の中に広い土地が現れる。山間に現れたそこは、奥行きが数キロ程はある谷だった。左右に木々が茂る山肌が迫る谷の中央を、南北に道が走っている。道は途中で二手に別れ、北へ伸びる大通りと脇へとそれる小道に分かれていた。少女の馬は、小道の方へ走っていった。
100メートルも行くか行かないかの内に、道は終わる。櫓を持つ立派な門が道を断ち切って建っていたからだ。門から左右には土で造られた屋根を持つ塀がそれぞれ何十メートルにも渡って伸びている。伸びる塀の途中にも、幾つか小さな櫓が造られていた。
「開門! 南よりの伝令です! 開門して下さい!」
少女は閉じられた門の前で馬を止めると、門上に築かれた櫓へと声の限り叫ぶ。そこから顔を出したのもやはり少女で、馬に跨る少女と同じ紅白の着物を身にまとっていた。
彼女は馬を門前で巡らせる少女を見つけると、直ぐに櫓の奥へと消えていく。ややあって、重苦しい音を立てながら観音開きの門が開いた。
馬に跨ったまま、彼女は門を潜る。数人の九頭龍教徒の紅白の衣装を着た少女達が、彼女を迎えた。
彼女は馬を降りると、周囲にいた少女の一人に馬を預け、危急の報せがある事を告げる。塀の中、門の右手には複数の木造の兵舎が二列で縦に20程も奥まで並んでおり、何十人もの少女達がその周りで作業や訓練等を行っていた。作業を行う少女達の付近にあった兵舎の壁には、数十丁もの前装式の小銃が丁寧に立て掛けられている。
左手にも同じ様に、兵舎が並んでいる。左右対称に造られた兵舎群の中央は大きな広場となっており、その更に奥……塀に囲まれた区画の最奥に神社の様な鴟尾のある大きな建物が建てられていた。賽銭箱こそ無いが、入口には太い注連縄が渡されていた。
龍泉郷軍の派遣軍……その本隊の駐屯地の、司令部がある建物だった。
少女は、案内役の少女に先導され、黒い髪を靡かせながらその中へと入っていく。通された部屋は、大きな神棚が置かれた会議の為に使われる部屋だった。ロウソクが灯された室内は淡い光でぼうっと照らされている。
そわそわした気持ちで彼女が待っていると、ややあって一人の少女が神棚の前……部屋の一番上座に現れる。彼女は背中に掛かる位の金髪を持つ、緑の瞳の少女だった。ゆったりとした動作で上座に座る彼女の衣服は、水尾と同じ紫色の縁取りを持つ水干に紫の袴。高位の指揮官の一人である事は明らかだった。
伝令の少女は、彼女の着座を深く土下座をしながら迎えた。
「任務ご苦労。顔をあげよ。して、報告は?」
少女は、早速彼女に水尾の言葉をそのまま伝える。秋津の軍隊に攻められ劣勢である事。至急増援部隊を送って欲しいとの事。
「水尾様を助ける為に、速く増援を頂きたいのです!」
少女は最後に、必死な形相で金髪の指揮官に伝える。しかし、報告を聞いた彼女は渋い顔をするだけだった。
彼女は数秒間、表情を曇らせたまま考え込むと、一言だけ少女の願いに返した。
「増援を送る事は、今直ぐには出来ない。我らはここで待機を命じられた」
「何故ですか!? お味方は既に劣勢にあるのです! 今ここで助けなければ……!」
今直ぐに増援を送っても、間に合わないかもしれない。しかし、水尾や生き残りを脱出させ後退する支援位は出来るだろう。伝令の少女も無念とは思ったが、それが最善の選択だとも感じていた。
秋津軍のあの勢いでは、どう考えても自分たちだけでは持たない。だから、水尾様に私が遣わされたのだ。
顔を上げ、少女は食い下がる。だが、紫縁水干を纏った少女の顔は変わらない。
「否だ。これは畏れ多くもサクヤ様のご命令でもあらせられるのだ。残念だが、別命あるまでは動く事は出来ない」
「そ、そんな……」
少女は泣きそうな顔で彼女を見上げる。しかし、金髪の下にある緑色の瞳は、少女の思いとは裏腹に冷たい光を放っていた。
「諦めるんだな。お前も疲れているだろう。今日は風呂にでも入って休め。明日からは、私の指揮下に入ってもらう」
それだけ伝えると、頬に掛かった金髪を掻き上げながら彼女は退室していく。最下級の衣装である紅白の装束である彼女には、その背中を引き止める権限など持ってはいない。ただ、彼女が消えていくのを見送るしかなかった。
少女は絶望感に打ちひしがれ、愕然と床に両手を突いて言葉を失う。
これでは、自分達はただ当て馬にされ、そのまま捨て駒にされただけでは無いか。水神様を信じる者は、全ての女性を救って下さるのでは無かったのか。サクヤ様は、私達を救って下さるのでは無いのか。
おもむろに顔を上げる。その視線の先には、大きな神棚が鎮座している。台座中央の社の中には九頭龍の水神を模した女神像が祀られていた。女神像の瞳が、優しく彼女を見下ろしている。
「水神様……」
これから私は一体何を信じれば良いのですか? この現実をそのまま受け入れろと仰るのですか? ここで、同じ神を信じる同志を見捨てるのが正解だとでも言うのですか?
少女は心の中で何度も問いかける。
けれども、女神像が答えを返してくれる事は無い。打ちひしがれる彼女が別の少女達に連れて行かれるまで、像はただ穏やかに、彼女を見守っていた。
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「やぁあッ!」
先に仕掛けたのは、水尾の方だった。地を蹴り、一瞬で麗花に肉薄する。大上段に振り上げた太刀が、鋭く左袈裟から斬り降ろされる。今までのどの敵よりもその剣撃は速く、麗花は瞳を開かせながら両手に握った刀で彼女の剣に合わせる。
ギィンッと金属音が鳴り、刀同士が激しく打ち合う。麗花は水尾の太刀を刀の腹で受け流しながら、鍔迫り合いに持ち込む。太刀と刀を通して、二人の身体が激しく接近する。
「流石、護衛を瞬殺しただけはありますね」
水尾は額に汗を滲ませながら、目と鼻の先にいる麗花へ向けて苦笑する。麗花は表情こそ変えなかったが、彼女の頬にも一筋の汗が伝っていた。
「私も、こんな所では負けられないから」
「そう、ですか……!」
押し込んで来る水尾に、麗花は隙を探す。その右の脇腹に、彼女は僅かな隙を見つける。
腰を落とし、麗花は思い切り彼女の太刀を弾き返す。
「ッ!?」
水尾の身体が弾き返された太刀につられて、麗花から見て右へと傾く。体勢を崩した彼女の左脇腹へと麗花の回し蹴りが炸裂した。
「ぐぁッ!」
脚が脇腹にめり込み、水尾は蹴られた方向へと身体を曲げながら吹っ飛ぶ。庭の地面を擦りながら、彼女は数メートル先の地面に転がる。土煙が遅れて彼女の周囲に舞い上がった。
振り抜いた脚を戻しながら、麗花は体勢を整える。確かに命中した筈なのに、伝わってきた手応えは薄い。麗花は倒れた水尾を見て、直ぐに立ち上がった彼女を確認すると、感嘆の息を漏らした。
「あそこで私の蹴りを避けるなんて、すごいね。初めてだ」
「そうですか……それは、光栄ですね……」
麗花はあの一撃で決めるつもりでいた。普通の戦闘員ならば、気の籠もった蹴りで殆ど戦闘不能になっていただろう。しかし、彼女は食らう瞬間に蹴られる方向へと飛ぶ事で、威力を受け流していたのだ。だが、完全に殺す事は出来ず、立ち上がった彼女は痛みに表情を歪めながら脇腹を押さえる。
近くで一人残った護衛の少女が心配そうに水尾を眺めていたが、彼女はそれでも気丈に麗花に向けて太刀を向ける。
「こんな所で、簡単に倒れる訳にはいかないのです……!」
構える麗花に向けて、水尾も腰を深く落とし正眼に太刀を構える。先程のダメージを感じさせない勢いで地面を蹴ると、一瞬で麗花との距離を詰める。
「はぁあッ!!」
繰り出される突きは、先刻麗花が倒した少女の突きとは段違いの速さで彼女に迫る。
麗花の持つ刀より水尾の持つ太刀の方が長く、リーチもその分だけ有利だ。その長いリーチから放たれた強烈な突きは、避けようと身体を倒した麗花の肩を捕らえた。
「くッ!?」
顔を逸らした彼女の脇を凄まじい勢いで太刀が通過するのと同時に、刃が麗花の右肩を斬り裂いていく。幸い刃は浅く彼女の肌を斬っただけだが、斬り口から麗花の鮮血が辺りに散った。
避けた勢いのまま、麗花は水尾から距離を取る。黒いブレザーの右肩が、赤黒く染まっていく。流れた血は袖にまで伝って、刀を握る右手からポタポタと地面に垂れる。
「外しましたか。貴女もやりますね」
「うん、貴女も凄い突きだった」
痛みに脂汗を滲ませながら笑う水尾に、麗花は表情の薄い顔で答える。麗花も一瞬見えなくなる程の速さだった。あれだけだったら、自分の妹よりも速かったかもしれない。
「まだまだ、これからですよ」
水尾はそう言うと、再び一気に接近して今度は突きではなく横薙ぎに太刀を振るってくる。麗花は刀を両手で握ってそれを受け流すと、その次には間髪入れずに左肩を狙う斬り上げが襲ってくる。彼女は、紙一重でそれをかわす。
二人の間で何度も何度も剣戟が交じ合わされる。その度に刀同士がぶつかる金属音が鳴り響き、水尾や麗花の声が交差する。麗花が剣の合間に蹴りを繰り出せば、水尾は器用に刀の柄を盾にしてそれを防御してみせた。
二人の刀も太刀も、彼女達の力に応えてその白刃をきらめかせる。連続する太刀合いにも関わらず、折れる事も欠けることもなく二人の刀は火花を散らし続ける。
水尾が攻撃しては、麗花が受け流す。麗花が体術を組み合わせた剣術で反撃すれば、水尾はそれを器用な身体のこなしと剣の腕でいなす。切り合いの中で麗花が強烈な蹴り技を水尾へ繰り出すも、水尾は腕を交差させ、後退する事で威力を殺しながら防ぐ。その腕が、折れる事もない。だが、水尾の連続した袈裟斬りや逆袈裟斬り、突きも麗花を捉えるには至らず、紙一重でかわされる。当たっても衣服を切り裂くだけか、かすり傷を負わせるだけだ。
短い時間の間で凄まじい数の攻防が繰り広げられる。しかし、お互い決定打に掛けていた。
「はぁッ……はぁッ……」
永遠に続くかに見えた戦い。
だが、その終わりも確実に近付く。
水尾の息が、何度も刀を打ち合わせるにつれて徐々に上がっていく。太刀の振りも鈍くなり、麗花に楽々と回避される様になる。
麗花の方も汗はかいているが、その薄い表情に変化はあまりない。余裕ともとれる目で水尾の攻撃をいなし続けていた。
一度大きく、二人は離れる。水尾の水干には所々刀の切れ目が入り、血が滲んでいた。同じく、麗花のブレザーにも幾筋かの太刀が掠った後が刻まれており、うっすらと赤く染まっている。
「このッ……!」
中々決まらない自らの斬撃に苛立った水尾は、抜身の太刀を掲げて麗花へ突っ込む。満身創痍の身体でも、その速度は今まで相手にした少女達より圧倒的に速い。
だが、麗花はそんな水尾に対して刀を鞘に納めた。無手のまま、彼女の攻撃を待ち受ける。
「何のつもりかは知りませんが、これで終わりです!」
彼女の頭を割らんと振り下ろされる太刀。それは空気を切り裂きながら、麗花の脳天へ。
そして、その直前で太刀はピタリと停止した。
「なぁッ……!?」
口をあんぐりと開け、唖然とした表情を浮かべる水尾。太刀を振り下ろす手も、震えている。
無理もない。何故なら、麗花の突き出した二本の腕……正確にはその掌によって太刀の刀身が挟まれていたからだ。
「四条流奥義、真剣白刃取り」
真剣白刃取り。古の剣術に於いて超高等技術とされた技であり、失敗すれば即死に繋がる危険な技でもある。それを麗花は、いとも簡単に成功させたのだ。淡々と、その技名を口にしながら。
開祖『四条レイ』と同等かそれ以上の戦闘センスと技術を持つとされる麗花だからこそ、為せる技であった。
「くっ……!」
水尾は渾身の力を込めてもろとも麗花の頭を叩き割らんと、太刀を握る手に力を込める。だが、動かない。太刀はその場に縫い止められたかの様に一寸たりとも、動かなかった。
麗花は受け止めた刃を離す事なく、その両の掌に自らの『力』を注ぎ込む。淡く青白く光る手が、尋常ならざる力で水尾が持つ太刀を捻った。
「きゃっ!?」
90度横へひねられた太刀は力が柄へも伝わり、勢い良くグルリと回転した柄が水尾の手を弾き飛ばす。
水尾の口から何とも可愛らしい悲鳴と共に太刀がもぎ取られる。麗花は水尾の手から奪いとったそれを遠くへと放り投げた。
空中で回転しながら、太刀は麗花の後ろへと放物線を描いて飛んでいく。地面に突き立ったその場所には、麗花によって壁に自らの太刀で縫い止められた少女の姿があった。腹部を真っ赤に染めた彼女はもうピクリとも動かず、その股間から大量の半透明の液体が溢れ出させながら、内股を伝って地面に幾つもの染みを作っていた。
「うっ……」
太刀を奪われた水尾は、明らかに狼狽える。指揮官として体術の心得はあるだろうが、彼女にそれで麗花と渡り合える自信はあまり無かった。その様に焦る彼女には自然大きな隙が出来ていた。それを、麗花は見逃さない。
とんっ、と。軽く地面を蹴っただけで彼我の距離がゼロになる。水尾の懐深くに、麗花が流れる様に滑り込む。刀は納刀したまま、開いた右手を握りしめる。
「あっ……」
切ない声が、水尾の口から漏れた。対応しようとした彼女の右腕は麗花の左腕にしっかりと掴まれ、阻まれる。左腕で防御しようにも、間合いが深すぎて間に合わない。
「これで、終わり」
冷めたままのテンションで、麗花が告げる。直後、振り抜かれた拳が勢い良く水尾の鳩尾に叩き込まれた。
「ごふぁッ!?」
打ち上げ気味に突き上げられた拳が、水尾の豊満な胸の中心辺りの下へとめり込む。水干とその下の白衣の生地を巻き込みながら、麗花の逆手に握った右手が水尾を抉った。
水尾は瞳を収縮させながら、急所を射抜かれた痛みに悶える。大きく開かれた口からは唾液と胃液の混合液が一気に吐き出され、彼女の衣服を染める。四肢はビクビクと震え、目尻からは痛みからか涙が流れ落ちた。
意識が急速に遠のき、視界が暗転する。
拳が抜かれると同時に、水尾の身体がぐらつく。前に倒れ込んできた彼女の身体を、麗花は優しく抱き止めた。
「ゆっくり、休んで」
「お前、よくも水尾様を!」
叫ぶ声に気が付けば、残っていた護衛の銀髪の少女が麗花を指差していきり立っていた。彼女の額に付けた白い鉢巻を見ながら、麗花はよく怒る子だな、と静かに息を吐く。
「大丈夫、手加減はしたから。死んでない」
「そんなこと……!?」
少女は麗花に走り寄ると、彼女から水尾を受け取って抱きかかえる。その口に耳を近付けると、ゆっくりではあるが確かに息をしていた。その豊満な胸も、呼吸に合わせて上下している。
「…………」
少女は無言のまま、抱き上げた水尾を縁側へゆっくりと寝かせる。釈然としないまま、麗花へと向き直った。
「貴女の指揮官は強かった。こんなに強い相手は、妹と父さん以外では初めて」
麗花は、頬に出来た切り傷を指で拭き取りながら、残った少女に称賛の言葉を投げかける。制服であるセーラー襟のブレザーは、大小様々な傷や血、返り血で汚れてしまっている。もうこの服は多分使う事は出来ないだろう。また新調をしなければならない、と麗花は頭の片隅で考えていた。
それでも、ここまで傷を負わされた相手は初めてだった。最終的には勝利したが、彼女の体捌きも太刀筋も間違いなく一級品だ。とてもこんな小部隊の先遣隊の指揮官をしている様な柄には見えない。
「それはそうだ。水尾様は、元々はサクヤ様の妹君……カグヤ様の親衛隊を努めていたのだからな」
「カグヤ様……?」
「そうだ。男性との共存を望む、平和主義のお方だ。我らと違って、な……今は北辺の地に追放されてしまっている」
彼女は、北に見える山脈を遠い目で見つめる。だが、その目は更にもっと遠くを見つめている様な気がした。
「私もカグヤ様に仕えていたが、今はただ一人、水尾様に仕えてこうして……いや、お前には関係のない話だったな、すまない」
少女は懐かしむ様に言うと、立ち上がる。麗花は彼女が襲ってくる事も覚悟していたが、彼女から先程まで感じていた殺気もすでに感じられなくなっていた。『カグヤ様』という単語を口にした途端、雰囲気も変わった様に思える。
「約束は、守る。まぁ、個人で反抗してる戦闘員にまで行き渡るかわからんが、何とかしてみよう」
「わかった。ありがとう」
彼女は庭に降りると、太刀を抜き払って陣幕に近付く。白い陣幕に太刀の切っ先を突き刺し、一メートル四方程に切り裂く。出来上がった大きな布地を持ち、銀髪の少女は縁側に向かう。縁側の隅に立て掛けられていた小銃を取ると、彼女はその小銃の銃口付近に器用に布地を巻きつける。それを掲げて風に靡かせると、即席の白旗が出来上がった。
「私はもう行ってくる。ここを獲った戦功はお前のものだ。水尾様も含め、後は頼んだぞ」
「……うん、わかった」
銃を肩に担いで歩き出す銀髪の少女。振り返った彼女に対して、麗花は強く頷く。
それに満足したのか、少女はポニーテールにした長い銀髪を左右に揺らしながら、力強く走り出す。麗花は、彼女が門から外の通りへと消えていくまで、その後ろ姿を見送っていた。
中央の広場から聞こえてきていた銃声が、途端に静かになっていく。怒声も悲鳴も、嘘の様に消えていく。
堰を切った様に大量の秋津の兵士達が門から邸の庭へなだれ込んで来たのは、それから少し経った頃の事だった。
彼らはそこで、縁側に座っている傷だらけのブレザーを着た少女を見つける。
彼女は彼らに気付くと、呆然とする彼らに向かってニコリと微笑む。そして、一言こう告げた。
「皆さん、お疲れ様です。良くやってくれました。我が軍の、大勝利です」
やや遅れて、状況を察した兵士達の中から鬨の声が上がる。
声は加速度的に大きくなり、邸中を包み込む。勝利の雄叫びの声の波は、そのまま村中全体へと響き渡っていった――――。
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