No.4 心に秘めた感情は
エネルギー源が電気であるものはとても少なくなった。独自の判断、及び適切な対処をその機械の役割を行う上で必要かどうか、それが電気エネルギーが動力源になるか、生命エネルギーが動力源になるかの違いだ。
裏を返せば、生命エネルギーはそれらが必要であるもののみに活用されている。
例を挙げれば、もちろんのこと『人間生活支援システム』、さっきも出て来た『対宇宙空間用人型戦闘兵器No.0』、他には『時空間移動装置』や自動車などだ。何となく共通点があるのがわかる。
『完了。無事全ての作業を終了した。』
「よくやった。衛星から惑星の様子を観察しといてくれ。後で重要なところだけピックアップして、ホログラムで見せてくれ。」
『了解。サテライトシステム、作動。それ以外の機能は不要と推察する。』
「あぁ。そうだね。後の機能は作動させなくていい。」
『了解。』
時計をみる。4時6分。
カイルはまだ来ないのか。
カイルと会うのは二回目だ。そもそもカイルとはネットワーク上で知り合った。一度だけ前に会っただけだ。
もちろん僕の家に来るのは初めてだ。
ビビッ
音がなる。
この家の管理システムから連絡だ。
『オーナーに連絡。訪問者あり。カイル・マーフィーと名乗る男性。処置の命令を要求する。』
これはロイクとは別だ。ロイクより性能は下がる。それで十分だ。このシステムは自宅のサポートシステムのようなもの。製品上ではロイクと同じ『人間生活支援システム』に分類されるが、正しく言えば『自宅管理システム』だ。
ロイクのように自らの考えを述べたりしないし、必要以上に話しかけてこない。
ただし、動力源は生命エネルギーであり、家の戸締まりなどを全て自己判断で行う。このシステムのお陰で泥棒の被害件数はほぼ皆無に等しくなった。
当たり前だ。侵入するためには『人間生活支援システム』である『自宅管理システム』をダウンさせなければならない。
それを行えるのはオーナーのみ。並外れなハッキング能力があれば別だが。
「通せ。」
『了解。』
ドアなんかも全部管理システムによって制御される。
ノコノコとカイルが部屋に入ってきた。
「久しぶり。」
「久しぶり。」
お互いに挨拶を交わした。
「エリック、この家見かけより広いな。」
「当たり前だ。空間圧縮してるからな。」
「空間圧縮?」
この言葉はなにそれ?と同じニュアンスととっていいだろう。
「知らないの?」
「知る訳ないだろ!!何だよそのあからさまに凄そうな言葉は!?」
テンションが高いな。尋常じゃない食らいつき。
いつもこんな感じかと言えば、そうなんだが。
「アメリカには無いのか?」
「いや、俺んちにないだけかもしれん。だが持ってり人は相当なセレブだと思う。」
「そうでもないよ。」
「そうでもあるよ!!ここは技術大国の日本だからそう感じるんだよ。」
確かにここは技術大国、日本だ。
日本の技術は七十年ほど前からずっと世界トップだ。
「そうか?」
「うん。で、何なの?その凄そうな名前のヤツは!」
「ロイク、空間圧縮装置について説明してあげて。」
めんどくさいときはいつもロイク任せだ。これじゃダメになる。そんな予感がする。でも、めんどくさいものはめんどくさいんだよな。
『了解した。』
「おぉ!!これが日本製の『人間生活支援システム』!何か格別な気がする。」
「きっと多分そんな気がするだけだよ。」
恐らくこのシステムは世界共通。空間圧縮を知らないカイルもこのシステムの存在は知っている。きっと彼にも装備されているだろう。
このシステムは人間の安全を守るのに必要だという理由で、全世界に普及した。
どんなに貧しい国でも1人一台くらいは持っているのではないか。
『空間圧縮装置とは、その名の通り空間を圧縮するための装置である。空間というものは、上下左右に広がる空いている部分の存在を指し、我々はその空間という空いている部分に存在している。空間が無ければなにも生まれない。』
「なんか難しい話だな。俺にも理解出来んの?」
「さぁ……カイル次第かな。」
僕も初めて聞いた。空間圧縮装置とは何か、なんて追求する人はそうそういないだろう。
だいたいの役割と概要で十分だ。この装置が存在するからこうなる。これが分かれば万々歳。
『区切られた空間には限度が存在する。ある一室に置くことが出来る物体に制限があるのはそのためである。それは地球上においても同様である。しかし、我々は空間圧縮の技術を得た。つまり、区切られた空間を圧縮することによって限界を増やすことが可能になった。』
完全にカイルは話に夢中になっている。きっと理解できいるのだろう。そうでなければ夢中にはなれない。そして、同じ理由で空間圧縮に興味を持っているだろう。
まぁいいんだけど、カイルは当初の目的忘れてるのか……
『我々はその技術を活用し、建築物の空間を圧縮した。圧縮した空間は元より縮小される。故に、実際はその建築物に相応しないほど広い空間を圧縮し、建築物内に詰め込むことにより建築物内の空間を広くしたのである。そうすることにより一つ一つの建築物は小さくなった。』
「なるほど。すげーな。だから見た目がこんな小さな家にも空間を詰め込める………ん?だったらさ、地球上の空間を圧縮すりゃ、地球が広くなるんじゃね?」
『それは不可能である。空間圧縮は区切られた空間内でしか行うことはできない。空という開放的な空間では、空間圧縮を行ったとしても一部分が一時的に圧縮されるだけで、閉じ込めることは出来ない。圧縮した空間は軽い。上昇し宇宙空間の彼方でいずれ消える。』
へぇ……。そう言う理由だったのか。
「理解できた?」
「お陰様で。」
少しの沈黙。
あっ、とカイルは声を上げる。
「この空間圧縮の技術も日本のもの?」
多分そうだと思うけど…
『左様。』
「日本すげー。でも何で日本だけ?日本ッて何でこんなに科学力あんの?」
また質問か……
暇だよ。惑星の話はどこにいったんだよ。
ここはロイクに任せよう。
エリックはロイクにコンピューターとキーボードを展開させた。ロイクはコンピューターを展開しながらカイルに返答する。
『日本というのは他国と比べて学力が非常に高い。やればやるほど上がっていく。留まることを知らない。そのほかの人種に比べて知的である日本人を恐れた過去のアメリカは、日本人に勉強をあまりさせないような方針をとっていた。しかし、第三次世界大戦前に考えを変え、日本人を優秀な人種に育て上げ手を組むという方針をとったのである。それ故、それまでは歴史に名を残した発明家や学者の中に日本人はほぼいなかったが、それ以降は大半が日本人になった。』
「結局才能か……」
エリックも頭がいい方だ。科学のことも分かる。人間の文明発達はみていて楽しい。
カイルとロイクの話を聞き、エリックはふと日本の歴史をみたくなった。
だから、エリックは過去の映像をみることが可能なプログラムを起動する。
「確かに日本語は難しいッて聞いたことがあるし…。昔から優秀だったのか。」
『最近の日本はエリート意識が非常に強くなってきた。社会関係も重要性を増した。』
全く、どこまでしゃべるんだか。こういう時は確かにこの機能を無効にしたくなる。
『日本において上下関係というものは古来から非常に重要視されてきた。一時期、日本は周りに合わせる人間が多い、と言われる時代があった。確かにその当時は自分で決めるという大きな責任放棄したがる人間がたくさんいた。そして人任せな人間が多かった。しかし、今は違う。自分たちは世界一の脳を持つ人種だと言う事実が彼らの意識を変えた。いや、実際には昔からずっとそんな国ではない。』
次のロイクの意見で会話が終わる。
もう、ロイクの話し方には慣れている。締めくくりだ。この話題が終わったらカイルを催促しよう。
『日本とは、自分と違う考えのものを徹底的に排除する社会である。それ故、下の身分のものは排除されまいと上の人間に合わせることが多々あった時代があるのは間違いではない。しかし、視点を僅かに変更してみると自分の芯というものを絶対に曲げない強い意識を持った人種だと言える。そんなそもそもの意識や感性が日本人には生まれつき備わっているということが、後々優劣の差を付けることとなる。』
あれ?何かまだ続きそうな雰囲気じゃない?
「まぁそれも運命と偶然が重なり合った奇跡のような存在だよ。」
僕が言葉を放った。ここから一気に収束させないと。
『異議あり。運命というものは今のところ、誕生という出来事においてのみ相応しい言葉だと言える。それ以外は偶然の重なり合いだとみられる。偶然の集合体が必然であり、危機的状況を奪回するような偶然であれば奇跡となる。始まりだけは運命によって決まり、残りは偶然及び運命と奇跡によって世界の出来事は構成されていると言う見解が最も有力であり、私もその見解が正解に近いと感じている。』
逆効果だった。
もういい、知らない。
別に僕が惑星の状況を知りたい訳じゃないし。僕はやっぱりさっきの映像の続きを見よう。
エリックは諦めた。抱える悩みを放棄した。悩み事なんて放棄してしまえば、吹き飛ばしてしまえば、後に残る感情はとてもいいものだ。
「もう分からん……でもまぁいろいろありがとうな。ロイク。」
終わった……終わったよ。
何なんだよ!本当に人生なかなかうまくいかないな。この世界をワガママに自分中心に回した人間が勝ち、という言葉を耳にしたがそんな夢のような話が実現するはずないだろう。夢は夢。現実は現実だ。その間にある壁は厚く絶対といっていいほど越えられない壁だ。
「何してんの……ッて…えぇ!?」
カイルは耳元で声を張り上げる。
今頃来たって遅いよ。
僕がどれだけ待ってたか知らないくせに。
という感情を抱くが何となくカイルは悪くない気がする。悪いのはこんな感情を抱く僕の心な気がする。
そんなエリックの心情はカイルへの接し方にも影響が出る。
「何が?」
冷たくなってしまう。
「いやいやいや……これだって…ちょんまげ、刀…完全に侍じゃん!!しかもコイツみたことある。何だっけ……そうだ!織田!!織田信長じゃん!!」
正反対なカイル。
何?何でそんな感じなの?気付かないの?
所詮僕とカイルはネット友達。それだけの関係。それ以外は何もない。きっとそうだ。
そう思ったら嫌になった。何で僕はこんなことしてんの?どうして今までに一回しかあったことの無いアメリカ人を自分の家に入れてるの?
どうせ直ぐ終わってしまうのに。




