砂漠の蠍と笛使い
朝になり各自が動き出す。ゼナは、昨日漬けていた革を乾燥させ、瞬く間に鎧の型取りをした。警備兵用なので、革と革の間に金属の板を入れ、ボーガン対策とする。午前中の内に7着ほど作り終えた。昨日買ったバリスタの矢筒も、馬に備え付けれる様に加工し取り付ける。また、ヴェルテとカルラは、馬車の補強を充実させる。簡易的に金属の板を表面に貼り付け、ボーガンの矢の脅威から馬車を守る。元々アラクネの反物で作った荷馬車は、矢などは貫通出来ないのだか、狙われるのを避ける為に貼り付けていた。キスカは万が一、受傷者が出た時は、馬車に連れ込み治療を出来る様にし着実に戦闘準備を進めている。
ゼナ達の元にガルシアが歩み寄り、そろそろ昼飯にしないか?と聞いてきた。
「そーですね!昼にしますか!」
ゼナは作業の手を止め、ガルシアに微笑む。家の中で食事も終わり、ガルシアが午後は、雑貨屋に行ってみないかと聞いてきた。ゼナは行きたいと答え、ヴェルテ達は掘り出し物を探すと意気込む。ガルシアを先頭にガザールの雑貨屋に向かった。
「やあ、また来たよ」
ダジールの店に入り、ガルシアは微笑む。
「おー、いらっしゃい。ゼナ、あんたに良い話だ!ファイアードレイクの皮が、また入荷した」
ゼナは、ダジールに歩み寄り詳しく話を聞く。先日入荷してくれた冒険者が再度討伐してきたと言う。それも2頭分!皮の状態も良いし、どうだと聞いてきた。
「その皮、ゼナにプレゼントしよう!代金は俺に回してくれ!ゼナには迷惑をかけて居るからな!明日の件もあるし、ここの金は、俺が払う」
「ガルシアさん!それだと流石に貰いすぎです」
ゼナがガルシアに食い下がるも、ガルシアは、そこは譲れないと言う。武器防具の運搬や警備兵の鎧も作って貰って、対価を払わない訳にいかないとのこと。
ゼナは、有難うとガルシアに頭を下げ、ドレイクの皮は貰い受けることにした。
「ダジールさん、バリスタの矢の在庫は、まだありますか?あったら売って欲しくて!」
「ああ、あるぞ!この前と同じ奴で良いか?」
「お願いします!」
ダジールは、奥の部屋から、バリスタの矢が入った矢筒を持ってくる。このバリスタの矢もガルシアが払うと譲らず、ゼナはガルシアの言葉に甘えることにした。
明日の行動について請求書を書くのに合わせてメモで筆談を始める。
明日は、ダジールとダジールの奥さんの二人が同行することになる。ダジールと奥さんは、店を出す前は、二人でトレジャーハンターとして各地を冒険していた経験が有り、戦闘能力は一般の警備兵よりは高いと言う。ダジールさんは、大型ボーガンを使い、奥さんは薙刀式のグレイブを使い昔は暴れていたと語る。
ダジール夫妻はゼナ達の馬車の護衛で配置することが決まった。
明日の調整は終わり、ゼナ達は、ダジールの店を後にした。
「ドレイクの皮が、これ程集まるとは思ってなかった」
ゼナは、ガルシアに伝える。ゼナは、今回ファイアーリザードの皮を集めるつもりでダジールに来たが、予想以上にドレイクの皮が集まり、リザードを狩る必要が無い程である。
「良いことだ!でも皮は、今後も必要なんだろ?」
「うん。今後も必要になる素材だね」
「皮は入荷したら必ず、ゼナに届けるよ!その為には、明日の掃除が要になるな」
ガルシアは、微笑みながらゼナに言い。ガルシアの家に戻った。
ゼナは、直ぐにドレイクの皮の下処理を始める。洗浄した後に風の魔法で乾燥していく。乾燥が終わり、先程買ってきたバリスタの矢の矢筒を自身で装備出来る様に加工していく。今回の物は、背中に背負う形でホルダーを作った。
また警備兵用の鎧も追加で9着製作し詰所に届ける。
明日は、警備兵は16名が同行する。ダジール夫妻とゼナ達を加えれば十分な戦力である。夕方になり、ガルシアがゼナ達が明日カルカナに帰る旨を皆に伝えた。使用人を欺く為の策略であるが、盛大に晩餐会が開かれた。
晩餐会が終わり、ガルシアに呼ばれ、書斎に入る。ガルシアから盗賊の情報が教えられた。砂漠の蠍は、他の盗賊団と合流し戦力を増強しているとのこと。ムスタファ家が全面的に協力して軍備を再編したとの話も聞こえて来ている。密偵からの情報を元に、武具の調達に使われた店と軍馬の調達に使われた店の証言と販売した請求書などは押さえた。警備本部に居た内通者は、今は泳がせて居るが明日の襲撃の時点で、正規に捕縛する予定だと聞かされる。その為には、砂漠の蠍の頭目だけは殺さずに確保して欲しいとガルシアより嘆願された。ムスタファの悪事を暴くのに、頭目の証言が必ず必要になるからであった。ゼナは、静かに頷き書斎を後にした。
◇◆◇◆
出発の朝を迎え、皆の食事も終わり、準備が始まる。ゼナ達は、昨日粗方準備していたので、直ぐに出発出来る状態であった。
今回は、キスカに馬車を操って貰い、ヴェルテは新たに馬に乗り、ボーガンを装備する。合わせて、ダジール夫妻にも馬で周りに付いて貰い馬車の防衛をお願いした。
ゼナの側にダジールが馬で横に並び、話かけてきた。
「バリスタの矢だが、俺のボーガンでも撃てるから、こっちも2セット持ってきた。万が一、足りなくなる様なら俺に言ってくれ」
「ありがとうございます!」
ゼナは、ダジールに頼りにしてますと告げ、カルラと共に、ガルシア側の馬車に付き護衛を開始する。
ガルシアが皆に声をかけ、商隊はカルカナに向けて出発した。
ガザールと妖精の森の中間地点辺りまで来た所で、一旦休憩を取ることになった。丘の上にある広くなった場所で周囲の状況も把握出来き、大きな岩もあるので、その側に馬車を停車させた。
「来るなら、ここで戦いたいですね」
「確かに、ここなら戦いやすい」
ゼナとガルシアが話していると奇妙な笛の音が聞こえた。その音と共に、後方から怒声が聞こえてくる。
「きたか!」
ゼナは、後方へ目を向け驚愕する。目の前には、ファイアードレイクが2体、盗賊は50人は居る様に見受けられる。
側にいたダジールがゼナに言う。
「マズイ。笛使いがいやがる。あれを押さえないとドレイクに蹂躙されるぞ」
砂漠の蠍の頭目は、ゼナ達に叫んできた。
「荷物を置いて逃げろとは言わねえ、皆殺しだ」
頭目は、ニヤリと下衆な笑いを見せる。
ゼナは、直ぐ様、叫び指示を出す。
「ファイアードレイクは自分が対処します。盗賊は、ダジール夫妻と警備兵で対処願います。キスカとミントは、警備兵と合流して!カルラ、ヴェルテ!笛を使ってドレイクを操っている奴と頭目を押さえてくれ」
ゼナは、バリスタの矢を取り出し、構える。風の付加を付け、ドレイクに狙いをつける。弓がグリーンサファイアを中心に光だし風を纏う。
「シル、僕に力を貸してくれ」
ゼナの言葉に反応し、左腕の腕輪が新緑の光を放った。
ゼナは、ドレイクに向けバリスタの矢を放つ。轟音と共にバリスタの矢は、風の付加を受け極大の槍となってドレイクに迫る。
ドレイクが矢に気づき回避しようと動き出したが、躱すことは叶わず凄まじい勢いでドレイクを貫いた。
「ガアァアァアグオォオォオォォォォーーー」
ドレイクが物凄い咆哮を上げ、辺りは地鳴りが起きている様に大気が震える。一撃では撃ち落とせずドレイクは、ゼナに敵意を向ける。ゼナは馬を走らせ、馬車や皆から距離を取った。矢を受けたドレイクがゼナに向かい飛来する。ゼナは再度弓を構え風の付加を最大にし、矢を放った。
ゼナの矢は、先程放った矢よりも更に速く、更に鋭い風を纏いドレイクに迫る。ドレイクは、火炎をゼナに向けて放とうと口を大きく開け火球をゼナに向けて放った。ゼナの風刃を纏った極大の槍と化した矢と火球が激突する。
空中で物凄い爆発を起こし、火球と矢は相殺された。ドレイクは、爆発を直近で受け再び咆哮を上げている。もう一体のドレイクもゼナに対し火球を繰り出してきた。ゼナは馬を全力で走らせ火球を躱す。爆音と共に火球が大地に激突し火柱が上がり、大地が広範囲に燃え上がる。
「直撃を喰らったら、消し炭にされてしまう」
更に、手負いのドレイク達は、火球をゼナに向けて放つ。躱しきれないものには、バリスタの矢を最大付加で撃ち相殺するが、ジリ貧なのは否めない。
ゼナは、火柱の陰に入り、ドレイクの視界から消えた。手負いのドレイクに対し、バリスタの矢を再度撃ち放つ。手負いのドレイクはゼナの矢に気づき、口を開け火球を放ち矢を迎撃しようとする。ゼナは、風刃を付けた鉄の矢をバリスタの矢の後に連射して放っていた。火球とバリスタの矢が激突し爆発が起こる。
「ッガハッ〜グオォォォオーー」
爆発の後に、鉄の矢が手負いのドレイクの喉と右目に突き刺ささり、怒り狂う。
ゼナは、更に極大に風を纏ったバリスタの矢を放つ。
「堕ちろ」
喉をやられた手負いのドレイクは火球を作るも、先程までの大きさは作れない。
しかし、意地を見せ火球を撃ち出した。
「ガアァァァーー」
轟音を立てながら、手負いのドレイクに迫る風の槍と化したバリスタの矢は火球と衝突する。激しい爆発音が響き風の槍は火球を貫いた。
「ガッッグッ」
口を開けたままの手負いのドレイクの口内にバリスタの矢は深く突き刺ささり頭部を爆散させる。ズズンと土煙を上げながら手負いのドレイクは、地上に堕ちた。
◇◆◇◆
ガルシアの指示が飛び、警備兵達と盗賊は入り乱れ剣戟が響く。キスカは、警備兵の操る馬の後ろに乗り、後方から、回復魔法をかけていく。
「大地の精霊よ、その偉大なる力、慈愛を我に、大地の息吹にて傷を癒せ」
キスカとミントを守る様にガルシアと警備兵3名が囲む様に陣取り大きな盾を構え、敵の矢を防いでいた。
「負傷した者は、一旦此方に引いてこい!ボーガン部隊は、援護しろ」
ミントもキスカの肩に乗り回復魔法を警備兵達にかけ続けていた。
「清らかなる水霊の力、命の鼓動、聖水となりて汝を癒せ!」
ガルシアの警備兵は、6名が前衛装備で4名がボーガン装備、補助騎兵として投げ槍装備が3名、残る3名は大型の盾を装備し連携を取りながら戦っていた。
日頃訓練されている警備兵の連携に寄せ集めの盗賊は、為す術もなく斬り伏せられていく。加えてキスカとミントの回復により前衛部隊が持ちこたえ、3倍程いる盗賊と互角の戦いを繰り広げていた。
ゼナがドレイクの注意を引く間にカルラとヴェルテが、盗賊の中心部に迫る。カルラがハルバートで斬り込み、ヴェルテがボーガンでフォローする。
「いた!左前方に大きな笛を持った奴がいる!」
ヴェルテが、笛使いを見つける。
「了解!斬り込むよー」
カルラがハルバートを小枝を振るう様に激しく振るい盗賊達を斬り伏せていく。
「図に乗るなよ小娘。ハルバートを持った奴を狙え」
頭目の激が飛び、カルラに盗賊が複数名狙いを定め迫ってくる。
「若い子だけじゃなく、お姉さんの相手もしておくれよ」
ダジールの妻マリカがカルラの援護に入り、グレイブで盗賊を薙ぎ倒す。
「くそ、あれも合わせて潰せ」
頭目は、マリカにも迎撃の兵を向ける。
「おっと、俺の女に手を出すとは良い度胸してるな!」
ダジールがニヤリと笑い、マリカを狙った盗賊をボーガンで射抜く。射抜かれた盗賊は衝撃で吹き飛ばされ他の盗賊に当たり複数名が落馬した。
「俺の女だなんて!」
マリカは、ポッと顔を赤らめ意気揚々とグレイブを振り回す。
周囲に居た警備兵は、白い目でダジールを見ながら呟く…
「爆ぜれば良いのに…」
ぶつけ様の無い怒りを盗賊に向けて発散していった。
笛使いの前に、盗賊の中では異様な装備の騎兵が立ちはだかった。その装備は、漆黒のフルプレートの鎧を装備し巨大なハルバートを振りかざし、カルラに迫る。
頭目は、その漆黒の騎士に指示を出す。
「殺した数だけ褒賞の額は上げる!皆殺しにしてくれ」
「傭兵か?」
「装備が凄いね」
カルラは、漆黒の騎士の右に回り、ヴェルテは、ボーガンをホルダーにしまい、盾と剣を装備し左に回る。
二人は、同時に斬りかかった。
カルラが、渾身の刺突を繰り出し、ヴェルテが横薙ぎに斬りかかる。
漆黒の騎士は、二人相手でも諸共せず、巨大なハルバートを振りかざし、カルラ達を迎撃せんと動きだした。漆黒の騎士はカルラの刺突を、巨大なハルバートで撃ち弾き、ハルバートの長柄でヴェルテの剣戟にカウンターの刺突を繰り出す。ヴェルテは、盾で刺突を受け流すも体制を崩される。漆黒の騎士はヴェルテを追撃しようとするも、ダジールが矢を放ち牽制した。
「「強い」」
カルラとヴェルテは合わせた様に呟き、体制を立て直す。
「はあああっ」
カルラが気を練り、再度、漆黒の騎士に斬り込みをかけ、漆黒の騎士と激しい剣戟を交える。カルラの気を込めたハルバートの剣戟は、漆黒の騎士と互角の打ち合いを繰り広げた。しかし、漆黒の騎士の技と力が、徐々にカルラを追い詰める。漆黒の騎士の剣戟で、カルラの馬ごと吹き飛ばす。カルラは、馬から弾き飛ばされ大地に叩きつけられた。
「あうう」
漆黒の騎士のハルバートの刃先は辛うじて防ぐも、馬は打撃によるダメージで動けない。カルラにトドメを刺そうと漆黒の騎士が迫る。ダジールがボーガンを放ち再度牽制するも軽く矢は撃ち払われた。
その様子をヴェルテは黙って見ていた訳では無い!カルラが時間を稼いでくれている間に魔法の準備をしていた。ヴェルテは、漆黒の騎士に接近し近距離からの魔法を繰り出す。漆黒の騎士がヴェルテを、斬り払おうと動いた刹那、傷付いたカルラが下から鎧の隙間をついて刺突を喰らわす。
「ぐおっ」
漆黒の騎士は、突然の刺突を喰らい体制を崩された。
「火の眷属、我の右手に紅蓮の焔を成し一筋の矢となり放て」
ヴェルテの右手から焔の矢が放たれ、漆黒の騎士を紅蓮の焔で包む。
「ぐあぁぁ」
漆黒の騎士は、紅蓮の焔に焼かれ、落馬し地面を転げ回る。カルラが、足を引きずりながら立ち上がり、トドメの一撃を漆黒の騎士の頭部に叩きつけ気絶させた。
「借りは返したわよ!」
カルラは、ヴェルテに微笑みながら、その場に膝を着いた。
「キスカ!カルラの回復をお願いっ」
ヴェルテは、カルラを守る様に周囲を警戒する。その間にマリカとダジールが、笛使いを押さえた。笛使いは、マリカにグレイブを突き付けられドレイクの攻撃を止めさせられる。
「ゼナ!笛使いは押さえた」
ダジールがゼナに叫ぶ。ゼナは、ダジールの声に答え弓を持った手を挙げた。
「くそっ。傭兵も口だけで役立たずだな」
頭目が、逃走しようと動いた瞬間、左肩に矢が突き刺さる。
「があ?」
頭目は、矢の衝撃で落馬する。
「逃がすものか!」
ゼナが、超遠距離からの狙撃を頭目に喰らわした。直ぐ様ガルシアの警備兵が頭目を囲む。
「盗賊共に告ぐ!大勢は決した。命が惜しければ降伏しろ」
ガルシアが叫び、頭目は警備兵に捕縛される。ガルシア警備兵の1人は、早馬に乗りガザールの警備隊本部に報告に向かった。他の盗賊も捕縛する。
盗賊達は重傷者は32人、死亡者は9人、残りは、降伏に応じた。
ゼナ達の被害は、幸い死亡者はいなかった。日頃の練兵による実力とゼナの作った鎧の防御力の高さに助けられたものと思われる。重傷者が3名、馬は8頭行動不能になっていた。動きを押さえていたドレイクは、ゼナの渾身のバリスタの矢で仕留め、盗賊側を完全に無力化した。
「傷は、大丈夫?」
ゼナがカルラに歩み寄る。カルラは、キスカの治療を受けながら微笑む。
「大丈夫!キスカが治してくれるもん!」
「無理は禁物ですよ〜」
キスカが苦笑いしながら、包帯をキュッと固定し、カルラは悲鳴を上げていた。ガルシアの警備兵の怪我も、命に別状はなくキスカとミントの治療を受けている。ゼナ達は、仲間の治療が終えるまで周囲の警戒をしていた。すると後方から、見慣れた姿の一団がゼナ達に歩み寄ってくる。
「これは…何があったんだ?」
「クリスさん!どうしてここに?」
護衛の仕事で、港町まで行きカルカナに戻る途中のクリス達がゼナ達の前に現れた。
「そりゃカルカナに帰る途中さ!で、この有様はなんだい?」
ゼナは、クリス達に状況を伝える。
「また凄いことに巻き込まれてるね…こやつらは、全員盗賊か」
クリスは、ゼナ達の戦闘能力に再度脱帽していた。圧倒的にゼナ達より捕縛された盗賊の数の方が多いからである。
ゼナは、クリス達が自分達の仲間だと、ガルシアに紹介し、ガルシアは、クリス達を臨時で雇いガザールまでの護衛をしてもらうこととなった。
仲間の仮処置が終わり、仲間の怪我人は馬車に乗せ、ゆっくりとガザールに向かい出発した。




