新商品の値段とベルト製作
皆での晩御飯は、終始キスカの新商品の話で持ちきりであった。販売に際し、幾らで販売するか皆で相談している。
カルカナの通貨名はゼジル。通常のパンの値段が約200ゼジルほど、一般的な下位のポーションの値段は、約12000ゼジルである。ちなみに一般的な鉄のナイフなどは、約8000ゼジルもあれば買える。
ポーション系が、一般の鉄の武器より高いのは、カルカナの土地柄によるものである。
ブレスト山脈の坑道から金属が取れることと、坑道に挑む冒険者には、回復アイテムは必須であり、回復アイテムは高値で取引されていた。
鉄の価値は、他の地域より低いのだ。それよりも硬度の高い鉱物、魔力を宿した原石などが坑道から取れるのが理由の一つだ。
余談として、エミリオが仲間に作る武器は、値段が付けれないほど、高価なのは言うまでもない。
それらも踏まえ、キスカの作った、コーンパンとポーションは、ゼナ達の目から見ても、一線を凌駕していた。
ヴェルテは、パンは600ゼジル、回復ポーションは30000ゼジル、魔力回復ポーションは、35000ゼジルが良いと強気の発言をするが、キスカが止める。
結果コーンパンは、450ゼジルで、回復ポーションは、22000ゼジル、魔力回復ポーションは、24000ゼジルで販売することと決まった。
明日からの販売が楽しみである。
皆で後片付けをし、各自、再度工房に戻り作業を再開するのであった。
ゼナは工房に戻り、エミリオに頼まれたベルトを作ることにした。
「エミ兄は、色々装備を腰に付けたいはず!」
戦斧とツルハシ、ハンマー、ナイフ、水筒、ポーションホルダーなどなど。剣帯より幅を持たせ、ベルトよりも腰巻に近い形で形成していく。
型取りが終わり、アラクネの糸で縫っていく。エミリオの希望の色は黄色。ステッチで綺麗な色のアクセントを付け、糸で革の強度も上げる。
戦斧とツルハシは腰の部分で交差する様に金具を付ける。ツルハシの固定金具は、専用の物を作り、激しく動いても外れない様に工夫をし、上に戦斧が固定出来る様にする。
ポーションホルダーを左側に取り付け、右側には、ナイフホルダーと脱着式の水筒ホルダーを取り付けた。
エミリオ用のベルトの製作は深夜まで続いた。
すると、ヴェルテとキスカが遊びにやって来た。
「どーお調子は?」
ニコニコしながら、ヴェルテはゼナの作業を見ている。
「順調だよ〜」
ゼナは、作業を一旦止めヴェルテ達を見る。
「ベトルの葉を紅茶にしたので飲みませんか?」
キスカは、紅茶用のポットとカップを持って来ていた。
その横でヴェルテが言う。
「レモールを入れて、レモールティーにすると、美味しいよ〜」
「それでお願いするよ」
テーブルの物を片付け、三人でレモールティーを飲む。
暖かいレモールティーは、体を優しく包み、疲れを癒してくれた。
ほっこりした気分になり、三人で話をしていると、ヴェルテが、ゼナに革の余分は、まだあるかと聞いてきた。
「革の余分は、自分の装備分を取り分けて有るから、まだあるよ」
それを聞いてヴェルテは、ゼナに言う。
「余った革を使って、キスカにも革の装備を作って欲しい!」
ゼナは、そんなことかと微笑む。
「キスカさんにも革の腰巻を作ろうと考えてたんだ」
キスカは、戦闘では後衛で回復、魔法補助などの動きになる。ポーションホルダーは、通常の倍の大きさのを付けて作ろうとイメージしていた。そのことを伝えるとヴェルテとキスカは喜び、ヴェルテは抱きついてきた。
「流石ゼナ!」
「ヴェルテくるしい〜」
「ゼナさん、ありがとうございます」
お礼は、物が出来てからと笑いながら返答し、ゼナはエミリオのベルトの仕上げを再開する。
ヴェルテとキスカは、食器を片付けてから寝ると言い、去り際に、無理はしないでネ!と言い残し手を振って部屋を後にした。
ゼナは、もう一踏ん張りと、気合を入れ直し、ベルトを完成させてから眠りについた。
◇◆◇◆
ドアの向こうから、ヴェルテの声が聞こえてくる。
「朝だよ〜起きてー」
目を擦りながら、ゼナは起き上がる。
「ありがと、起きたよ〜」
ヴェルテは、早く来てね!と言い調理場に戻る。
ゼナは、着替えを済ませて、調理場に向かった。
「おはよ〜」
調理場に来ると全員揃っている。寝坊したのは、ゼナだけの様だ。
「おはよ!」
「おはよございます」
「おはよう、ゼナ」
「お寝坊さん、おはよ」
ミント、キスカ、エミリオ、ヴェルテが返答する。
今日のパンも良い匂いがしてる。
「今日のパンも美味そう!」
ゼナが言うと、キスカが答える。
「昨日作った紅茶の茶葉を細かくして練り込んだんです」
エミリオが、さあ、食べようと声をかけ、皆テーブルに着く。
「「「「美味しい」」」」
このパンならフルーツを挟んで食べても美味しいと思う。この新作も、売れると思ったゼナは、キスカに問う。
「コーンパンと日替わりで紅茶パンも出せますか?」
キスカは、またも拳を握り答える。
「大丈夫です。二つ同時でも行けます!」
「エミ兄、これは雑貨屋拡張して、喫茶店も視野に入れる?」
ゼナが、キスカとエミリオに微笑む。キスカは、目を開き慌てている。エミリオは、笑いながらゼナに答えた。
「良い案だな!しかし、人が足りないかもしれない」
「うーん残念」
狩りもあるし、製作の仕事もある状態で喫茶店までは回せないのが現状である。いつか開店させると心の中でゼナは思うのであった。
「エミ兄、ベルト出来たから、後で見て欲しい!」
「お、もう出来たか!早いな」
「力作だから、気に入ると思うよ!」
朝食を食べ終わり、エミリオが、今日の予定を聞いてきた。
「何もなければ、革の装備の作成かな〜」
「了解だ!店番も任せるぞ」
「エミ兄どこか行くの?」
「商店街の会合が有るから今日は、そっちに行ってくる」
商店街の会合とは、カルカナの商業ギルドの会合のことであった。
ゼナが坑道に、まだ入ってない理由も、15歳からでないとギルドとしては認めてないからである。
ギルドは、大きく3つの分類に分かれていた。坑道の攻略をメインとする冒険者ギルド、坑道の攻略と加工品の流通をする商業ギルド、都市の治安を守る自警団ギルド、各ギルドは都市からの税金を元に管理されていた。
その中で、一番巨大なギルドは商業ギルドである。加工品の流通は、税金の補助が無くても成り立っており、現状は商業ギルドからの要請で、自警団ギルドに補助金を回している。
坑道入口には、監視所があり、通行の許可が必要となっていた。
許可を貰うにはギルドに入り、自身の情報を晒さなければ坑道には、入れないのだ。
「皆の坑道許可証の申請をしてくるよ」
エミリオは微笑みながら、皆に言う。
ゼナ達は、喜びエミリオに返事するのであった。
「エミ兄、工房に来て欲しい!坑道攻略用の装備も持ってきてね」
「わかった、すぐ行くよ」
エミリオは、自室に戻る。
ゼナ達は、工房に向かうのであった。四人が工房で待っていると、エミリオが装備品を持って現れた。
「エミ兄、着けて見て」
ゼナから、渡されたベルトを見て、エミリオは、片眉を上げる。
「これは、凄いな!」
ベルトを装着し、ツルハシ、戦斧、ナイフをベルトに固定して行く。
「動き易いし、固定した装備品が、直ぐに使える配置だ。それに防御の面も問題ない」
エミリオは、ゼナのベルトをベタ褒めしている。
「流石だ、これ程の物はカルカナでも、中々手に入らんぞ」
ヴェルテが自分のことの様に喜び、ゼナに抱きつく。ミントもゼナの肩に乗り喜んでいた。
キスカは、エミリオに似合ってますよと褒め千切っていた。
「ゼナ、ありがとう!坑道に行くのが楽しみだよ」
ゼナは、照れながらクシャっと破顔し、その姿を見て皆も微笑んでいた。
その後、エミリオは、会合に向かい、四人は、店番と各自の製品の作成をするのであった。