新商品と剣帯製作
小鳥の囀りが窓の外から聞こえる。
ゼナは、ゆっくり目を開いた。
頭が覚醒するまで、ボーっとしている。ふぁーと欠伸をしながら、体を伸ばし、ベッドから起き上がった。
「今日も良い天気になりそうだ!」
ミントも、ゼナの起床に気づき、一緒に起きる。
「おはよゼナ!」
「ミントおはよ」
着替えを済ませ部屋から出る。
朝ご飯の準備をしようと調理場に向かうと、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「おはようございます」
「おはよ〜」
キスカさんとヴェルテが朝食を作っていた。
「おはよ〜 二人とも早いね てか、ヴェルテが起きてるのが珍しい!」
ヴェルテが頬を膨らませる。
「ゼナ、朝ご飯抜きにするよっ」
ごめんごめんと、ヴェルテに謝りゼナは、朝食の準備を手伝う。
昨日ヴェルテはキスカさんと夜遅くまで女子会をして、パンの話になり、昨日の内に生地を作り寝かせてから就寝したとのこと。
4人で準備していると、エミリオも起きてきた。
「皆おはよう」
「おはようございます」
「おはよ〜」
「おはよ!」
「エミ兄おはよ」
キスカさん、ヴェルテ、ミント、ゼナがエミリオに挨拶を返す。
パンを見て、エミリオが答える。
「コーンを使ったパンか、物凄く良い匂いがしてるネ」
焼き上がったばかりのパンが湯気を上げている。ヴェルテが自慢気に答える。
「キスカの村で作ってた製法のパンだよ〜」
コーンを惜しみ無く使ったパンは、中も外もコーンで埋め付けられていた。
「お口に合うか分かりませんが、食べて見て下さい」
キスカさんが心配そうに言う。それを見て、ゼナは答える。
「お腹すいたネ、全員いるし食べよう!美味そうな匂いに、我慢出来ない」
「だな、食べよう!」
エミリオが相槌を打ち、皆和かにテーブルに着いた。
「「「「美味しいっ」」」」
なんて美味いパンだろう。コーンの甘さがパンの旨味を、更に引き上げてる。これ程、美味いパンは初めてかも。皆が同じ様に思ってるようだ。
「これは、売って良いレベルだな」
エミリオが言う。リスの様に口いっぱいにパンを頬張るヴェルテも同意見と頷いていた。
キスカは、赤面しながら喜んでいる。
「限定商品で、雑貨屋に出してみる?」
ゼナが言うと、皆が賛成と頷く。
「キスカさん、一日20個の生産は可能かな?」
「大丈夫ですっ」
キスカは、拳を握りコクリと頷いていた。
「明日から、限定20個で試験的に出して見よう!」
ヴェルテが、ニコニコしながら、楽しみだねと、キスカに抱きついていた。
食事が終わり、エミリオが予定を聞いてきた。
「ゼナ、今日の予定は?」
「皮なめしの作業を、終わらせたいかな」
ヴェルテが、横から手伝う!と言ってくれてる。
「ゼナ、なめしが終わったら、森に行こう!キスカが薬の材料を集めたいって」
「了解っ」
エミリオが合わせて、ゼナに言う。
「森に行ったら、神樹になりそうな木を探して来てくれないか?」
ゼナは、了解とばかりに頷く。
「神樹で何を作るの?」
ヴェルテが聞いてくる。
エミリオは、ヴェルテに説明を初めた。
「キスカさんの杖を作ろうと思ってね。核となる神樹の部分の加工は、ヴェルテに、お願いして外装は自分がミスリルを加工、銀の装飾はゼナで作る予定で」
「了解っ!芸術的な物を作るよ〜」
「凄い物を作ろうっ」
びっくりしたキスカが言う。
「皆さん、そんな高価な素材を使った物を頂く訳にはいきませんっ」
エミリオが、笑いながら答える。
「近いうちに、坑道に皆で行くから、キスカさんの装備も充実しときたい」
ゼナも、答える。
「僕も、まだ行ったことがないけど森の魔物とは比べものにならない程、強いらしいから皆の装備は充実しないとネ」
エミリオは、更に言う。
「各個人の装備は、今できる最高の物で揃えたい!皆の生存率を高めて、より奥地まで攻略したいから」
ゼナもヴェルテも、うんうんと頷いていた。食事の後片付けをしてから、ゼナの作業している部屋に向かう。皮をなめし革にかえる作業を開始した。
「今回は硬めの革と、少し柔らかい革を作るよ〜」
硬めの革は、硬めの鞄や、ポーションホルダーなどを作る。柔らかい革は、ヴェルテの剣帯とエミリオのベルトを作る予定だ。
4人で協力して、革の鞣しが完了する。何気にキスカさんの体力回復の魔法が皆の集中力を上げていたのだ。改めて良い方が仲間になったと思うゼナであった。
ゼナ達は森に行く準備をし、歩を進めた。ゼナは、キスカに今日の採集目標を聞く。
「回復ポーションの材料として、ホーリーマッシュルーム、ベトルの葉、と精製水で作るのですが、ミントさんが作った妖精の精製水と鱗粉を加えれば、より強力なポーションになる予定」
ヴェルテが横で、頷いている。
「キスカ凄いネっ」
「魔力回復ポーションの材料は、マジックボルチールとアマリウスの花弁、大地の聖水です。それに、ミントさんの妖精の精製水を加えます。」
「今回の採集は、ホーリーマッシュルーム、ベトルの葉、マジックボルチール、アマリウスの花弁ですネ」
キスカの説明を聞き、ゼナ達は、頷きホーリーマッシュルームから探すことにした。
キスカが、ホーリーマッシュルームを見つける
「ありました!沢山生えてますネ」
皆で、採集し次はベトルの葉を探す。ベトルの葉の側で、レモールの木を見つけ、レモールの実も取りまくり皆ホクホクしている。
更に森の奥に進みマジックボルチールを探していると、目の前に巨大なイノシシが現れた。その個体は、先日のボスベアーよりも大きい。巨大なイノシシは、ゼナ達を見ると襲いかかってきた。
ゼナが皆に伝える。
「皆、散開!ヴェルテは、左から隙を見てアタックして」
「「「了解」」」
イノシシは、ゼナに向かって突進してくる。
ゼナはミスリルの短剣を抜刀し右側へサイドステップし突進を避ける。その動きにヴェルテも合わせ、同時にイノシシに斬りつけた。
二人の素早い動きにイノシシは着いて行けず、切り刻まれていく。
ゴモォォと叫び、逃げようと再度突進を試みるが、ゼナとヴェルテの剣の舞に阻まれ、力尽きた。
ヴェルテは、よっしゃーと叫び、喜んでいる。晩御飯の肉をGETできて嬉しいらしい。その様子を見たてキスカと、ミントが歩み寄ってきた。
「二人とも強いです」
「流石ネ!」
二人の賛辞に照れながら、ゼナは答える。
「今日の晩御飯は、イノシシのレモール煮だね」
ヴェルテが、ヨダレを拭く仕草をみせながら、おどけてみせた。
その後、マジックボルチールを見つけ採集し、直ぐ近くにアマリウスの花を見つけて合わせて回収した。
さて、後は神樹を見つけなければと、ヴェルテは周りを見渡す。
森の中の岩に囲まれた泉の側に神樹となれる大木を見つけ、今回は、太い枝を頂くことにした。
ヴェルテが、切る前に大木に一礼してから作業を開始する。
枝を剪定する様に綺麗に切断し、切った箇所には、植物用の薬を塗り付けて作業は終了した。
「良い神樹が手に入ったね!ミントにも神樹で杖作るからネ」
それを聞いたミントは、大喜びでヴェルテの側を飛び回るのであった。
皆の採集用の鞄がはち切れん程、膨らんでいるが、ここでもキスカの魔法で、荷物の重さが軽減されている。
「キスカの魔法凄いね」
ヴェルテが、キスカに抱きついて喜んでいる。
「素晴らしいよね」
ゼナも相槌を打つ。荷物の重さは、戦闘の妨げにもなるし、体力の消耗にも繋がるからだ。此処まで魔法の恩恵が凄いとは思ってもいなかったゼナ達は、キスカの凄さを再認識しながら、雑貨屋に戻るのであった。
カランカランと鈴が鳴り、雑貨屋アリアンワースの扉を開く。カウンターには、御用件があれば工房まで!と書かれた張り紙がされていた。
荷物を置き、エミリオに戻ったことを伝える。
「エミ兄、ただいま〜」
エミリオは、小槌で加工している部材を一旦置き、皆を見る。
「皆、おかえり!良い物は採集できたかい?」
ヴェルテが微笑み答える。
「良い神樹もあったし、晩御飯の肉もGETしてきたよ〜」
キスカも合わせて、薬の素材も揃ったと報告していた。
今日は、これから各個人が作業場で物作りをすることで決まり、皆が部屋へ散っていった。
「さぁーて、剣帯から作りましょうかね」
ゼナは革を型取り、アラクネの赤く染めた糸で縫っていく。
アラクネの糸が強靱なことと、革の加工にミントの水魔法を付加してることで、ゼナの作る革製品は、他に類のない丈夫な革製品となっていた。
剣帯のメインとなる形が出来上がるり、次は硬い革を使ってポーションホルダーを作り始めた。剣帯には、二箇所のポーションホルダーを付ける。回復用と魔力用に分けて装着出来る様に作り上げる。
ポーションホルダーを剣帯に取り付け、今度は、柔らかい革を使い水筒用のホルダーとポーチを作る。どちらも、脱着式だ。ポーチには、携帯の非常食が入れれる様に製作していく。
最後に、金具の取り付けを行う。金具の部分は、他の革製品と同様の部品を使用してヴェルテの剣帯は完成した。
「できた!我ながら素晴らしい出来だ」
完成品を見せるべく、ヴェルテの作業場に向かう。
「ヴェルテ〜入るよっ」
作業場では真剣な表情でヴェルテが神樹を加工していた。
ヴェルテが落ち着くまで作業を見ながら待つ。
ヴェルテがゼナに気づき、作業をひと段落させた。
「ゼナっ、居るなら声かけてよ〜」
「声かけて入って来たんだけど、ヴェルテが集中して気づかなかったんだよ〜」
二人は微笑み合う。
「前回の狩の報酬の剣帯!力作だから、見てみて」
ヴェルテは、ゼナから剣帯を受け取ると、大喜びで剣帯を装着する。
「やっぱゼナの作品は綺麗だな〜」
自身の剣を剣帯に取り付け、満足そうに、鏡を眺めていた。
「そろそろ晩御飯の準備の時間かな?」
ヴェルテは頷きゼナを引っ張り部屋を出た。
「キスカのとこにも見に行こう」
キスカはミントと二人でポーションを製作している。
キスカの予想は的中しミントの鱗粉と妖精の精製水は、ポーションの効果を飛躍的に向上させていた。
入口に立ちヴェルテは、作業している二人に話かける。
「調子は、どーお?」
キスカとミントは気が付き、微笑む。
「良い物が出来ましたよ〜」
「ゼナ!キスカ天才なの!」
キスカは、汗を拭きながら答える。
ミントは、興奮気味にゼナに飛び付いてきた。
ゼナも、ミントの喜びが伝わったのか、クシャっと破顔する。
「これは、坑道攻略が楽しみになってきたネ」
「雑貨屋に売り出しも既製品より高値で出そう!」
ゼナの言葉に皆が微笑み、そろそろ晩御飯の準備をしようと、ヴェルテが言い、全員で調理場に向かうのであった。