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九頭龍教占領地の奪還 前編

まだ戦闘には入りません。

本格的な戦闘に入るのは二話目からとなります。台詞の中で一応主人公格の少女が出てきています。

 村を見下ろす高台に位置する林の中。一際大きな大木の脇に立つ男が、静かに言った。 


「あの村で間違いないんだな?」


「はっ、信徒の女達がうようよ見えますので間違いは無いかと」


男の声に答えたのは、脇に控えていたそれより若い男性の重々しい声だった。


 西暦に換算して、時は2540年代初頭。時期は秋口。


 夕焼けが空を染め始めた頃。目標の村の南に位置する高台に生えた林の中で、数人の人影が音を立てずに蠢いている。皆、一心に目標を視界に収めて緊張した面持ちで見つめていた。



彼らは揃いの軍服を着た兵士達であった。人数は10人から15人程。濃紺色の上衣に同色のズボン。足には革製のゲートルを付け、軍帽の正面には銀色の星が付けられている。


彼らの肩には武器となるボルトアクション式の小銃が革で出来た肩紐を介して掛けられていた。腰のベルトには銃の弾薬を収める革製の弾薬盒だんやくごうが大小合わせて3つ着けられ、装着位置は腰の前に小さいもの2つ、腰の後ろに大きいものが1つ。更に、銃剣入れがベルトから左腰に提げられ、そこには黒い鞘に入れられた銃剣が差されていた。


「隊長、これで確認なさいますか?」



「あぁ、ありがとう。頼む」


大木の脇にいた男は、覗いていた単眼鏡から視線を外して脇の兵士を見る。先に双眼鏡を覗いていた若い兵士が首に提げていたそれを外して、今大木の脇に立つ男、自らが隊長と言った男に双眼鏡を渡す。隊長はうむ、と一言頷くと徐に双眼鏡で目標となる村の方向を覗き込む。


隊長は、齢40代に届こうかと言う中年の男性だった。髪は短く刈られ、顎には無精髭が生えている。背は高くがっしりとした体系はいかにも軍人らしく、後方の安全なデスク努めで淀んだお腹をもつ高級軍人とは対照的だった。襟に付けられた階級章は、中佐であるを示している。


隊長は顎に生えた無精髭を撫でながら渡された双眼鏡を覗きながら、漫然と眺める。


彼が覗く先、数百メートル先にそこそこの大きさの集落があった。周囲を水田と雑木林に囲われた長閑な村だ。南北に走る道を中心に茅葺き屋根の家が放射状に数十軒拡がっている。概算で人口は多くても500人位だろうか。村の向こう側、北側には視界の左端から右端に掛けて一直線に緑に彩られた山脈の峰が走っている。村の左側、西側には大きな川が北から南へと流れていた。


彼らのいる所は、村の南側に位置する丘だった。標高は50メートルも無いが、村を見下ろす高台は彼らが村内を観測するには格好の場所だった。覆っている雑木林のお陰で『敵』からはこちらを視認する事は出来ない。周囲に敵兵もおらず、隊長の周りの兵士達はややリラックスした表情で、それでも不用意に動かぬ様に注意しながらその場に待機していた。


彼は遠くから見れば平和そのものに見える村を視界に収めながら、徐々に村内の中央や村自体への入口へとピントを合わせていく。今が平和なら米が良く取れる良い土地なのだろう。


直後、村の中のある一点で動きを止める。その切れ長の瞳がスッと細められた。


「確認した。確かに、ありゃ間違いないな」


彼の双眼鏡を通した視線の先。村の入口に当たる門の柱の付近に建っている家の中から白い人影が幾人も出てきた。それらは、まるで番兵の様に手に何らかの武器を持って門の両脇に立ち始める。


辺りを警戒する様に立つ複数の人影は、普通なら兵士達が目標とする様には見えない者達だった。何故なら、その全員がまだ10代前半から後半に見える年若い少女達であったからだ。服装も紅白の巫女の様な出で立ちだが、穿かれている袴は異様に短く彼女達の肉付きの良い太股を惜しげもなく晒している。更に、その太股を中途から隠す様に長く白い靴下が足先までを覆っていた。その上殆どの者が身体自体の発育も良く、豊満な膨らみが白衣の下からでもはっきりと解る程であった。


まるで男を誘う様な格好をした彼女達はしかし、腰には一振りの太刀を佩き手には槍や薙刀、そして小銃をしっかりと携えて集落の周囲を固めている。集落内にも数十人の少女達の姿が見え、同じ様な格好をして同じ様に武装していた。


「襟には黒い籠目。龍泉郷軍だな」


彼女達の白衣の襟に付けられた黒い籠目……六芒星の紋章を確認した彼は双眼鏡を兵士に預けてそう呟く。


龍泉郷。それは九頭龍教と呼ばれる宗教を国教とする新興宗教国家であり、約100年以内に発展拡大した新興国である。


ここより更に東北……最終戦争より前、旧時代の言葉でヒライズミと呼ばれていた場所で九頭龍教は誕生したとされる。力の弱い女性の救済を謳い、巷には入信すれば永遠の若さと美貌が手に入ると言う噂も流れた。その結果、奴隷身分や売られた女性達の支持を受けて徐々に勢力を拡大し、現在に至る。特にここ数十年は急速に支配地域を拡げ、海軍等も有し南海の大洋に浮かぶ島々や西国にも拠点を造っているという。


しかし、実情は女性絶対優性主義が主となる教義であり、原則男性の入信は認められず扱いも奴隷に近いものとなる。勿論周辺諸国はそれに反発し、彼女達とは幾度も戦争になっていた。今回もその内の一つ、『秋津皇国』へと侵攻を図り兵士達が派遣される所以となっていたのである。


「しっかしまぁ、ものの見事に女童しかいねえな。10年以上前にあれだけ叩いてやったのに、どこからあんなに集めてくるんだか……一人位よこせっての」


「隊長、駄目ですよ。そうやって油断した仲間が何人も不覚を取ったりやられたりしてるんですから。心を鬼にしないと……」


「わかってら。秋津をあいつらの変な宗教には染まらせねえ。男は全員奴隷。生きてる事を恥だと思えだなんてまっぴらごめんだ」


「そうですね。いくら可愛くたって、そんな扱いは受けたくありません」


吐き捨てる様に行った隊長に、若い兵士が頷いて同意する。男女平等と言うならまだしも明確な女尊男卑思想を受けいられる男性は殆どいないだろう。いるとすれば、余程の変わり者かそういう趣味を持っている者くらいなものだ。


隊長は村内に散らばる白い人影を暗算で数えていく。明らかに村人とは違う紅白の衣装は目立つため数えるのには便利だった。


一部、紫の袴を穿いている者も見える。それは位の高さを表しており、一番多い紅い袴を穿いた少女達より一段階、位が高い事を表している。部隊長クラスになると白衣の上に水干様の上着を羽織る様になり、外見上の大きな相違点になっていた。実に、分かり易い。


「敵は概算で200人かそこら程度、か。多分斥候か威力偵察だろうな。増援や伏兵の存在は」


数え終えて双眼鏡から目を外した彼が言うと、別の兵士が彼の脇に進み出て告げる。


「山中に増援の姿はなし。本隊も峠の拠点に未だ留まっているものと思われます」


「その報告は確かか?」


「鉄警機動隊の“あの姉妹”からの報告なので、間違いはないかと」


あの姉妹、と兵士が言葉に出した瞬間隊長の顔が嬉しそうにニヤリと歪む。



「そうか、あいつらか……なら間違いはないな。作戦に変更はなし。待機している中隊にも前進を知らせろ。作戦開始は明朝朝焼けだ」


彼が告げると、メモを取っていた兵士が林の奥へと走っていく。そう遠くない場所に草木で隠匿された有線電信の通信機と通信兵が待機していた。兵士が読み上げると、通信兵は慣れた手付きで電信を打っていく。地面を走る電線は集落がある北方とは真反対の方角……南方へと延々と伸ばされていた。


「全員、今の内に休みを取っておけ。くれぐれも感付かれるなよ」


「ハッ。隊長殿も、やはりこんな危険な斥候任務に自ら来なくても後方の大隊本部でお待ち下されば……」


彼の命で散開する中、双眼鏡を持っていた若い兵士が心配そうな面持ちでいう。しかし、そんな彼を隊長は軍帽の上から力任せに撫でさすった。


「あたッ……!」


「この俺に対して今更いうことかそれ?」


「そ、そうですね……」


「二等兵、お前も休んでおけ。私物の双眼鏡、中々良かったぞ」


「ハッ、恐悦至極に存じます!」


双眼鏡を持った二等兵は軍帽を直すとビシッと型通りの敬礼を決めて、直後にそそくさと離れていく。


隊長は自身の旧式の単眼鏡を取り出してもう一度集落を眺める。やはり、そろそろ買い替えるか新型へ交換してくれる様に申請を出した方が良いのかも知れない。辺境配備の国境警備部隊は武器兵器から官給品に至るまで型落ちばかりが配備される為、少しは良いのが来てもいいんじゃないかと彼は思った。まぁ、相手の装備を見るからにそれも仕方のないことなのかも知れないが……。


「さて……いい加減力量差に気づいて撤退してくれれば有り難いんだけどねぇ……」


眺め終えて、彼は嘆息に近い息を吐いた。出来れば洗脳を解いてやりたいのだが、相手が本気で殺しに来ている為そうはいかない。それに、彼は軍人なのだ。国土を、民を守らねばならない。


それが例え少女だろうと、彼のやる事に変わりはなかった。



--------



夕闇が迫る中、集落の内部では村の男達が集められて作業に駆り出されていた。彼らが運んでいるのは集落に蓄えられていた米や麦等の農作物、鶏や牛等の家畜等所謂村の財産と呼ばれる物達だった。村の家々や倉庫から持ち出されたそれは村民達自身の手によって村の中央にある広場に集積されていく。


その周りを、槍や先込め式の小銃を構えた少女達が見張っている。彼女達は一様に紅白の巫女装束の様な衣装を身に纏っていたが、短い袴からは彼女の艶めかしい太股が伸びている。長く白い靴下が彼女達の太股までを覆い、食い込み具合が少女達の肉感的な肢体を更に輝かせている。時節合わせの合間から見え隠れする豊満な胸元や彼女達が全員抜群の容姿をしていた事も相まって村の男達を惑わせたが、彼女達の言動と今の状況がその余裕を打ち砕いていた。


「ここにまだ出せそうなものがあるじゃない。献上品と私達の糧として持っていくわ」


検査の為に茅葺屋根の農家に立ち入った少女の一人が澄んだ声で土間の片隅を指差した。土間の隅に設えられた倉庫スペースには、米を入れた大袋が蓄えられていた。


「待ってくだせえ! それを持っていかれては俺達の生活が出来なくなります。家族共々餓死しちまいますよ!」


彼女と一緒にいた住人の男性が慌てて抗議する。簡素な着物に股引だけを穿いた素朴な格好の彼は、少女の視線を遮る様に立ちはだかる。


彼女は明らかに侮蔑を含んだ視線で男性を見遣った。腰まで伸びた青い髪を片手間に弄りながら、聞く。


「ふうん……お前、家に住んでいる女の人は何人いるの?」


「へぇ、娘が一人に妻と母親がいます」


「その三人の最低限食える分だけは残してやるわ。それ以外は持ってくわね」


「そんな! 息子が二人いるんです。どっちみち餓死しちまいますよ!」



強引に進もうとする彼女を引き止めようと男性は少女の左腕を掴む。直後、彼女は腰に提げていた太刀を思い切り引き抜くと、憤怒の形相で腕を振りほどき彼の腰を峰で強かに打ち据えた。


「ぐぁッ!?」


土間から上がった囲炉裏の周囲で見ていた彼の家族が悲鳴を上げる。しかし、それを意にも介さずに彼女は倒れ込む男性を睨みつけた。


「汚い手で私に触らないでくれる? あんたみたいな男が私と会話出来るだけでも慈悲深い事なのに、それでいて更にお願い? 図に乗らないで」


少女は蹲る彼の腹を横から蹴り上げ、そのまま胸の上に脚を踏み下ろす。彼の胸板に少女の脚がめり込み、そのままぎりぎりと肋骨が折れるのでは無いかという勢いで体重を掛ける。


「ぐぅぁッ、あぁぁッ!!」


「汚い悲鳴ね。何で男はこんなに下品で耳障りな声しか出せないのかしら」


少女は踏んでいた足の力を少しだけ弱める。痛みが和らぎ男が目を開けると、そこには醜悪な笑みを口元に浮かべている少女の姿。紫の短い袴から伸びる脚が彼の汗ばんだ胸板に乗せられ、下から覗き込む下半身は袴の丈の短さによって、その中にある白い下着が丸見えになっていた。だが、未だに踏みつけられる胸の痛みと少女から発せられるどす黒い雰囲気に呑まれ、男の胸中には焦燥と恐怖しか湧いていなかった。


少女は笑みを崩さないまま太刀の柄に手を掛ける。スラリ、と長い刀身が姿を見せた。それを徐に彼の眼前へと突きつける。


「ヒッ!?」


「どうせ豚みたいな価値しか無いんだから、少し位お仕置きしても構わないわよね?」


少女が彼の鼻や頬を太刀の峰で叩きながら、ほくそ笑む。その時。


「やめて、やめて下さい!」


悲痛な声が少女と男の間に割って入る。囲炉裏の付近に固まっていた男の妻と思われる女性が立ち上がってこちらに叫んでいた。歳は30代後半位で、農作業に焼けた肌と男と同じ麻の簡素な着物姿。長い黒髪は後ろで纏めて一つにしている。


彼女は今まで抵抗しないで様子を見ていたが、耐えられなくなったのだろう。男の下まで駆け寄ろうとするが、その前に別の少女が立ちはだかった。黒髪を頭の左側で縛ったその少女は、手にした小銃を女性に向ける。


「貴方は静かにしていて下さい。私達は、女の人に危害を加えたくはありません」


「なら、その人に乱暴をしないで下さい! 食糧なら持っていって構わないですから!」


女性は黒髪の少女の身体越しに、先程の少女に訴え掛ける。彼女はフンと鼻を鳴らすと、太刀を一回振って鞘の中にそれを納めた。足に掛けていた力を抜いて僅かに足を浮かせると、男は慌ててその下から這い出した。


「大げさね。別に男の一人や二人、どうなったって構わないのに。貴女も、あんまり男を庇い立てする様だったらこっちも容赦出来なくなるわ。気をつけることね」


絶句している女性を尻目に、少女は倉庫に置かれていた米の袋を引っ掴む。それを肩に担ぐと用は済んだとばかりに歩き始め男の脇を通り過ぎる。提げ緒に取り付けられた太刀の金具が歩く度にガチャガチャと音を立てた。彼女は土間から戸口に真っ直ぐ向かうと、


「ユウナ、行くわよ」


女性の前に立っていた黒髪の少女の名を呼ぶ。「はい、わかりました」という返事を聞くと彼女は振り返らずに開きっぱなしの戸口から外へと出ていった。


残っていたユウナと呼ばれた黒髪の少女は、それから土間の縁に腰掛けた男へと歩いていく。ビクリと震える男に対して、彼女は丁寧に頭を下げた。


「申し訳ありません。怪我は無いですか?」


「あ、あぁ……」


男性は驚いて生返事しか返せず、彼女をただ見上げる。ユウナは両手に携えていた銃口から弾を込める前装式という方式の小銃を肩掛け紐で肩に掛け直すと、男の脇で泣いていた彼の子供にも一言謝って戸口へと向かう。戸口の手前で、彼らへと一度振り返った。視線は男を介抱する女性に向いている。


「貴女が奥さんですね?」


「は、はい。そうですが……」


「貴女が我が九頭龍の水神を信ずる信徒になれば……九頭龍教に改宗すれば、旦那さんも奴隷扱いを免れるかも知れませんよ? 労働力として、賦役はこなしてもらうでしょうが」


「え? で、でも……」


「改宗しなくても良いですが、もっと重いペナルティが課せられるかと思います。まぁ、これから仲良くやりましょう」



明らかに動揺している女性を前に、ユウナはニコリと笑顔を見せる。直ぐ後に再び真顔へ戻ると、戸口を潜って彼らの前から姿を消した。

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