自称スーパーチャンピオンホリ沢君
私、照山照美は高校1年生。
だけど、それもようやく終わりに近づいてきている。
「もう3学期なんだな〜」
「そうだよ。今日から3学期高校1年生最後の年…あぁっ!今までありがとう!みんな!」
いや…誰この人。いきなり反応してきたけど私こんな男の人知らないよ。
そんな様子に気づいたのか、その男はドヤ顔で前髪を掻き上げると、青海苔のついた前歯をキラーんと見せつけてきた。
…青海苔ついてるの言った方がいいかな。
「ねぇ…前歯に青海苔ついてるよ」
「フッ…お洒落だろう?」
「お洒落じゃないし!わざとなんかいっ!!」
私はある部活に入っているせいで磨き上げられたハリセンさばきでその男の頭にハリセンをバシンと叩きつけた。
「あぁっ♂」
「キモいっ!!」
叩きつけたハリセンを上に上げるようにして、顔面にヒットさせると、その男は満足気な顔で空中に浮き上がった。
アウトだ…。この人もういろいろアウトなんですけど…。
「なかなかやるね〜てるてる。スーパーチャンピオンの僕を一瞬でここまで追い込むなんて」
「なんで名前知ってるのキモい。それにいきなり変なあだ名つけないでよキモいから。スーパーチャンピオンってなにキモすぎなんですけど」
「そっ、そんな!そこまで言われると僕…」
…あ、さすがに言いすぎたかな。
でも、部活の人にも最近いつもこんな感じだし、つい癖で本音が…。
私は苦笑いの表情を見せながらごめんと言う前に手を差し出した。
「そこまで言われると…好きになっちゃうじゃないか!!」
「なんでだっ!!アンタドマゾか!!」
「違うっ!!スーパーチャンピオ…ブッヒョヒョ〜♪」
私が言い終わる前にハリセンでぶっ叩くと、男は変な笑いを漏らしながら尻もちをついた。
もう、キモい以外の感想が出てこない。
確かにチャンピオンだよ。キモさのチャンピオンだよ。とりあえず全国のチャンピオンに謝れよ。
「はっ…しまったつい…。あ、自己紹介が遅れたね。僕はホリ沢堀。ホリホリと呼んでくれ」
「別に自己紹介なんてしなくていいからっ!それに誰がそんなあだ名で呼ぶかっ!」
…もうだめだ。付き合ってられない。
私は、ホリホ…ゴホン。ホリ沢から離れ廊下を歩き出そうとした。
しかし、ホリ沢に回り込まれてしまった!
なんでそんなドラ○エみたいなやりとりしなきゃいけないの!!
「まあ、待ってくれ。せめて僕の…いや、スーパーチャンピオンの悩みを聞いてくれないか」
「やだよ。そんなに暇じゃないし、なんで初対面の人の悩みなんて聞かなきゃいけないの」
私はホリ沢の話を聞かずにまた逃げようとする。
…しかし回り込まれてしまった!
もうこのやりとりやめて…
「これはある日…そう、いつものように○○に○○○を○○して…」
「ストォォップ!!いきなりなにとんでも発言してんのよ!なにがいつものようによ!初対面の人に言うことじゃないから!小さい子供いたらどうすんの!!」
私は右脚を上げながら左にくるりと回ると、そのままホリ沢の顔面に後ろ回し蹴りを炸裂させる。
すると、ホリ沢は急に腹をおさえ、床にうずくまった。
…あ、さすがにちょっとやりすぎたかもしれない。
でもホリ沢が悪いんだし…。
「ふぐぉぉぉ、はぁ、はぁ、う、産…まれる…」
「んなわけないでしょ!!」
振り下ろしたかかとがホリ沢の頭に落ち、ホリ沢の頭は地面に勢いよく激突した。
もうどこがスーパーチャンピオンなのか全くわからない。
「…なかなかだね。このスーパーチャンピオンについてこれるなんて…
でも、ここからが本番さ」
「いや、意味わかんないから。じゃあ私行くね」
「まってぇぇぇぇ!!あと少しでいいから!あとでなにかおごるから!」
「…本当?」
「シュタタタッ。スーパーチャンピオンは逃げ出した」
そう言ってホリ沢は廊下を走り去っていった。あ、転けた……
「ってなんでよ!!」
まあ、私もはやくホリ沢から離れたかったし…別にいいんだけど。
「でも…なんなんだろう。この気持ち…なんだか…胸が熱い…。今までこんなことなかったのに…。
もしかして私、ホリ沢のことが…」
「勝手に変なナレーション入れてくんな!!」
いつ私の隣に戻ってきていたのか、耳元で囁いてきたホリ沢の横腹を肘で突くと、私はさっさと廊下を歩いていった。
「まって、待ってくれテルテル…」
「誰がテルテルだっ!!」
私は後ろを振り返りながらそう言うと、再び廊下を歩いていった。