第1話 藪の中
第1話 藪の中
何故そうなったのかわからない。藪の中に放り出されたのはほんの束の間の出来事だった。さっきまで、友達3人と遊んでいたのに、何か爆発するような音と悲鳴が聞こえたような記憶もそこそこに藪の中にいるのであった。
「あそこまで跳べなかった…長老との約束が果たせなかった」
そう言うのはシッカおじさんでライには何を言っているのか見当もつかなかった。それでもライはシッカおじさんの背中に突き刺さる鉄の棒を見て、息も絶え絶えのシッカおじさんに声をかけた。
「シッカおじさん、大丈夫?」
その言葉が気休めなのは、顔色を見ても明らかだったが、他に言葉がみつからなかった。
「ここから尾根に出て、真っ直ぐ北に歩け。そして、この札を使うのだ」
そう言ったシッカは、もう二度とライの呼びかけに応えることはできなかった。
藪の中にいるのは、ライだけでなく一緒に遊んでいたクウとマイもいて、ライに事情を尋ねてくるのであった。
「ねえ、何が起きたの?シッカおじさんはどうしたの?わたしたちどうしてここにいるの?」
そう言われてもライは答えを持っておらず、ただこれからどうするかを二人と相談することしかできなかった。
「何が起きたのかわからない。でも、ここにいることだけは本当のようだ。これからどうしようか?」
「シッカおじさんが北に行けって…」
クウはシッカおじさんが大好きで、いつかシッカおじさんのようにテレポートの技を会得するつもりでいたのだが、慕う先生が亡くなって涙声のクウは最後のシッカおじさんの言いつけを守ろうとしているのであった。
「村はどうなったの?」
「今、村に戻るのは危険だと思う」
マイの気持ちもわからなくもないが、ライの本能がそう告げていた。
「やはり北に向かおう」
「北に何があるの?」
「わからないけど、シッカおじさんがそう言ったんだ」
ライの手の中には、小さな1枚の札が握られていて皆その札が何かを知ってはいなかった。
皆、村から外に出たことはほとんどなく、時折近くの山の中へ木の実を採取に大人のお伴をするだけだった。従って、何日かかるかわからない山の尾根を北に旅するのは3人にとって大きな冒険ともいえた。しかし、おそらく手助けしてくれるものは誰もいないだろう。木の枝を折り、穴を掘ってシッカおじさんを埋葬した3人は北へと向かうことにした。