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状況説明回及び思考回でございます
…………何だろ、寒い。
覚醒しきらない頭で、ぼーっとそんなことを思った。目は閉じたままだ。だって眠い。…もしや、また風呂の中で眠ってうっかり朝になってしまったパターンだろうか?この寒さがそのせいだとしたらいい加減に浴槽から出ないと…ああ眠い…でも風邪をひいてしまう…。いやもう既に手遅れな気はするが。…前にやらかした時は、後で咳が止まらなくなって大変だったなあ。何はともあれ、起きなきゃ…。
『…ん……』
眠い眠いと思いながら何とか目蓋をこじ開けると、
『……え?』
自宅の風呂場、ではなかった。
見慣れている淡いクリーム色の天井の代わりに、目に映ったのは塗り潰したような黒。人工的で落ち着かない気分になるような色。
一気に眠気が吹き飛んだ。
『は?…え?あれ?』
所謂、「知らない天井だ」というシーンである。よもや自分がこの感想を抱く日が来るとは思わなかった。いや、そんなことを考えている場合ではない。とりあえず落ち着こう。何があったんだっけ?
ええと確か、龍に富士Qに誘われて浮かれていてそれで…
「そうだ!しょう!」
翔に、翔に、
……気絶させられた?
あの時の翔は何だか不気味で恐くて底知れなかった。いつもの、【一緒にいて落ち着く感じ】もなくて…
……ちょっと待て。
……そもそも何か、
「おかしくない?」
だって、変だ。
「いつも」って何だ。あいつが彼氏になってからほんの数日しか経ってないのに。
「落ち着く感じ」って何だ。私は人に易々と心を明け渡すタイプではない。自分の中で、知り合いから友人に昇格させる人は数少ない。まして、一緒にいて落ち着くとかそんなことを感じる人はいないと言って良かった。
だって私は自分の興味関心を全てお金に注いでいたから。
お金のことが私の意識の大半を占めていた。
それらはいつの間に過去形になったのか。
いったいいつから、
……私に翔が侵食していた?
鳥肌が立った腕をさすって、深呼吸をした。今すべきことは「落ち着いて現状把握」だ。考えるのはあとでいい。今じゃなくていい。
…考えるのが怖くなったから止めたのもあるのだが。
兎に角、横になった状態から体を起こしてぐるりと周りを見回してみる。目を覚ました時から目に映っていた黒い天井と同じ色が私を取り囲んでいる空間だった。上下左右何処を見ても黒色。広さはそう、八畳くらいだろうか。私一人だけが存在するにはあまりにも広すぎる。人工的で落ち着かない色に塗り潰された、落ち着かない空間。
天井の四隅に白い光を発するライトが取り付けてあるから、暗くはない。自分の手もはっきりと見える。でもその光をもってしても、空間は黒だった。冷たい白い光が光として照らして見せてくれる色は自分の見慣れた肌の色、だけ。それが酷く気味悪い。
服の色は視界にない…今まで考えないようにしてはいたのだが、…まあ気付いていた。というかこの凄まじい違和感に、普通はすぐ気付く。いつものように思考に逃げまくって現実から意識を逸らしていただけだ。
私は、服を、着ていない。
要するに、裸である。
寒い訳だ。暖房をガンガンに効かせているならともかくも、裸で床に転がっていて寒くない訳がない。
見回すのも終わったので少しでも暖をとろうとモゾモゾ縮こまってみる。手も足も冷えきって、お腹まで冷やしそうだ。
ひんやりとした手を擦り合わせながら考えるに、つくづく今の私は変だ。裸でいることへの羞恥はどこで迷子になっているんだろう。いくらこの空間に私以外いないとはいっても、私は裸族ではないので慣れない状態だし突然のことだ、恥ずかしいと悲鳴の一つ上げても良さそうなところだと思う。普通は。
でも今の状況は普通じゃない。今更だろうけど。
″目を開けたら不気味な黒い空間に裸で一人ぼっちで転がっていた。″
何これカオス。
色んな要素が重なり過ぎてパニックも通り越している。正常な考えが今の私に出来なくても仕方がないだろう。
それでも、こんな頭がパンクしかけている私にでも分かることがある。
この状況に私を置いていったのは間違いなく、翔というやつだということだ。
話よ、動け!と思いつつ…まだこれが続きそうです…翔君どこですか(涙)
読んでくださってありがとうございます!