第1-10話 生息の場
第1-10話 生息の場
ミチの案内で山の中へと歩を進めたが、30分も歩くと道らしきものが無くなった。ミチも最初は尾根を歩いていたのだが「ここよ」と1声呟くと沢の方へと降りて行ったのだ。沢に降りたミチは、沢を渡って向こう側の尾根へと向かっていた。何故、尾根道を進まないのかと尋ねると「遠回りになるじゃない。それに尾根には、いいキノコが無いわ」ということらしい。いいキノコは、できるだけ湿気の多い場所の方がいいらしく、それも特上物となると水際が最もいいらしい。水際、即ち沢ということになるようだ。いいキノコと言われてもライたちには何がいいのかわからず、それを尋ねてみると、
「そうですね。食用なら肉質と味というところですか。薬用ならできるだけ毒性の強いものになって、燃料用なら油脂分の多いものとなります」
「知らなかった。キノコってそんなに用途があるんだ」
「父ちゃんが言うには、昔は食用が主で薬用など貴重だったらしいです。ましてや燃料用のキノコなど無かったと言っています」
そんな会話をしながらいくつもの沢と尾根を越えると、1つの滝が見えてきた。そこが目的の場所らしく、ミチは「ここでございます」と言うのであった。しかし、ミチも首を傾げて「ここなのですが、まるで様子が違います」とも言った。
「何処が違うの?」
「滝壺が覆われるくらい灌木が茂っています。それにそこにちらほら赤きものが見えます」
「う~ん。そんな短期間に様が変わるなんておかしいね」
「そうですね。たかだか2、3百年の間に…」
「え?ミチが前にここに来たのはいつだって?」
「おそらく、2、3百年前かと…」
「ついでに聞くけど、ここにきたのは何回目?」
「1回だけでございます」
「お父さんに頼まれて、何回か来たんじゃないの?」
「そんな、気味が悪いし、怖いし、切り取っちゃったから怒っているかもしれないし…」
山の中に入ってから一言も話さなかったサクマが顔を出した。
「興味深い話しですね。お家にあるあのキノコが2、3百年の間変化しなかった可能性もあるし、ここのキノコがさらに進化している可能性もある。可能性だけを考えればいくらでも考えられる。やはり、奥に分け入って調査するしかないですね。処分など今は考えられません」
皆が同意していたが、クウだけが質問をしていた。
「コウは…サクマになったんだ。サクマは山を歩いて疲れないの?」
「疲れたという感覚はクウと共有していますが、それがクウと同じものなのか知る術はありません」
「疲れてはいるんだ」クウは自分だけが疲れたのではないかと心配だったようだが、皆にはそれが独り言のように見えていた。




