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連載にしてしまいました…。短編と殆ど同じ一章です!
例えばこのアイスコーヒーのグラスについた水滴の全てが宝石だったとして。綺麗だとか何とかロマンチックなことは私の頭を掠めもしないだろう。私が考えることはただ一つだ。
《売ったらいくらするんだろ。》
そう、 私は所謂、守銭奴ってやつだ。命より、とまでは言わないが、お金は大事だと思う。そして好きだ。大好きだ。だから…
「みぃ、好きだよ。僕と付き合ってください。」
…こんなことを言われても、心に響かない。だってお金より好きなものなんてない。ついでに興味もない。
偶々講義で席が隣になったという理由だけで喋るようになった、というか一方的に向こうから話しかけてくるようになった男子。こちらから話したことはないし、相槌も私はロクに打たないし、否そもそも話は聞き流しているし、愛称で呼ぶことを許可した覚えもない。つい最近までこいつの顔も私は覚えられなかった。ないない尽くしのこいつに何故告白されているのか理解不能だ。それと、こいつの名前知らない。
なんてことを、焦点だけを微妙に顔からずらしたままツラツラと考えている間も、こいつは喋り続けている。いつもの癖で聞き流していた。そもそも告白って、したら黙って返事を待つものじゃなかったのか。まあ当然、告白の答えは否だが。
「ーーーみぃはさ、お金がめっちゃ好きじゃん?」
お金、というワードが耳に飛び込んできたので思わず顔を見た。バッチリ目が合って、こいつはこんな顔してたのかなんて失礼なことを考える。そういえば今までちゃんと顔を見たことはなかった。興味なかったし。
私と目が合った瞬間、人懐っこそうな丸い目がパアッと輝きを増した。無駄に形の良い薄めの唇が持ち上がって、キラキラしい笑顔を形作っている。何と言うか、女子ウケしそうな甘い顔立ちだ。髪の色はハニーブラウン。子犬っぽいな。キャンキャン吠えてそうだ。
「普段は絶対にカフェなんて入らないだろうけど、僕が奢るって言ったらついてきてくれたし。」
そりゃそうだ。カフェに費やす分があったら貯金するが、奢りなら話は別だからな。
「お金使いたくないが為に食事抜いちゃうし。」
食事というのはお金がかかるものだ。食べることはまあまあ好きだが、お金には敵わない。よって、私の食事は多い時で1日2食。基本的には1食か、食べない。水さえ飲んでいれば案外何とかなる。それにしても、私が食事抜いてるのによく気付いたな。
「だから、ね?」
首を傾げるようにして、顔を覗き込んでくる。見た目は子犬でも流石に声は男のそれだ。ただ、纏わり付くように甘い声。それが紡ぐ甘い誘惑。ハニーブラウンの髪がさらりと揺れた。
「みぃのご飯、僕が作ってあげる。みぃの好きなお菓子も。僕がみぃに作って食べさせたいだけだから、お金はいらない。だから、僕と付き合って?」
これは、これは。
何て魅力的な口説き文句なんだろう。
「みぃが僕に、興味の欠片もないのは知ってる。」
断る気満々だった筈の心がグラグラ揺れる。相も変わらず甘い声で、でもほんの少しだけ憂いが混じった声で、こいつは続ける。
「でも、今はそれでいいから。」
いつの間にか、テーブルの上に置いていた両手を握りしめられている。
「僕と、付き合って?」
意識が勝手に吸い寄せられるような、不思議な感覚。蜂蜜みたいな声が、染み込んでじわじわと思考を奪っていく。ああ、でも、イイカモシレナイ。
気が付いたら、コクンと首を縦に振っていた。それを見て、目の前の男子はわらった。
「きっとみぃは覚えてないだろうから言うけど、僕の名前、翔っていうの。はい、呼んで?」
手を握ったまま、たった今彼氏になったらしいやつが言う。
『……………しょう。』
私の世界に久しぶりに、人が入ってきた。そんな感覚だった。
翔はまた、わらった。その瞳に仄暗いナニカがチラつくのに、彼女はいつ気が付くのだろうか。
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