第二十四話 『平王』杵公
遅れましてすいません。
修学旅行気分が抜けないのか執筆が思うように進みませんでした。
スランプというのもなんですがペースが戻るまではもう一つの作品との交互更新はやめてこちらに専念します。
すこし雑なかんじもしますが
では本編どぞ
第二十四話 『平王』杵公
side カケル
あり得ない・・・こんなドラマチックな現実があってたまるもんか・・・こんな劇的なリアルがあってたまるものか・・・事実は小説よりも奇なりなんてことがあってたまるものか!!
ゲームにとらわれて勇者になって親友と再会してトラブルに巻き込まれる?冗談じゃない!!
そんな物語みたいなことがあってたまるか!
僕らは現実に生きてるんだぞ?・・・なんでこんなふざけた結末を迎えなくちゃならないんだ・・・なんでこんな・・・
「───破滅的な結果しか残らないんだ」
そんな呆然とした呟きは誰にも拾われず大気に飲まれていく
回りには誰もいない。岩場の一際大きな岩の影に隠れているのだ
時刻は僕達がゲートに飲み込まれてからはだいたい一時間たったぐらいだろう。つまりそろそろ日が暮れ始める頃だ。
戦闘は一時間もの間続いている
続いているのだ・・・今もまだ戦闘が終わる兆しは見られない。
終わりかけているといってもいいが少なくともそれは僕たちの望む終わりかたではない・・・恐らくは全滅。
すでにこれは戦闘ではない
今でこそまだ死者は出ていないがそれも時間の問題だろう。なんといっても今はお互い連携どころか攻撃のタイミングを合わせることすら困難なほどに散ってしまっている。
何より個人の戦闘力において異常な高さを誇るメンバーがここにはいない・・・つまりこの状況はとても最悪なものなのだ。
なにより杵公と名乗った敵が強すぎる。
最初固まって動いていた僕らを一方的に蹂躙することができるほどには圧倒的だ。
この地に降りてから最初の一撃ですでにこの有り様・・・パーティーは散り散りになり防御の上からの一撃でHPは危険域へ。
そこからも散らばった僕らを狩るように追い立ててきた。なんとか各自隠れたものの生きていられるのは奴が本気になって僕らを探しに来ていないことが大きい。
一応救援のメッセージをキラさんに送ったそうだが返事はまだ来てないそうだ。
回りに気を配らなければならない今中々連絡もとれない・・・まさに絶体絶命と言えるだろう
というかまず怪我人一人を抱えた三人パーティー、しかも装備の消耗も激しいというオマケ付き状態でどう勝てと?
それに不自然なこともある。
・・・このフィールド・・・いろんなものが入り交じりすぎている。
草原もあれば砂地もあり樹林があり岩場があり沼地があり川があり彼方には山まで見える・・・広すぎる上にこの狭い範囲でこの地形の変化具合・・・いくらゲームになれていない僕とはいえこれが不自然なことぐらいわかる。
なんでこんな歪で戦いにくいフィールドにしてあるのか・・・それが気になる。
わからないことが多すぎる。
僕らをここに落としたあの男といいこのステージといいここのボスといい・・・
でもクリア出来ないはずがないとアルフレッドさんは言っていた。
反対側のステージを同じように少人数でクリアすることができたならこちらもクリアできるはずなのだと・・・事実イーストウッドランドのゲートはキラさんと悠哉の二人でクリアしたとアルフレッドさんがいっていた・・・つまりこちらも出来ないはずはないのだ。
相性云々はおいておいたとしても少なくともこの人数このレベルで戦えないわけがない・・・なのにここまで一方的に追い詰められている理由はなんだ?
それに見会う理由がない限り現状の説明が出来やしない。
「───貴様の死に場はそこでよいのだな?」
血が凍る・・・まるで全身が窒素の風呂に浸ってしまったかのように硬直し全身に負荷をあたえる。
ただ注目されただけ・・・殺気を向けられたわけでもなくただ見られただけなのに全身から汗が吹き出ているように感じる。
「ほぅ、そうか。では我がこの一撃を貴様の死への手向けとしよう・・・自らの望んだ場で最高の贈り物と共に葬られるのだ。考えられる限り最高の死だとは思わんか?」
声は後ろから降るように聞こえる
いつの間に・・・
奴が戟を持ち上げ構える切っ先は揺るぎなく天を突く
支える片手が真正面に向かって振り下ろされると同時に天を向いていた穂先は獲物を僕へと変えて襲いかかる
「───っ!!」
もちろん勝てる道は見えないがそれでもおとなしくやられてやるわけにはいかない
当たり前の話だが精一杯の抵抗はする。
振り向き様に当てることなど考えずにただ力のままに振るった剣がボスの戟を捉える
当たり前だが相手を見ずにてきとうに振るったとはいえボスが居たのは僕の真後ろだ。だいたいで振るっても当たる距離・・・戟との衝突でダメージは与えられなかったものの全力で振るったからか鍔競り合いに持ち込むことが出来た
さすがに拮抗を続けるのはステータス的に不可能というものだ。
もちろん僕に剣筋ずらすとかずらさせるとかいう技術はないし瞬発力で勝つことも出来ないだろう。
ならばこの場で僕が生き残る方法は1つしかない・・・
『回避』
剣を戟から外し相手の死角に飛び込むように避ける。
そのまま走りにくい岩場を抜けて草原地帯をかけるようにボスから離れるが・・・追いかけてこない?
まてまてなぜだ?
僕達が追い詰められている理由のもっとも大きなところがやつの万能性だった。
魔法こそ使わないものの攻撃させれば強く
走らせれば早く
耐えさせれば固く
潜ませれば巧く
その技術もさることながら純粋なステータス上の強さ・・・
やつはそのステータスの高さを誇示かのようになんでもやってみせた。
もちろん速度も僕より圧倒的に早かったはずだ
今ここで追いかけない理由なんかないはずだが・・・
何か引っ掛かる・・・というかありとあらゆることが引っ掛かりすぎて関係のないことまで引っ掛けているような・・・
とにかく隠れなくてはならない。
あいつに見つかる前にこの引っ掛かりの正体を突き止めなくては
───ザッ
地を踏む音・・・いつの間にか草原を抜け荒野に出たようだ
そして今の音は僕のものではない
「───いや逃がさんがな」
今度は寒気など感じる暇もなかった
強張りかけた全身の筋肉を無理矢理駆動させて前方に飛び込むように転がる。
自分のすぐ上を死が通過する感覚がする。
受け身をとりすぐさま起き上がる
───・・・なんで!!?
いったいなぜだ!?確かにあいつは止まってた。確かに振りきったはずなのに・・・そうじゃなかったとしてもならなんで始めから追いかけなかった?
・・・くそ・・・こんなこと考えてわかることじゃないか。情報が足りない
「存外しぶといな・・・それに羽虫のような鬱陶しさがある。これが貴様のようなものではなくもっと力のあるものなら楽しめたのだろうが・・・いや、どちらにせよこんな作業のようなものに愉悦を感じることなどできんな。まぁ精々足掻けとは言わん。寧ろ早く死ね。一刻も早く何よりも迅速に刹那の間に瞬きをする暇もなく死んでしまうがいい。」
なにやら達者な日本語で日本人にはとても理解のできそうにないことをいってのける・・・何様だよ以前の問題としてその戦闘中毒者のような大日本帝国時代の兵士のようなセリフはなんだ。───いやいやいやまさかね。気のせいだろう・・・だって・・・でも中身は人間だって・・・
ふぅ・・・と下らぬ考えを止めて剣を構え、今度こそ対峙する
一人で戦うのは無理な気もするがまぁこの際仕方のないことだと割り切る
まず第一に逃げられない。追い付かれることは確実な今逃げるというのは隙をさらすだけだ。
第二にアルフレッドさんもカズマさんも既に回復アイテムが切れつつある。
カズマさんなんて片腕がないなのだ。戦場にたたせるには少し危険というものだろう
なにも勝たなくともキラさんがメッセージに気づいてこちらにくるまで耐えればいいのだから盾もあってステータスも職業柄少し高めな僕が戦うのが一番だといえる
だがあくまでそれは理屈上の話
実際は片腕だろうが回復がなかろうが盾がなかろうがカズマさんの方が長く耐えるだろうしアルフレッドさんの方がまともに戦えるだろう。
逃げられないとわかっていても逃げたくなるし隙をさらしてでも対峙したくないとさえおもう。
こんな風に思ってしまうところが勇者らしくないのだろう。とことん役不足でとことん役者な僕だから、圧倒的に偽物で紛い物で贋作で擬きでしかない僕だから勇者なのだと思う。
実際の勇者なんてどうせ・・・僕みたいな人間でしかないのだろう。
英雄と勇者は違う。
英雄みたいな選ばれたものとは違い勇者は・・・選ばれたものにされるのだ。
勇者にふさわしく英雄には役不足な僕・・・勇者という理想をこんな否定的にしかとらえられない僕は誰よりも英雄を理想的に捉えている。
僕にとっての英雄とは悠哉そのもので僕の理想こそ悠哉なのだから当たり前だろう。
僕は英雄になりたかった。
ただただ選ばれたかった。誰にかはわからない。
ただ誰かに・・・何かに選ばれたかった
こんな僕を悠哉は肯定するだろう。
こんな僕を理想とするだろう
でもそれは・・・僕を『 』
死ねないのなら・・・殺すしかない
認められたいのなら・・・認めさせるしかない
『見られたい』のなら・・・『見せつけて』やるしかない!!
勇者なんてのは柄じゃないけれど・・・しかし望むというのなら見せてやろう。
勝つことはできなくとも・・・語り継がれる英雄譚の始まりとしてはちょうどいいだろう。
ただただ戦い続けてやる
殺し続けてやる
剣をもて
盾を構えろ
爪を研ぎ牙を剥け
勇者という仮面を被り
自分という殻を破り
ただ一心に敵を討て
悠哉が小さい頃にはまっていたゲームの主人公のセリフだったか
よく覚えている。いつもはあまりしゃべらなかった悠哉だが自分の好きなゲームの話のときだけは饒舌に語っていたのを覚えている。
僕は生き残って見せる。そのためにまずはあいつを殺す。僕に出来ないのなら他にも頼ろう・・・僕は勇者を全うして見せる
「ほぅ?なんだ少しはまともに構えられるんじゃないか・・・いや無意識か」
気がつけば剣を押し出した正眼の構えから盾を押し出した半身の構えになっている
いつのまに・・・盾・・・そうだ。
盾に意識を置く・・・守りを主眼に置いて戦う。
僕は一撃すらまともに繰り出すことが出来ない・・・なのに連撃とか絶対の一とか出来るわけがない・・・だったら守るしかない・・・まもってまもって見えた光をつかもう。
それが僕の戦いかたなのだろう。
相手と自分の力に差があるというのなら。
その力のすべてをどちらかに注ぎ込んで拮抗をとるしかない・・・僕の場合はそれが防御にするしかないというだけのはなしだ
今度こそ意識をもって盾を構え直し敵を見据える
敵は強大だ。
未だに見せぬ・・・もしくは正体の割れぬスペシャルスキルを持つだけでなくすべてに置いてこちらを圧倒するステータス。
技量こそ圧倒するには至らないまでも世界的に見ても十分に巧みであると断言できるだけの実力
さらには冷静に冷徹に冷血に敵を追い詰めるその立ち回りも自分達が奴に勝てないことを悟る一因となっている
戦うことが馬鹿馬鹿しくなり自分の行動の愚かさを嫌でも理解し挑むことがアホらしくなる差・・・それでも挑むのはアルフレッドさんの言葉を信じてるからだしカズマさんの経験に期待してるからだしキラさんの助けを待っているからだし僕自身が勇者になりきれることを望んでる。
「・・・負けっぱなしで終わると思うなよ」
よく見ろ・・・見えない速度じゃない。
集中すればできるはず
自分から攻撃する必要はない、単純な手数からして二倍なんだから落ち着いて対処すれば───
「勘違いをしているようだがそんなものは所詮些事にすぎん。自惚れるなよ若僧・・・敗北にまみれて死ぬがいい」
───速い!
ここまで集中してみても武器が霞む速度とは・・・
急いで盾を戟にあわせるがこんな間に合わせの防御みたいな体勢では攻撃を受け止めきれるわけがない
案の定僕は吹き飛ばされ──なかった
・・・え?
考える間もなく繰り出される戟の対処に思考を止められるがそれでも簡単なことだけを整理しておこう。
・・・こいつの一撃はこんなものではないはずだ。
それはこれまでの戦いからわかってる。
この盾もそこまですごい品ではない。まだ現段階ででるレアアイテムに少し劣るくらいという素晴らしい武器だがこれは戟止めたことの直接的な原因にはなり得ない
いくら今のように連撃を叩き込むからといってここまで威力の落ちるような腕はしていないはずだし特別僕の防御がうまいわけでもない。
ではなぜ奴の攻撃力が下がっているのか・・・つまりそれはごちゃごちゃとした理由なくこいつの攻撃力自体が下がっていると考えるのが一番自然な気がする。
だいたい僕たちのような現段階でのハイレベルプレイヤーを一方的に蹂躙できるようなボスに弱点や攻略法がないわけがない。
こいつにそれがあると判明しただけでももうけものだ。
何とかしてここを離脱してカズマさん達と連絡をとらねば。
いや、それよりもこの状況をできるだけ記憶するのが先か・・・条件を探るのだ。
より多くの情報を
より多くの光を掴むのだ
ようやく見えてきた敵の不自然なステータスの上下・・・先ほど僕が逃亡に繋げた時の打ち合いと今の打ち合いとの差はなんだ?
武器は変わらない。
素人の目なんか宛にならないが見る限りは構えも持ち方を振るい方も特に変わりはないと思う
魔法なんか見たことがないが悠哉が昔いってたようなエフェクトのようなものも見えない。
強いていうなら・・・やはり早さか?
武器を振るう時の速さが速くなっているような・・・最初岩場に現れた僕らを吹き飛ばしたときは不意打ちながら各々が防御することができるぐらいの速度であったのにたいしてこれは対処どころか認識すら難しそうな速度である。
その代わり僕一人吹き飛ばす程の力すらないし・・・ステータスを自在に割り振るスキル?
それなら今すぐ力にステータスを特化させるべきだ。
相手は確実に僕を殺そうとしているしそれをしないというのはそもそもそんなスキルではないということか今は使えないかの二択であるに違いない。
・・・というかそんなスキル僕ですらチート過ぎることがわかってしまう。
恐らくは違うスキル。
・・・だんだん読めてきた。
今とさっきまでとの違い・・・
そしてこのフィールドの不自然さ・・・
「・・・ここでは力が入りませんか?」
ボスは盾と戟のぶつかる音に掻き消されそうなほど小さく呟いた僕の言葉を鋭敏に聞き取りその仏頂面を初めて大きく驚きに変化させたあとその速度で過剰なまでに距離をとった。
そして僕はその様子を見て確信する
思わず口角をあげてしまったがまぁ今さら関係ないだろう
僕のニヤリとした顔をみて自らの失敗を悟ったのか驚きからその顔を少し怒りにかえながらもこちらに問いを投げ掛ける
「貴様・・・はかった───これは違うか。うむ、失礼した。愉悦を感じられないといったのは取り消そう。確かに少し腹立たしくはあるがこれも闘争のうちだ。腹をたてるのは筋違いか・・・素直に称賛を送ろう、よくぞ気がついた。だがなぜだ?なぜ気がついた。」
なぜ?なぜだって?
「───そんなの決まってる。確かにあなたはうまくやっていた。実際今の今まで演じる仮面がなかったら・・・憧れがなければとっくに心がおれていたと思う。それほどまでにあなたは強者を演じるのがうまかった。うますぎるよ・・・まるで本当に闘争のなかで生きてきたかのように感じる。それほどまでにあなたはすごかった。」
そうすごすぎた・・・演技もステータスも。ただ問題はそのすごさが演技だと割れてしまったことだ。
なぜ演じる必要があったのか必然僕の目はそちらに向いた
「あなたの強さは仮初めだから強さを演じる必要があった。僕としては・・・それをあなた本人が理解していたのが少し驚きでしたよ。だってそうでしょう?誰だって力を得れば・・・それが与えられたものであることを忘れて暴れてしまうものですよ。僕はゲームはやりませんけどそんな当たり前のことがわからない人間ではありませんから。
例外と言えばそうですね・・・与えられた力を力と見なせない程の規格外か・・・また別の本当の力を知っているのかですよね。傲りがないというのでしたらたぶんどちらかでしょう。
まぁ話を戻しますね?まぁあなたがその強者を演じなくてはならない程度のスキルならばそこまで絶対的な力を持ってるわけがないんです。
だからあの力はある意味とても限定的なものだと判断できます。」
「貴様ら───お前らに力を印象付けるための一撃が仇となったか。」
「えぇ、強者すぎたんですよ。もっと普通の強さでよかった。だからこそ演技に限界が来るんです。先ほど僕を追いかけて来なかったのが決定的ですね。先にあのスピードを見せつけられたあとにあんなことをされると誰でも疑問に思います。たとえそれまであなたの強さに目がいっていたとしても弱さの方に行ってしまうんですよ。」
「なるほど・・・だいたいわかったが普通すぎる発想だな。
そしてそのわりに強すぎる精神だ。歪・・・まさに歪。」
「・・・まぁとにかくあとは簡単ですよ。あなたの強さにタネがあるとわかったんだからあとはそのタネを探すだけです。ここでもあの一撃が目立ちますね。あの力と今の力の差。あまりにも大きすぎる違いです
「説明はもう結構だ、早く正体を暴いてやるといい」
──ようやくきましたか。」
ボスの後ろから聞こえてくる男の声。
驚いたボスが振り返った先にいるのは彫刻のような彫りの深い造形をした芸術品のような男。
そして隻腕というところと格好さえ除けばのどこにでもいそうな青年だった
「・・・なぜ?」
「そのなぜは『どうしてここに?』という意味か?なら答えは簡単だぜ?そいつの喋りは完璧に時間稼ぎだからな。」
再度驚愕に見開かれる眼
「あなたが距離をとってすぐに盾で隠しながら後ろ手に現在の座標を二人に送りました。さすがに文を打つほどの余裕はなかったのですけどそれくらいは察してくれるパーティーですから。」
「勿体ぶらずに早く教えろ。気になるのだから」
「アルフレッドに一票~、早いとこいっちまえって」
二人が急かしてくる。
あんまりこういうのはキャラじゃないけれど今の僕は勇者・・・こういう表に出るのも自分の仕事だと割り切り胸を張る
そして仰々しくも演出的にボスを切っ先で差し示しながら告げる
「いいでしょう・・・戟を振るえば僕らを紙切れのように吹き飛ばし、一歩踏み出せば風のように駆け、打ち込まれれば鋼のような硬度で対処し、敵を探せば千里を見通しているかのような精度で僕らを捕捉するその強さの正体ともなっているスキル・・・それは恐らく───」
僕はそこで区切ったわけではない。
普通に言い切ろうとしたのだ・・・だが言い切りきれなかった
『地形によって効果を変える恩恵を常時受け続けるスキル』
僕に被せるように・・・否僕から台詞を奪うように空から降ってくる声
全員がその内容よりも先に誰がどこからしゃべっているのかという疑問をもって空を仰ぎ見る
見えるのはどこまでも続く曇りない空。
・・・その青い下地にポツンと絵の具をこぼしたかのような黒い点・・・ゲートより転送されたときのエフェクト。
しかし・・・
「「「高い・・・」」」
そう、あまりにも高度が高すぎる。
当たり前だが高所落下というのもそれに合わせたダメージ計算がなされてダメージが発生する
あれでは着地と同時にHPが全損するのではないだろうか?
それとも案外助かるものなのだろうか
アルフレッドさんたちの反応から見てもそれはなさそうだが・・・というかどんな入り方をしたらあんな位置にゲートの出口が出来るのやら
謎の乱入を決めようとしている人物はすでにゲートから体を出して落下に入っている。
燃えるようなというよりかはただただその色の強さが目にいたいちょっと紫がかかった紅いクセのある髪。
静かながらも闘志を宿らせた同色の瞳に健康的に焼けた肌。
鍛えたあとのある引き締まった肢体を惜し気もなく晒すようにできた服を脚や腕とは違い余分なものが蓄えられた二つの双丘が押し上げている。
手にはここのボスと同じく戟を携えまっすぐにこちらへと向かって落ちてきていた。
その顔に恐れはなく能面のように表情を変えない。
等と冷静に分析してしまったが先程も述べた通り既に彼女は落下に入っている。
「───っ!?こんなことしてる場合じゃない!」
急いで落下の予測地点向けて駆け出す少し前になるが間に合わないこともない・・・しかし衝突で自分もダメージを負う可能性もある。
うまいこと止められなければそれだけで死が待ち受けるだろう。
──そこで空に異変が生じた。
いや実際異変が起きたのは空ではなくあの女性なのだが
僕は前を向いていたのでただただ空から降り注ぐ白い光をキレイだとしか認識できなかった。
釣られて空を仰げばそこには文字通りの天使がいた。
背から一対の鋼の翼を左右へと伸ばした芸術品のような美しさと戦士のような強さを兼ね備えた天使・・・
いや天使というよりあれは・・・戦乙女か
女が口を開き大気を震わせる
さながらそれは神からの啓示のようで・・・
「・・・それは本来私が受けとるはずだったもの。勝手に奪ったあげく我が物顔で使われるのは・・・とても腹が立つ」
・・・紛れもない死神からの死刑宣告だった
いやそれよりも・・・『本来私が受けとるはずだったもの』とはどういうことだ?
対象としているのは恐らくスキル・・・この場合で言うならばcrownのことだろう。
なぜ一介のプレイヤーであろう彼女がそれを受けとることになっている?
いやそれ以前に・・・
「なぜ貴様は俺のスキルを知っている?」
杵公が代わりに言ってくれたがまさにその通り・・・なぜ今来たばかりの彼女が僕たちがたった今看破したばかりのスキルの正体を知っている?
「私が受けとるはずだったもの・・・か。一応聞かれる前にいっとくけどミユウ達がクリアした森の王門と今俺たちがいるこの王門はβでは無かったからな。多分山と沼にもあるんだろうがそちらも同じだ。」
とそこで初めて女性がこちらに反応した。
「ミユウ?森の王門?・・・なるほど、理解した。お礼というわけではないが一応攻略を先導しているであろうあなた方に言っておく。始まりの町プロローグタウンの周辺ステージの王門はここを除いて既に存在していない。」
今とんでもないことを聞かされた気がするのだが・・・少し自分では理解が追い付かない。いかんせん今のところの攻略状況すらもまともに聞いていなかったのだからその上でそのようなことを言われてもという感じだ。
もっともアルフレッドさんやカズマさんは違ったようだが
「・・・どういうことだ。それ以前になぜそんな情報を知っている?」
「サービスは・・・おわり。もともとこの程度の相手にすら苦戦するあなた達は必要ない。」
必要ない?攻略に必要ないと言う意味か?
「ずいぶんとくだらない勘違い・・・攻略なんてのはあなた方が勝手にやってればいいこと。私はそんなものに興味はない。」
心を読んだ!?
「読んだのではなく観測している・・・っとこれ言ってはいけないことだった。忘れてほしい」
隣で唸り声が聞こえる。さすがにアルフレッドさんでも判断に困るらしい。
「・・・なるほど、少なくとも現段階で理解できることではないことだけ理解できた。その上でひとつききたい。その翼はなんだ?」
何を察した?何を理解した?その上でなぜ翼のことを聞く?
「・・・私以外にも適性がある人っていたんだ。キラキラ、マキナ、ミュウ・・・うん、いいよ。それだけの情報と引き換えならばお釣りが来るぐらい。この翼は北のボス【翼王】イケオスを倒したときにてに入ったcrownについてきたスペシャルスキルのうちのひとつ。MP消費の代わりに飛行することが可能。」
再び心を観測・・・読心したのか出ていない名前まで出てくる。僕も知らない名前があったが・・・というかそれよりも!
飛行可能なプレイヤー・・・それって遠距離攻撃がまだ少ない現段階において強すぎるんじゃ・・・いやそれ以前に空を飛んでいるボスを相手にしてどうやって勝利をおさめたんだ!?
「ちなみにこれはサービスだけど・・・地形を利用する【平王】相手には・・・絶対的な力を発揮するスキルのうちのひとつ。お互いがお互いを殺し会える四方を治める四つのcrown・・・【隠王】【翼王】【沈王】【平王】・・・プロローグタウン周辺にゲートがないのはすでに私がこの内の2つたる【翼王】のcrownと【沈王】のcrownを回収したからに他ならない。そしてミュウとやらが【隠王】を回収したのならばすでに残るはここのみ。・・・つまり私のターゲットはあなたで最後」
言い切ると同時に手に持つ戟の鋒を杵公へ向けて攻撃体制にはいる
「アルフレッド、どう思う?」
「あの背の翼を見るにボスを倒したと言うのに嘘偽りはないだろう。単騎で倒したにしろ複数人で挑んだにしろそんな人間が助けに来てくれたのから心強くはある。・・・だが味方とは限らない。」
「その点は大丈夫そうに見えるけどな。こっちには興味なしだ」
「これから死に逝く存在を歯牙にかけていないだけかもしれんぞ?」
「そりゃねぇな。なら快楽的犯人じゃない限りは中途半端に絡むこともねぇだろうしなによりあいつ自身目的意識に燃えている。あーゆー奴が余計なことをすることは滅多にないだろ」
僕には最初理解が追い付かなかったが二人はあの闖入者の話をしているらしい
しかし話が終わる前に舞台は動き出す
今までお互いに相手の手を読んでいるのか警戒しているのか膠着状態を守っていた二人が衝突したのだ
仕掛けたのは空中というフィールドを自在に利用できる闖入者
唐突な加速と共に地で待ち構える杵公に突撃する
掬い上げるように下から長いリーチを誇る戟をふるう闖入者にたいして半身に構えて通りすがりに撃ち落とすカウンターの構えにはいる杵公
案の定軌道の読まれていた戟が空を切りお返しと言わんばかりに打ち出された戟の柄が速度を落とせない闖入者の顔面目掛けて迫る。
しかしその攻撃も空を切ったはずの戟を器用に手元で回転させて同じく柄で弾く
攻撃はそこで止まらず再び接着状態から横方向への急加速を開始する。
翼の動きから辛うじて目で追えているが相対している本人からは相手の姿が邪魔になって軌道の予測すら不可能だろう。
零距離からの強烈なタックルに吹き飛ばされ荒野から砂漠へと突入する
闖入者は圧倒的だった
もともと荒野では速さ以外の上昇がないボスに対して普通じゃ相対することができない空という領域にいる闖入者。
速さに任せて跳躍するのもありだがそれはつまり自身の強みを自ら放棄することと同じだ。
つまり単独でボスと戦闘できるものが空という領域を得た今・・・杵公に勝ち目はない。
確かにお互いがお互いを殺せるとはよくいったものだ。
単に殺すのではなくお互いの強みを殺す・・・自分の土俵が自然と相手の土俵と真逆になっているのか。
空の敵に対してカウンター以外の選択を取れない杵公にたいして自分の好きなタイミングで好きなように好き放題攻撃できる闖入者は確かに天敵だった
「やってくれるな乱入者よ。人の戦いに水を指すだけに納まらずよもや俺の世界を荒らすとは───」
砂漠という踏ん張りにくい地形ながらも危なげなく立ち上がった杵公のHPはあまり減っていない。
砂漠はたしか・・・耐久力の上昇だったか。
これなら確かにカウンターにはもってこいの上昇値だが踏ん張れないんじゃ意味が無い気が
「───殺す」
・・・なんだこれは?
「・・・カズマ・・・奴は何をしている?」
「見たまんまだよ大将。前傾姿勢・・・突撃のかまえだ、これはゲームでも現実でもかわらねーよ」
そう、踏ん張りのきかない砂漠の上であろうことか空の相手にたいして突撃の構え・・・俗に言うクラウチングスタートのような姿勢をとる杵公
「いったい何をするつもり───」
アルフレッドさんの僕らの疑問を代弁する声は途中で被せられた
「見苦しいから悪あがきはやめたほうがいい。私はあなた以上にそのスキル──crownを理解している。先程言った通り四方のcrownはお互いを殺し会えるスキル・・・もちろん【平王】にも【翼王】を殺しうるスキルはある。今存在する地形によってバッドステータスを付与するスキル・・・【転地矛揺】。空中の敵に対しては混乱と基礎ステータスの低下。そのスキルを当てるために私の動きを止める目的でそんな奇想天外摩訶不思議な姿勢をとっているのはわかっている。もちろんそのスキルの有効範囲───自身の武器のダメージ判定発生場所より一センチということも知っている。」
疑問は解消されたが少しドン引きするレベルの発言がでてきた
というか表情何一つ変えずにやってることはえぐい・・・相手が必死に考えた策を披露する前から潰す・・・あれなんだろう?デジャブというか僕の友達にもあんなのがいた気がするぞ
脳内を光の速さで憎たらしい笑顔が過ったところで唐突に全身に寒気が走る
・・・もうこの事を考えるのはやめよう。町にかえれたとしてもなぜか町で殺される気がする
「───このcrownが貴様のものというのはあながち妄言というわけでは無いのかもしれんな。どういうことかは知らんがお前は確かにプレイヤーとしては異質だ。なにより・・・戦い慣れすぎだろう。」
戦い慣れすぎ?
「確かに強いとは思いますけど今さらそれがどうしたって・・・」
「カケル、そんなに不思議なことか?例えばのはなし・・・眼前に突然現れた凶器に目を閉じることもせず眉ひとつ動かさずにあんな長物で対処出来るような人間がどれだけいるよ?うちにも実家が道場とかで長物の扱いに長けた奴がいるがそんなレベルの話してねぇぞ?これは本当の死が待ってるゲームだ。リセットもロードもセーブもゲームオーバーすらない。そんな中でお前は・・・目を開いてられるのか?目の前の巨大な存在を前に冷静に自分の知識を発揮出来るのか?」
・・・確かにそれは否だ
出来るわけがない。僕は所詮普通の高校生でしかないんだから
「つまりはそういうこった。確かにあれは異常だ、あいつ自身もいってたけど完璧にキラ側の人間だなこりゃ」
先程様々な武勇を聞かせられたキラさん。
そしてその武勇に真っ向から対処した悠哉。
常人より多少ながら優遇された装備とステータスをもってしても防戦一方になるほどの相手を一方的にいたぶるだけでなく他に同種の相手を二人も倒してきた闖入者
なるほど、それは確かに英雄の領域だ。
「戦い慣れているというのは少し違う・・・これが・・・これが普通。」
・・・到底僕には届きそうにない
「いやはやふざけたことを抜かすものだな。どこが普通なのやら・・・まぁいい。いくら空を飛ぼうがスキルが通用しなかろうが・・・未だに貴様が私に与えたダメージは不意討ちの一回だけ・・・負ける気はない」
と強い意思・・・いや闘志を剥き出しにして空より自らを見下ろす敵を睨む
しかし対する相手の反応はそれに似つかわしいものではなく、それどころか対極といっていいものだった
「───?つくづく検討外れのことを言う。」
「なに?」
疑問は当然だろう。まだ彼女が入ってきてからはお互い一手ずつしか打ち合っていない・・・何が検討外れなのか
「この期に及んでまだ次があると思っているのならばあなたは・・・初めから舞台に昇る資格すらない。」
「・・・・・・は?」
今度は疑問ではなかった。
というかアルフレッドさんまでもが同じような顔をしている。理解の追い付かないときの呆けた顔
「【翼王】が相手のフィールドで戦わないことなら【隠王】は初めから戦わないことを対処法としている。残った【沈王】は・・・そもそも|フィールドを変えてしまう《・・・・・・・・・》という対処をとる。」
なにやら衝撃的なことを呟いたと同時に彼女の背にはえていた一対の翼が消滅し落下を開始する。
といっても前の激突で高度は下がっていたためにとくにダメージらしいものは無いようだが・・・
「何故【平王】のことを知る私がカウンターのしやすくなるステータスを与えるように砂漠へあなたを飛ばしたのだと思う?」
そこでようやく気がついた。
それもそうなのだ。
攻撃のタイミングが自分で選べる彼女がその初撃という利点をあんなにも分かりやすい一撃で潰したのは何故か?
なぜステータス上昇の条件もしってるであろう彼女があからさまカウンター狙いの相手を助けるように耐久値が上がるような砂漠へと吹き飛ばしたのか。
違うのだ
攻撃のタイミングを選んだのを隠すために初撃を潰し、相手が逃げられないように速度が落ち、さらに走りにくい砂漠に飛ばしたことを悟られぬように相手の狙いに乗ったのだ。
「───ま・・・さか!!」
「そこではあなたも逃げられない。様々なフィールドがある、それは結構。でも様々なフィールドがあるということは相手がそれを利用する可能性もあるということ・・・フィールドが必ずしも味方になるとは・・・限らない」
着地と同時に何らかのスキルを発動させて砂漠全体に光の波が走る
変化は一瞬だった
しかし見逃しようがないほどの大きな変化・・・『流砂』
砂漠で突如襲う自然の驚異。
大部分が粒子で構成された砂漠だからこそ起きる自然災害のうちの一つ。
その驚異は自然の動物までもが利用する方法でアリジゴクという名をつけられたその虫はまさに蟻にとっての地獄。規模こそ小さいものの流砂を作りそこにはまった小さな虫を喰らうのだ。
空を飛べない蟻だからこその恐怖
空を飛ぶことのできない蟻が空まで飛ぶことを可能にしたアリジゴクに勝てる可能性は・・・おそらく万に一つもない。
そのガタイの良さがあだとなったか残りのHP等関係なくボスが流砂に一瞬で飲まれたことですぐ近くにゲートが出現する
人が目の前で死んだというのにどこか現実味の無い・・・僕らを圧倒したボスのそれはあまりにもあっけの無い最期だった
僕らはついぞ言葉を発することもなく、身を捩らせることすらできずにゲートから出ていく赤髪の女性を・・・いや圧倒的な存在たる王の姿を止めることすらできずにただただ眺めて見送った
カケル・・・意図的に口調をmiyuuに似せている。 回りからの好評かにも関わらず自身を卑下しておりなにかとmiyuuを引き合いに出しては脳内で「やっぱり悠哉はすごい!」と勝手に結論付けている。
そういうところはmiyuuとにているがその後の方針が「自身にできることをする」するやや現実的なmiyuuにたいして「悠哉の言いそうな(やりそうな)ことをする」という理想像に頼った依存的なものになりがち。最初っから早熟系万能チートな魔王にたいしてこちらは何かに特化させる大器晩成型一点特化チートとなっている
四方の王・・・謎の乱入者が口にした固有名詞。プロローグタウンの四方のフィールドに一つずつ存在するゲートのボスを指すようだがなぜそれを乱入者が知っているかは謎。東はぶちギレたmiyuuに瞬殺、北と南は描写すらなく西も戦闘の半分というかカズマ達が圧倒的だと感じるシーンのほとんどをカットされたあげく呆気なく殺された。
名前のわりには基本残念な結末を迎える不完全燃焼極まりない役回りを果たした四人の王たち。・・・ちなみにこうなったのは行き当たりばったりで前のことも大まかにしか決めていないで筆を進めちゃう作者のせいだったりする。
本当は北のボスにたいしてのキラの大立回りや南のボスにたいしてのアルフレッドの奇策やカズマの経験が炸裂!!みたいなことをしたかったのに・・・なんてことがあったりする
当たり前ながら今回を逃した以上しばらくはアルフレッドやカズマの活躍は個別の強さが確定するまでは目立つことはない。
謎の乱入者・・・文字通り謎の乱入者。カケルの見せ場を奪いさぁいまからが本番だという空気を飲み込んで現れたちょっと不思議な感じの赤髪をした女性。口数を少なめにしようと思ったらしゃべらせ過ぎた災難。miyuuクラスとはいかないまでも北南西の王を実質一人で倒す実力は本物。
なにやらこのゲームの秘密を知っている様子で個人ではチートと言えないながらも十分に才気溢れる三人を無視してmiyuuやキラやマキナに興味を向ける。miyuuが彼女を見たときにすごいと評するのかずれていると表するのかはわからないがカクジツニどちらかの評価は受けるであろうじんぶつ
ちなみにこの作品で出てくるチートキャラは基本なにかに特化してるタイプの人間です
慣れとステータスのみで突貫しているmiyuu君も
カズマの口からなにやらとんでもないことを言われていたキラも上記の乱入者も皆同じように何かに特化しています。分かりやすいかもしれませんがついでにどんなことに特化しているのか考えてみるのもいいかもしれないです←後付け
ではまた次回。