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九頭龍教占領地の奪還 前編その2

少しづつ世界観が解ってくる様な感じになっていると思います。

最後に戦闘が始まり、主人公格の女の子が一人出てきます。

広場に集められていた物資は彼女達が持参してきた大八車に載せられ、次々と荷造りが行われていく。一部は彼女達自身が使う食材としてその場に留め置かれた。彼女達によって接収された何軒かの家の中で、その食材を用いて九頭龍教徒で構成された龍泉郷軍の少女達が自身の夕食を作り始める。勿論、人手は足りないので今度は村の女性達が動員されていた。


 一箇所に集められ荷運びに使役されていた男達は日が落ちる頃になって漸く解放され、各々の家に帰される。だが、村を出る事は勿論、命令があった以外は外へ出る事も厳禁となっていた。女性達は外出自由となっていた為に、ここでも男女の違いが強調された。


 日は西に傾いて地平線へと消え、夜が村にやって来る。しかし、占領された村の中にはあちらこちらに篝火が炊かれ、武装した少女達が数人一組で村の周囲に配置されていた。本陣は村の中央広場から北側の通り沿いに置かれ、程近い場所にあった富農の邸がその仮陣所となった。元々住んでいた富農の一家は既に離れに追放されている。無論、監視が付いていた。


「誰か近くにいますか?」


 一人の少女の凛とした、それでいて良く通る綺麗な声が仮陣所とされた邸の居間に響く。戸板を全て外され縁側と外が一望出来る様になった居間の上座に、声の主が座っていた。


 年の頃は17~18歳程で、背は標準程度。その顔はまだあどけなさが残るものであり、灰色の瞳は丸く大きい。黒い髪を後ろで勇ましく一本に纏めているが、紫のリボンを使っている所が女の子らしさを感じさせる。


 着ている白衣の上には九頭龍教制式の水干を着用し、その縁取りと袖の装飾紐の色は紫。紫は紅より高貴な色とされ、紫縁取りの水干は戦闘部隊では百人から数百人以上の戦闘員を率いる隊長の衣装として許されている装束であった。下半身にも紫の袴を着け、紫の装飾紐が付けられた靴下を太股の上までしっかりと着用している。むにっと靴下に食い込む太股の肉が、彼女の肉付きの良さを感じさせた。そして彼女もまた,


装束を押し上げる豊かな胸の膨らみを持っていた。



「は、何でしょうか水尾みお様」


 彼女の声に反応し、縁側をすり足で走ってきた少女が彼女、水尾の前で跪く。


 少女の衣装は水尾と似た水干姿であったが、こちらは縁取りと装飾紐は紅。袴の色も紅だった。水尾よりは位が低く、副官や小部隊の隊長に許される服装である。彼女は、水尾の副官としてその任に就いていた。


「兵の配置は終わりましたか?」


「はい、全員が配置についています」


「よし、そのまま朝が来るまで待機。夜食には握り飯を適当な時間に持っていってあげて下さい」


「了解致しました」


 それだけ告げると、水尾は副官を下がらせる。彼女は跪いたまま頭を下げると、足早に縁側から邸の中へと去っていった。


 水尾はそれから立ち上がり、自分の座所として使われている居間から縁側へと歩いていく。縁側から見える庭の垣根には白い陣幕が張られ、外と内との視界を遮断している。庭の中には篝火が幾つか炊かれ、暗がりの中に淡い光を周囲に放ち、白い幕や庭の土、邸の壁を明るく照らし出している。


 その篝火の近くには紫の袴を穿き白衣を着た水尾直属の護衛の少女が数人、警備の為に立っていた。紅い袴では無いのは、隊長直属の護衛等に抜擢された兵士だったからだ。


 装備は全員が腰に黒塗りの太刀を提げて、両手には前込め式の小銃。太股には弾薬入れが紐で固く結び付けられている。少女達はまだ幼さが残る顔を険しくさせながら、辺りを一心に見張っていた。この本陣に不審者は絶対に通さぬと言わんばかりに。


 そんな彼女達の様子を睥睨した水尾は、一度息を吐く。憂う様な、大きな溜息だった。


「装備が悪い訳ではない……しかしこの様な武器で、我らの崇高な目的は達成出来るの……?」


 誰にも聞こえない様に小声で、水尾は呟く。原因は彼女達の武器と『秋津皇国』との圧倒的な武器の差であった。



 ――21世紀中頃に勃発した最終戦争より500年余り。戦争とその後に行われた科学破壊運動により失われたモノは数多くあり、それは民生品から軍用品に至るまでありとあらゆる分野の技術も例外ではなかった。勿論武器や兵器もその中に入っており、人類は暗黒時代を通してその復興を目指してきた。龍泉郷でも、国是とする本州全土の教化の為に旧時代から残されていた知識や復興させた技術を総動員して武器を開発していたのである。


 今、目の前の少女達が装備しているのがそれだった。前装填式、全長140センチ程の小銃。銃身にはライフリングが刻まれており、銃弾には先の尖った椎の実型の弾を使用する。発火方式は雷管式と呼ばれるもので、機関部から突き出ている角の様な火門に雷管を被せ、機関部右脇に設置されたサイドハンマーと言う撃鉄がそれを叩く事によって銃身内部に詰められた火薬に着火して銃弾を発射する方式である。今までの火縄を使っていた小銃より格段に不発率が少なく、更に銃身に刻まれたライフリングと言う溝によって遠距離での弾道安定性も高い。有効射程は300mに達する。


 龍泉郷はこの銃を既に量産して軍の少女兵士達に配備させていた。護衛を務める紫袴の水尾の護衛達も、全員がそれを装備している。


 更に龍泉郷の総本山の研究施設では、後ろから弾を込める後込め式……後装式銃の開発も進んでいるという。一部は製造も始まっている様だ。


「だが、それでも足りないのです……」


 水尾は居間の奥に歩いていき、上座の壁際に立て掛けられていた一丁の銃を手に取る。それはこの村の村長の屋敷にあった武器であり、『秋津皇国』の軍から払い下げられた品なのだという。


 全長134センチ程度。長さはこちらのよりやや短くなっているが、機関部に大きなボルトが使われているボルトアクション式。勿論後装式であり、金属薬莢に収まった11ミリ口径の弾を10秒掛からないで装填する事が出来る。これでも大分旧式であり、中央の軍隊では弾を何百発も連射出来る兵器や鉄の装甲に覆われ大砲を搭載した車が実用化されていると彼女は村長から聞いていた。


 それは、彼女とて知らない訳ではない。


「鉄道・自動車・飛行機……」


 水尾は銃を再び立て掛けて上座に置かれていた折りたたみ式の椅子に座ると、頭に思い浮かんだ単語を羅列していく。それはいずれも龍泉郷の首都の図書館に残されていた文献に書かれていたものだった。500年程前……21世紀に遡る旧時代ではそれら鉄で出来た機械が縦横に人々の移動手段として活躍していたという。


 そして、『秋津皇国』はそれらを完全では無いにしても全て復興させ、旧時代の魔法の様な技術に少しづつではあるが、追いつきつつあるというのである。


 更に、それら旧時代の技術を復活させたのは皇国内でカミサマと称されている幼い少女達らしい。彼女達は自らを『P.P.doll』と名乗っている様だが、彼女達及び彼女達がいた秘密基地のシェルター内に収蔵されていた旧時代の知識や技術が、秋津皇国に躍進を齎した。


 結果、建国から60年程経つ同国が域内でも最高クラスの技術力や軍事力を持つのは、彼女達のお陰なんだそうな。因みに報告では、彼女達が現れたのは100年近く前とされている。なのだが、現在でも当時と変わらぬ姿を保っているとの事だ。それもまた、旧時代の摩訶不思議な技術の賜物らしい。国民も上述の様にカミサマと崇めるものすらおり、時たま現れる彼女達にはあまり気にせず接しているとの事だ。寧ろ、年齢を聞く事はタブーだともされている。


 ――――そんなある意味デタラメな国と戦って、教化どころか勝てるのだろうか? いや、そもそも勝負になるのだろうか……?


 水尾の脳裏にそんな言葉が浮かんでくる。今は村を占領出来ているとしても、こちらは僅か300人程。本隊が控えているとはいえ、この数では秋津の軍が本気で奪還しにきたら前述の武器の差であっという間に取り返されてしまう。


 本隊からは未だ占領を維持せよという返答しか来ていない。加えて村民を教化せよ、とも。


 今回の侵攻も、教祖様が突然決めたことだ。教祖様は、秋津皇国の事を本当に解っているのだろうか? 一体何を考え――――。


「ぐ、うぅッ……!?」


 突然、水尾の頭に強烈な痛みが走った。脳の奥から全体に拡がる様な激痛は、思考を阻害させ意識を奪っていく。ガンガンと叩く様な痛みに堪える事が出来ず、水尾はその場に蹲るようにして倒れ込む。


「水尾様!?」


「だ、大丈夫ですか!?」


 水尾の異変を察した少女達が水尾の下へ駆け寄る。先程の副官も驚いて彼女の肩を支えて介抱する。続いて上がってきた少女達は銃を降ろして水尾の周りを心配そうに取り囲んだ。


 誰ともなく医者を呼ぼうと同僚に指示した所で――――、


「大丈夫です。心配は無用」


 水尾自身が手を額に当てながら制止する。整った眉が震え、冷や汗が頬を伝い落ちていた。


「で、ですが……」


 副官の少女が食い下がるが、水尾はそんな彼女を強く睨みつけた。


「心配するなと言ったでしょう。持ち場に戻って」


「は、はい……」「わかりました……」


 有無を言わさない水尾の言動に、紫白の衣装に身を包んだ少女兵士達が、渋々といった表情で水尾から離れ、居間から庭へと戻っていく。元の持ち場へつくのを確認して、水尾はゆっくりと立ち上がった。副官の少女も傍についているが、何も言う事は出来なかった。


 彼女はそのまま縁側に出て、雲が多く暗い空を見上げる。


「教祖であらせられるサクヤ様を疑うことなかれ。私は所詮消耗品……。やることをやるだけです。九頭龍の、水神のご加護があらん事を……」


 そう、呟いた。縁側の脇に焚かれた篝火が、彼女の顔を薄く照らす。その灰色の瞳は、何の光も映してはいなかった。



 夜が過ぎ、落ちていた太陽が徐々に登って朝を迎える。その幾らか前。


 薄暮の中、複数の人影が村へと続く道の一つを行く。全員身を屈め、村からはばれないように、こっそりと。集落の道の両脇は雑木林になっており、彼らはその中へと身を隠しながら進んでいた。


 全員が濃紺色の軍服姿に、銀の星があしらわれた軍帽。秋津皇国軍の兵士達であった。


 村まで300メートル程の距離に彼らは静かに近づく。数は道の左右にある程度固まって約75人ずつ。約150人で構成される一個中隊分の兵士達が二つの黒い塊となって村へじわりじわりとにじり寄っていた。足音は殆ど無い。草を踏む音も最小限に留めていた。


兵士達の脚が村まで200メートルを切った時、先頭を歩いていた隊長が手で指示を出す。薄闇の中、それは伝言ゲームの様に林の中を歩いていた部隊全員へと無言で伝播し、隊は前進するのを止めた。全員が頭を低くしてその場にしゃがみ込む。そこまでで林は切れており、その先には畑が道を挟み込む様にして村の入口まで続いている。作物は収穫されたばかりなのか、畑は土がむき出しで村までの視界は良い。


「見えた。あれだな……」


 隊長はジッと目を細める。視線の先、村の入口に立っている柱を組んで立てた簡素な門の下。そこに二人の目立つ白い服を着た人影が立って、お互いが顔を見合わせて何やら話をしている。


 彼女達の背後には村への侵入を阻む様に家財道具や米俵、土嚢を使ったバリケードや胸壁きょうへきが造られている。南側正面とあって、そこそこの即席陣地が築かれている様だ。


 だが、油断しているのかそれとも目暗なのか、彼女達がこちらに気付いた様子は無い。視線も村の外へは向いていなかった。彼女達が身振りや手振りをする度に、ヒラヒラと紅く短い袴が情を誘う様に舞う。


一華いちか、お前の出番だ。一発でやれるか?」


「はい、この距離なら多分」


 隊長が自分の真後ろで同じ様にしゃがむ少女の肩を叩く。静かに答えた少女は、他の兵士達とは異なる衣服を着ていた。


 軍帽等は無く、セーラーカラーの襟を持つ黒のブレザーに、同色のプリーツスカート。太股から足先までを、黒いニーハイソックスで覆っている。ブレザーの左胸には盾の中に『工』の字があしらわれた紋章が縫い付けられている。左腕には『鉄機』と書かれた腕章が嵌められ、彼女が秋津皇国の鉄道警備局機動隊に所属している事を示していた。


 機動隊は鉄道警備局創設時から存在する部署で、鉄道沿線の賊や猛獣の退治、列車の防衛治安維持を担当する。特に国境や辺境地帯では匪賊や群盗の列車襲撃事件が多数発生していた為に、準軍事組織として国境警備隊と似たような性格も帯びていた。有事の際には選抜されたメンバーがこうして軍に協力する事になっている。


 彼女、四条一華しじょう いちかもその一人だった。彼女は隊長の視線を受けて深く頷くと、しゃがんだ姿勢のまま肩に掛けていた小銃を手に取る。頭の下で二つに縛ってお下げにした黒髪の右側が、銃のスリングに触れてさらりと揺れた。身長149センチと小柄な彼女は男性ばかりの兵士達の中でも一際小さく見える。それでも彼女は臆する事なく、屈んで小銃を片手に数歩隊長より前に出た。


「よし……」


 一華は林から一歩外へ出て、その場に片膝を立てて座り込んだ。右膝が畦の土につくが、気にする事無く彼女は左手に持った銃のボルトを開けて薬室を解放すると、腰の後ろに手を回す。腰に付けたベルトによって固定された弾薬盒だんやくごうがそこにはあった。中に入っていた弾薬を一発掴むと、薬室の中にそれを押し込む。ボルトを操作して薬室を閉鎖。脇を閉めて彼女は銃を構える。


 一華が持つのは、全長130センチを少し超える軍採用の制式小銃だった。口径は11ミリ。黒色火薬を弾薬に使用し、既に旧式となって軍から警備局に払い下げられていたものだ。機関部側面には『皇国十三年式』という名称が刻印されている。


 見守る兵士達も基本的には同型か小改良型の小銃を持っている。最新装備は首都近衛隊や前線配備の一線級部隊へ優先され、この様な文明レベルが劣る辺境へは基本的に型落ち品の兵器が配備される。


 文明レベルが劣る相手に鹵獲されても痛くないものを。それが、皇国軍の方針だった。


 それでも一華にとっては大事な武器だ。小柄な少女が構える銃は見事に手入れがなされており、新品の様な輝きを放っている。銃口が徐々に調整されて、入口付近のある一点を捉えて停止する。銃口が向く先には、紅白の装束を着た少女が二人。その片方へと、照準が合わせられる。


 金髪をショートにした少女。もう一人と話している彼女の口元には笑みが零れている。一華は、タイミングが合うその時をじっと待ち続けた。


 数秒後、彼女の動きが一瞬だけ止まる。


「……一発で、決めます」


 引き金に指が掛かり、一華は一言呟いて躊躇い無く掛けられた指を引いた。


 無煙火薬銃より大きい轟く様な銃声が響く。銃口から白煙を吹き上げながら、銃弾は空気を切り裂いて一直線に飛んでいく。


 攻撃開始の合図が今、放たれた。



――――――――



 少女が気付いたのは、銃声より僅か数秒前の事だった。前方に拡がる畑と、その向こう側の雑木林の一部が何やら動いた様に見えた。


 身体をその方角へと向けて、目を凝らす。彼女はやがて夜明け前の薄闇の中に一つの影を見つける。小動物の類では無い。その輪郭は人型をしていて――――。


「ッ!?」


 驚愕と同時に、少女が見ていた方向から銃声と共に火花が人影の先から散った様に見えた。直後、自らの左胸を何かに叩かれた様な衝撃が彼女を襲う。ショートに切り揃えた金髪が、身を襲った衝撃波でふわりと揺らめいた。


「えっ……」


 小さな声と共に、金髪の少女は自らの胸を見る。自らの発育の良い左胸には、黒い穴が空いていた。そこから急速に血が溢れ出し白の装束を朱に染めていく。


「なっ……!?」


 脇にいた黒い髪を肩ほどにまで伸ばした少女が、倒れ行く仲間を見て驚きに瞳を見開いた。


 左胸を撃ち抜かれた金髪少女はゆっくりと仰向けに倒れ、びく、びく、とその身体を小刻みに揺らしている。提げていた太刀が金属音を鳴らし、瞳は開いたまま溢れる血に比例して瞳孔が大きくなっていく。


 倒れた衝撃で捲れた丈の短い袴は彼女の白い下着を露わにしていた。身体の揺れが小さくなったと同時にぶしぃッという噴出音が彼女の股間の一部分から響く。それはアンモニア臭のしない半透明の液体で、一気に彼女の下着を濡らしながら受け止めきれずに地面に極小さな水溜りを作り始めた。


 仲間の断末魔を暫く呆けて見ていた彼女だったが、黒髪を振り乱して後ろに振り向く。数歩先に築いてあった即席の胸壁に、自らの小銃が立て掛けてある。それを手に取りながら、胸壁の裏で筵を敷いて休んでいた同じ神を信ずる仲間達に叫んだ。


「敵襲、敵襲だ!! 迎撃準備をして! 早くッ!」


 銃声を聞いて起きてきていた数人が寝ぼけ眼で彼女の叫びを受け、頭に鐘でも響かされた様に飛び上がる。そしてまだ起きない仲間を叩き起こしながら、空いている少女が付近の接収した民家へ駆け込んでいった。


「くッ……!」


 彼女は内心で舌打ちをしながら、胸壁の上に置いてあった弾薬入れを引っ掴む。敵が奪還しに来るかも知れないとは思っていたが、完全に油断していた。初めての実戦で簡単に占領できた喜びから、気が緩んでいたのかもわからない。


 しかし、彼女にとっての『敵』はすぐそこまで迫ってきていて。


 再び外の方を振り向いた彼女に、既に照準を定めていた。


「あっ――――」


 先程と同じ銃声が辺りに轟く。少女の手から握った弾薬がバラバラと落ちて地面に散らばる。少し遅れて、持っていた小銃も音を立てて地面に転がった。最後に、米俵と家財道具で出来た胸壁にもたれ掛かる様に、少女が倒れ込んだ。


 その左胸に、赤黒い穴が空いていた。金髪の少女と同じ様に、流れ出した鮮血が自分の身体とその下の土を染めていく。


「く、ふ……」


 口の端から鮮血を垂らしながら、彼女は力なく頭を下げる。最期に見えたのは、遥か先で煙を上げる銃を構える人影の姿だった。



「この距離で二連射でどちらも急所を一撃、か。流石四条の家の娘だな」


 一華が構えていた銃を下ろすと、背後から隊長の感嘆の声が聞こえてきた。周りの兵士達も驚いた様子でどよめいている。


「いえ、私なんかまだまだですよ」


 気恥ずかしさから彼女は後ろを見ずに答えながら、ボルトを引いて薬莢を手で掴みだす。三発目を掴みながら、彼女は隊長へ振り向く。


 隊長は無言で頷き、腰に差した軍刀を抜き放った。


「第一中隊突撃! 迂回路の第二中隊にも追って突撃する様に、後続の第三中隊には両隊の援護、第四中隊には別命あるまで待機する様に通達せよ。では行くぞ。我に続けぇッ!」


 一帯全てに響き渡る様な号令の下、隊長は軍刀を構えて自ら走り出す。


「大隊長に遅れを取るな! 突撃ィッ!!」


「うおおおおおおおおおッ!」


 大隊長自らの突撃に、隷下の兵士達は彼に遅れまいと一斉に、猛然と駆け出す。先程の一華の活躍に士気も高揚したのか、朝焼けに彼らの雄叫びが反響し、一つの砲弾の様に村へと突き刺さっていく。


 一華は叫ぶ事はしなかったが、三発目を装填しながら兵士達の波に飲まれない様に続いて走り出す。実戦は何度か経験してきた筈だが、この様な『戦争』は初めてだった。緊張が、心臓を高鳴らせた。


「それでも選ばれたんだから……! 私は、私に出来る事をするの!」


 自分に言い聞かせる様に鼓舞し、銃を構える。放たれた銃弾は胸壁脇の民家へ飛んでいき、入口から出て来ようとした紅白の衣装を着た少女の胸に着弾。撃ち倒したのを確認する間もなく、一華は他の兵士達と共に突っ込んでいく。兵士達が殺到した胸壁とバリケードは既に突破されようとしていた。


 民家や奥の路地から、次々に紅白の衣装をたなびかせた少女達が飛び出してきて濃紺の軍服を着た兵士達へ射撃を開始。何人かの兵士が銃弾を身に受けて倒される。


 直後、太刀や薙刀を持った彼女達がバリケードを乗り越えた兵士達へ次々と突撃し、白兵戦へ突入。



 長閑だった村は今、戦場へと変わろうしていた

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