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ただ黒い部屋に、朝も昼も夜も存在しなかった。食事は出てくるけど(壁の一部が開いて勝手に置かれている)、起きたのがいつだったのか分からない以上それが朝ごはんなのか夜ご飯なのか分からない。だからそれは私に時間の経過だけを仄めかす。
素っ気ない金属製の皿に乗せられた温かい食事は手作りだろう、優しい味がする。こんな状況なのに安心しきってしまいそうな、心を溶かすこの味は記憶がある。翔の手作りのお弁当だ。冷めてはいたけどいつだって翔のお弁当は優しい味がして、本当に私の好みドストライク。
皿の乗ったお盆にいつも、1枚のメモ用紙が添えられている。綺麗に整った字で書いてあるのは、たった一言だ。
「みぃへ。翔より。」
最初に見た時は怒鳴りたくなった。いや、実際怒鳴った。
ふざけんな。拐って、こんな所に閉じ込めて、こんな意味分かんないメモだけ書いて自分は姿も見せないなんて何なの?何なのどういうつもりなの?
いつまでここに放っておかれるの?
…本当に、翔なの?
どうしてこんなことするの?
黒い部屋に暇を潰すものなんて何もなくて、私は考えることしかすることがなかった。
翔、翔、翔。考えるのは翔のことばかり。
出てきた食事を食べたあとで急激に眠くなって寝てしまうことが何度もあって、最初にそうなった時は、気付いたら服を着ていた。
ぎょっとした。
ごく普通のワンピースだけど、寝ている間に勝手に服を着ていたら誰だってぎょっとすると思う。兎に角、これで裸ではなくなったけれど。ついでに言うと、身体も髪も綺麗になっていい香りがしていた。運んで行って風呂にでも入れてくれたのだろうか…何も記憶にない。
ワンピースの色は蜂蜜色……ああそんなの、一人しか思い浮かばないじゃないか。
翔。
何度も食事のあとでそんな状態になって、でも不定期にそれは行われてるらしく゛この食事は眠くなる゛と予め知ることもできない。食事を食べないなんて勿体ないし…こんなに美味しいんだから。
無駄にするなんてできない私の性格をよく分かっている翔だから出来るんだろうな、と考えて、その翔をこの部屋に来てから1度も見ていないのが何だかとても嫌なことに思えた。
食事にメモに、服に、そこかしこに翔の気配があるのに何故会ってくれないんだろう?
…嗚呼、翔に、会いたいな。
動けー動けー話動けー
と半泣きの作者でございます。感想等々お待ちしております…。読んでくださってありがとうございます!




