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九頭龍教占領地の奪還 中編その1

激化していく戦闘を描いていきます。少女兵士が沢山やられる描写があるので女の子が死ぬ系が苦手な方は注意。

 水尾が秋津軍襲来の報を受け取ったのは、寝室で床に就いていた時であった。彼女の中では勿論徹夜も覚悟していたが、副官に勧められて僅かではあるが仮眠を取っていたのである。


 慌ただしい物音と銃声、部下達の叫ぶ声に水尾は直ぐ様飛び起きる。彼女が寝巻きも着替えずに敷かれた布団から出て、頭側に置かれていた太刀置きに這い寄る。そこに置かれていた自らの太刀を掴むと同時に、寝室の襖が勢いよく開けられた。


「水尾様、敵襲です! 秋津の軍隊が攻めてまいりました!」


 緑色の髪を頭の右側でサイドテールに纏めた彼女は、紫の袴を穿いた水尾の護衛の一人であった。彼女は焦燥しきった表情で事の次第を水尾に告げる。


「敵の数は?」


「凡そ200前後。ですが、増援もあるかも知れません」


「守りはどうなっていますか?」


「現在南側正面入口の防壁が突破され、村内南部の各所で白兵戦になっています。複数設置した防壁と家屋を使って防衛していますが、敵の勢いが強く殉教者が多数出ている模様です」


「わかった。最低限の戦力を残し、北側の防衛兵力を全て南側へ回させます。ただし、東門には一定の防衛兵力を残しておく。敵の増援が来るかもわからないですからね」


「はい、了解しました!」


 水尾は手早く着替えながら護衛の少女に指示を飛ばす。着替え終わると自らの銀で装飾された太刀を佩き、少女と共に広間へと姿を現す。控えていた伝令に護衛の少女が水尾の命令を伝えると、伝令は紅の袴を翻しながら北門へと駆けていった。水尾は続いて、もう一人の伝令を手許てもとに呼ばせる。


「何でしょうか、水尾様」


「貴女は直ぐに本隊へ向かって下さい。繋いである馬は使えますね?」


「は、はい!」


「本隊についたら、直ちに増援を送ってくれる様に通達する事。良いですね?」


「わかりました!」


「ではもう行って下さい」


 二つ返事で伝令の少女が承諾すると、先程の伝令と同じ方向へ、しかし小道へ逸れて即席のうまやへと駆け込んでいく。彼女が馬に飛び乗って走り出した事を確認すると、水尾は周りや庭にいる護衛の少女達を一度見渡した。そこで、彼女はある事に気付く。


伊泉いずみは何処へ行ったのです?」


 それは、水尾の副官の名だった。昨夜は寝るまで片時も離れずに傍に侍ていた事を覚えている。その彼女の姿が、何処にも見えない。


 一番近くにいた緑髪の護衛の少女が、水尾の問いに直ぐに答える。


「副官殿なら、敵襲の報を受けると真っ先に手勢を率いて飛び出して行きました。異教徒共を一人でも多く討ち滅ぼしてやるんだと勇んでおられましたが……」


「そうですか……彼女の健闘を、水神様に祈りましょう」


 水尾は半ば嘆く様に言う。それから居間に置かれた簡易な折り畳み式の椅子に腰掛けると、自分の太刀の紐を解いて外し、目の前に持って来るとゆっくりと鞘から刀身を抜く。鞘や柄には黒漆の上に銀が鍍金された銅板を螺旋状に巻いた美しい装飾が施されている。古の武士が好んでいたと言う、『蛭巻太刀』と呼ばれる様式の拵えだ。他の少女達の太刀には無い豪奢なそれが、彼女の指揮官としての位を如実に表わしていた。


 刀身に施された刃紋が、白んできた空に俄に照らされ、鈍い輝きを放つ。対する水尾の表情はしかし、明るいものではない。


 今から増援を呼びに行っても、間に合わない可能性の方が大きいだろう。九頭龍教の戦闘員として皆士気は異常に高いが、彼我の武器の差は明らかだ。余程戦術に巧みか地の利でもないと、精神力だけで打ち勝てる相手ではない。


 それに、こちらは侵攻した側。奪還作戦ともなれば、敵の士気も旺盛な事は火を見るよりも明らかであった。


「もっとも、私達の政策は男の人からしたら許せないのでしょうね……秋津の兵士達も、殆ど男性の様ですし」


 水尾は独り言の様に嘆息する。九頭龍教の教えでは、男性は皆女性に奉仕して然るべき存在なのだ。女性は子孫を繁栄させる宝にして男性を統べる事の出来る人種とされていた。また、本来の教えから更に過激になり男性の上に立つのは女性で無くてはならず、男性として生まれてきた事は人間としての恥、一生奴隷の様に働かなければいけないという思想も多くの信徒や戦闘員に根付いている。一生働いて、来世は女性に生まれる様に祈るのが唯一の生きる道なのだと。


 無論、それに反対する信徒もいた。しかし主流派とは相いれず弾圧され、遂には教祖の妹までもが男性と共に共存共栄していくべきだと、教義を変えて男性の権利を主張し始めた事により決定的に対立。最終的には完全に排斥される羽目となった。


その後、教祖の妹を中心としたその一派は『泉月教』という新たな教派を立ち上げた。龍泉郷は、最終戦争前にはヒライズミ、イーワテと呼ばれた北国を治めている。しかし、放逐された『泉月教』の信徒達は、更なる北の地へと逃れる様に移住していったという。


「カグヤ様……」


 水尾は、知らず内に教祖の妹の名を口にする。口にした彼女の瞳には、何処か懐かしさや慈しみの様な優しい色が灯っていた。


 しかし、彼女の穏やかな雰囲気は走り込んで来た紅白の一般戦闘員の少女によって打ち破られる。


「第二防壁、突破されました! 現在第三と中央広場前の大通りに設けた、複数の防壁にて防戦中です!」


 水尾はそれを聞くと、一度抜き出した刃を静かに納刀する。パチンッという小さな金属音がいやに良く響いた。


「わかりました。今言った通り、増援を南へ向かわせなさい。何としてもここで食い止めるのです」


 水尾は椅子から立ち上がり、周囲にいる少女達へ力強く下命する。おうっ、という威勢の良い掛声が彼女達の中から沸き起こり、意気高揚した少女達は一斉に動き始める。


「さて……だからと言ってタダでやられる訳にはいきません。精一杯、抵抗だけはさせてもらいます……!」


 縁側へ出た水尾は、白い空を見上げながら表情を変えずに言う。


 ――戦闘の音は、徐々に彼女へと近付いて来ていた。



――――――――


 その頃、南側正面の通りの各所で激しい戦闘が行われていた。


 その内、村を南北に貫く一番大きな通りの中央広場まで至る道の各所に小さな即席のバリケードが造られ、それらを挟んで銃弾や剣戟が飛び交う。左右に茅葺き屋根の家屋が連なる通りは、硝煙の臭いと煙に支配されていた。


 しかし、白兵戦が行われる度に少女達の悲鳴と地面に倒れ込む音が幾度も響いた。兵士達は次々と襲いかかってくる紅白の衣装を着た龍泉郷軍の少女達を着実に排除しながら、ジワジワと進んでいた。接近されると直ぐに太刀や銃剣、薙刀で突っ込んでくる彼女達だが、如何せん勢いだけで技術が追いついていない。


「きゃうッ!」


 一人の少女が太刀を振りかぶった瞬間、その胸に鋭く銃剣を突き立てられ、悲鳴をあげる。秋津の兵士によって背中まで貫いた銃剣が勢い良く抜かれると、彼女は胸から血を噴き出しながら彼の脇に身体を横たえて何度か大きく身体を震わせる。


「悪いな、俺もむざむざ殺される訳にはいかねえんだ」


 中央広場へと続く幾つかのバリケードを乗り越えた彼は20代半ば程の若い兵士だった。断末魔の痙攣を見せる少女に一言告げた彼は直後、素早く背後を振り向いてボルトを操作。装填した小銃を目標に向ける。銃口の先に、こちらへと銃を構える少女の姿があった。


 聴こえた銃声は一つ。ダァンッっと兵士の銃口から火花と黒色火薬の煙を噴き上げながら撃ち出された弾丸は、黒髪を腰まで長く伸ばした少女へと吸い込まれていく。


「はぅんッ!?」


 鳩尾の辺りを撃ち抜かれた少女は大きく身体を仰け反らせる。撃たれた拍子に力が入り、彼女の小銃は空へ向けて何も無い空間へと弾を発射させる。彼女は銃を手放しながら、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


 血が白衣を朱に変えていくのが遠目で見ても解る。黒髪の少女はその後、二度と起き上がる事は無かった。


「いけぇッ! 憎き男なぞに遅れを取るな! 我らの力、見せつけてやる!」


 聴こえた声に振り向けば、広場を塞ぐ最後の防壁の後ろに幾人もの少女達が殺到してくる。防壁までの距離は25メートル程先だろうか。あそこを越えれば、中央広場へ到達出来るだろう。


 防壁を構成する土嚢や米俵は立った彼女達の腹部の高さ程まであり、しゃがめば頭以外その身を隠す胸壁の役割をしていた。しかし、意気盛んな少女達は胸壁の裏で待ち構える事を良しとせず、乗り越えて太刀を抜き放ち、一気に彼に詰め寄って来る。


 内、先頭を走る黒髪を肩ほどで切り揃えた少女は、他の少女とは違い赤の縁取りをした水干の様な衣装を羽織っている。所謂小部隊の纏め役の様な立ち位置であり、こちらで言う分隊長や小隊長に当たるものだと彼は経験上知っていた。そして、複数の少女達が突っ込んでくる中にあっても彼は冷静さを失わずに後退する。


 何故なら、こちらも一人で戦っている訳では無いからだ。


「構えー! 狙えー!」


 10メートル程下がった所にあった別の胸壁の後ろで、秋津軍の兵士達が小銃を構えて一列に並ぶ。脇から胸壁の後ろに回り込んだ彼も、その列の端に並んだ。


 そこには一人の赤髪を勝ち気に頭の後ろで縛った少女が、胸壁の上に身体の左側を下にして横になっている。既に彼女の瞳は何も映しておらず、眉間には赤黒い穴が空いていた。乱れた服の合わせからは若く瑞々しいふくよかな膨らみが見えそうになっていたが、彼にそれを眺める時間的猶予は無かった。


 彼は急いで彼女の服を引っ張って無造作に胸壁の下へ落とす。地面に落とされた彼女は既に彼の脇の地面で横たわっていた別の少女の上に伸し掛かる様に落ちるが、彼はそんな彼女の行末を気にも止めずに空いたスペースに両肘を突き、しゃがみ込んで他の兵士達と共に正面に銃を向ける。ボルトを開いて弾倉の残弾を確認すると、まだ二発残っていた。それをボルトを再び閉める事によって薬室に装填する。


 構えると、10人以上の少女達が太刀や銃剣、薙刀を持ってすぐそこまで迫ってきていた。走る度に短い袴がひらひらと場違いな程にはためき、少女達の太股や下着、股間の三角ラインが見え隠れするが、機動性を重視した結果なのだろう。彼女達自身にも、それを恥ずかしがって突撃をやめるものはいない。


 彼我の距離が10メートルを切るか切らないかの距離で、彼らを指揮していた分隊長が号令を下した。


「撃てー!!」


 筒先を揃えた兵士達が殆ど同時に引き金を引き、轟音と共に10発近い弾丸が発射される。それは、向かってきた少女達を紅白の衣装ごと無慈悲に引き裂いた。


「きゃぁッ!」「ぐぅッ!?」「あぅッ!」


 甲高い悲鳴が幾つも聞こえ、5人6人と少女達がその場に倒れる。水干を着ていた黒髪の少女は真っ先に狙われ、胸に3発もの弾丸を受けて勢いそのままに滑り込む様にして仰向けにその場に倒れ伏す。運良く銃弾を喰らわなかった少女達も6人程残っていたが、猛烈な硝煙の匂いと一気に戦力が半減した事にその勢いを鈍らせる。


 が、戦意は全く失っていなかった。


「イズミ様の仇! 死ね!」


 生き残りの少女の一人が、装填済だった小銃を兵士達に向ける。輝く様な金髪をポニーテールにした彼女は大きな青い瞳で兵士達を睨みつけながら躊躇無く引き金を引く。銃右側面の撃鉄が勢い良く雷管を叩き、内部の火薬に着火。前装式とは言えライフリングの刻まれたライフル銃である。放たれた弾丸は、再装填をしようとボルトを弄っていた兵士の一人の頭を射抜き、胸壁の後ろへ吹き飛ばす。


 彼女は腰に佩いた太刀を抜き放つと、銃を捨てて他の少女共々再び突撃に移る。前装式の銃は再装填にどんなに早くても20秒は掛かる。ならば突っ込んだ方が早いのである。突っ込んだ先には、先程後退した兵士の姿があった。


 彼は、残り一発になった弾倉の弾を落ち着いて装填する。彼の持つ銃は四条一華の持っていた『皇国十三年式』と呼ばれる小銃の小改良型であり、11ミリ口径の弾と弾薬に黒色火薬を使う事には変わりは無いが、機関部の下部に新しく箱型の弾倉が取り付けられている。これにより、4発まで弾を装填する事が出来、クリップと呼ばれる4発一纏めにしたものを使えば一気に装填する事も可能なのだ。


 よって、20秒以上掛かる金髪少女の銃と違い、弾倉に弾がある限り次弾の装填は5秒もあれば完了する。


 制式名称『皇国二十年式』と呼ばれるその小銃を、彼は毅然として構える。まだ、彼女の太刀の間合いには程遠い距離。


「……悪いな」


 自分を指し示した銃口に何かを悟り、金髪の少女は血の気を失う。そんな彼女に彼は謝罪の言葉を一言述べると、引き金に掛けた指に力を込める。白煙を噴き上げて撃ち出された弾丸は、的確に白い衣に包まれた左胸の僅か下を貫いた。


「はぐッ!?」


 彼女の大きな膨らみを避けるかの様に飛び込んだ弾丸は、心臓を貫きながら背中にも大きな穴を開けて抜けていく。


 彼女は短い悲鳴を残して、二、三歩よろめく。虚ろになった瞳を震わせながら、血で真っ赤に染まった胸元を見遣る。そのまま何も言う事は無く、金髪の少女は右肩から地面に倒れ込んでピクピクと四肢を痙攣させる。周囲に倒れる他の少女達と同じ様に、彼には聞こえない位の液体の噴出音の直後、太股を半透明の液体が人知れず伝っていった。


 直後、装填を終えた兵士達が各個自由射撃で少女達を撃ち斃していく。彼も腰の弾薬盒から4発纏めた弾薬クリップを装填し、兵士達の射撃に加わる。少女達も撃ち返すが、連射力の差には叶わず、次々とその身を撃ち抜かれて地面に倒れ伏していく。


 数分程後には、20人近い少女達が紅白の衣装を自らの血に染めながら累々とその屍を晒していた。


 しかし、彼女達の突撃はこんなものでは終わらない。一息ついた兵士達が目にしたのは、胸壁の裏に更に数を増して集まってくる龍泉郷軍の少女達の姿だった。広場の方にも白の人影が何十人も見える。総勢、100人を優に超える少女達の軍勢だ。


「まだ来るか……」


 兵士は仲間と共に辟易としながら、その様子を胸壁の影から眺める。彼女達の戦意の高さは異様とも言える程だ。


 彼はこれが初めての実戦では無く、襟の階級は数年以上軍に勤務した事を表す上等兵を示している。約5年程前、まだ新兵の頃にこことは正反対の方角の西部辺境地帯での国境紛争に参戦した事があった。同盟国のヤマト連合国の軍が国境を犯し、西方に隣接する嫦娥コウガ連邦共和国の領土に攻め入った事から起こった紛争だ。ヤマトと嫦娥連邦は何回も戦争を起こしている敵国同士であり、約25年前には嫦娥連邦が大規模にヤマトへと侵攻し、秋津軍も救援に動員され大戦と呼ばれる大戦争が3年に渡って行われた。結果は秋津・ヤマト連合軍の勝利に終わり、講和が結ばれたが、それからもヤマトと嫦娥連邦のにらみ合いは続いている。どちらも上層部に好戦的な者が多いのが理由だった。


 彼が参戦した国境紛争も、ヤマトの諸侯の功名心というかなりくだらない理由で起こされたものだった。しかしヤマト連合は基本的に科学文明を嫌うものも多く、近代的装備を持った軍隊も多くない為、直ぐに秋津皇国に救援を求めるのが常だった。彼が派兵されたのも、嫦娥連邦に反撃されて切羽詰まったヤマト側からの救援要請に応えて派遣された結果だった。戦争には大戦時から改良された武器や兵器が用いられ、半年程で講和に持ち込んでいる。その際、秋津から皇帝ミカドの名代として派遣された高官により、ヤマト連合の主だった諸侯達がその軽率さを叱責されるという事態も起こっている。


「連邦の部隊も女が多くて戦意も高かったが……こいつらはそれ以上だな……クソッ、辺境警備になんか志願するんじゃなかったぜ」


 続々と集まる紅白の少女達はその容姿の端麗さからは信じられない様な熱気を以って彼らと対峙している。武器や装備も一世代以上古い物が配備される辺境配備の部隊は勤務が楽だと聞いていたから彼は主力軍からこちらへ移籍してきたのであるが、今更ながら後悔する。


 ただ突っ込んでくるだけの相手を撃ち倒すのは簡単だ。しかし、戦意が高すぎるのと宗教心に燃える相手は死を恐れないので始末に悪い。厄介な事この上なかった。


「戦意の高さに於いては彼女達が海の向こうの大陸も含めてこの地域では一番だ。いや、全世界でも一番かも知れん」


 彼の背後から掛かった声に、彼は振り向く。そこには中佐の階級章を付けた無精髭の堂々たる体躯の男が立っている。部隊の総隊長を務める、大隊長だった。


「だ、大隊長!」


「まぁ、旧時代では極東。または東アジアと呼ばれたここ以外にどんな世界が拡がっているのかは今となってはわからんがな。あ、でも大陸の遥か西にも未だに人が住んでいるみたいだぞ?」


「は、はぁ……」


 彼の前で唐突な雑学をひけらかした大隊長は軽快に笑う。この戦闘の中でのその余裕に、若い兵士は唖然とした。


「だが、こちらも負ける訳にはいかん。如何に少女だろうと邪な宗教に身を染め、我が国の領土を侵略してきた敵である!」


 大隊長は抜き身の軍刀を翻し、胸壁から身を乗り出して語気を強くして叫ぶ。彼の後ろにはいつの間にか、通りを埋め尽くす様に100人程の兵士が集結していた。


「ここが正念場だ。中隊長、敵の突撃に合わせてこちらも突っ込むぞ」


「ハッ!」


 大隊長の脇にいた大尉の階級章を付けた中隊長が威勢の良い返事を返す。彼は最初に突撃した第一中隊の中隊長であった。ずっと彼と共に戦闘しながら指揮をしていたのか、軍帽の下の顔には汗が浮いていた。右手には回転式の拳銃が握られている。


「第二中隊もそろそろだな……」


 胸ポケットに入れた懐中時計を眺めた大隊長が呟く。朝日が顔を出し、陽光が通りに降り注ぐ。


 集まった少女達の内小銃を持つ者達が胸壁を盾にして、こちらに銃口を向けてくる。赤い縁取りの水干を着た者も何人かいた。後ろには銃を持たない者も控えており、一斉射撃の後に突撃してくる算段であろう。


「隠せる者は身を隠せ! 突撃準備!」


 中隊長の掛声と共に兵士達が奪った胸壁の幾つかに身体を隠し、銃口を揃えて少女達に向ける。距離25メートル程。胸壁を挟んでの銃撃戦。


「俺だって、ここで死ぬわけにはいかねぇ……!」


 彼は内心で舌打ちし、今隠れている胸壁から頭と小銃だけを出して待機する。勿論銃弾は装填済だ。


 一瞬の空白が、双方の間に流れる。差した日の光が通りの土や家屋の壁、胸壁の土嚢や米俵、家財道具を黄色く染める。


 直後、双方の号令と共に一斉射撃の多量の銃声が辺りに響き渡る。襲い来る数多の銃弾に紅白の少女達が幾人も斃れる。にも関わらず、龍泉郷軍の少女達は黄色い声を上げながら突撃。


 双方250人近い人数の兵士達が中央広場前の通りで衝突した。


 戦闘はいよいよ激しさを増していく――――。




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