第2話 平和な村
第2話 平和な村
3人が暮らしていた村は、深い山合いの中にあって、外界とは孤立していた。孤立していた理由を知る者は村の中にも数人しかおらず、村の外へ出ることは希で、よほど食糧に困ったときに近くの山に食糧採取に出掛けるくらいであった。村には長老がいて、その指図でシッカは、里へと向かい情報収集をしていたが、ここ最近長老とシッカの顔色は優れなかった。
「もしかするとみつけられたかもしれません」
そう言うシッカに長老は、
「去年、マモ婆さんが亡くなったのが痛かった」
マモ婆さんの能力は“迷いの綱”で、この村に辿り着こうとする者を迷わせるというものであった。それほど、この村を外界から隔離するにはわけがあったが、そのわけを知る者は長老とシッカだけになっていた。二人の年齢は不詳で、数千歳ともいわれていたが、その実体は明らかではない。村の人口は100人に満たず、生まれてくる子供も数十年に一人と極端に少なく、ライ、クウ、マイと3人続けて生まれたのは奇跡であるといわれていた。異能の者は長老とシッカ、マモ婆さんであったが、マモ婆さんも亡くなりシッカのテレポート、長老の千里眼だけとなっていた。かつては十数人の異能の者が住んでいたこの村も時が経つにつれて極普通の人たちの村へと移り変わっていた。主食は雑穀だったが、不平を言うものは誰もおらず、いたって平和な村であった。もちろん、電気など見たことも聞いたこともなく、この村以外に人がいるということすら疑っていた。確かに普通の人という意味では外界にそれらしき者をみつけることはできないかもしれないが、人に類似した者は大勢存在していた。
人に類似した者たちというより、彼らを支配しているものたちが、純粋な人類を根絶あるいは、混交させようとやっきになって探しているのであった。長老もシッカも異能の者ではあっても、血は赤く、遺伝子も純粋な人類のものだった。この村に今住む人たちには異能の遺伝は無く、ただ血の色と遺伝子のみが受け継がれ、長老は村人たちにかつての歴史を伝えることもしなかった。伝えれば、村に恐慌が走ることは必然であり、村を出て闘うことも望まない長老はただ、陰然とこの村を存続させることにのみ精力を使っていた。
かつては長老も抵抗軍の奇襲部隊『赤い疾風』の隊長で世界中を転戦していたが、抵抗も虚しくなり、気力が衰え守勢のみへと変貌したのであった。守りだけではいずれじり貧になることを知っていたが、気力の衰えがそれを諌めることをしなかった。