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体の漢字

作者: 零円

童話と言うより児童書である。

目。耳。鼻。口。手。足。


一部の例外はありますが、基本的に小学一年生で習う漢字であります。


そして今日。小学校に入ったばかりのその少年も、学校で漢字を習いました。


そんな少年は現在、鏡を見て、自分の体を見降ろし、再び鏡を見て。飽きることなくその動作を繰り返しております。


何をやっているのだろうと不思議に思った母親が、息子に尋ねました。


「何をやっているの?」


尋ねて来た母親に、少年はランドセルの中からノートを取り出しました。


見開かれたページには、子供らしく大きな、しかしどこか雑な字で、一行ずつそれぞれ漢字の練習がしてありました。


「あら。今日習った漢字?」


「うん。体についての漢字。ちゃんと全部書ける様になったよ」


「凄いわね。それで?この漢字と、鏡を見てた事と何か関係があるの?」


「うん。……お母さん」


「何?」


「目と耳とお鼻と口と手と足。どれが一番偉いの?」


「……」


当然、答えを持ち合わせていなかった母親は、その場をはぐらかしてしまいました。




その日の夜。一家全員が寝静まった室内に、声が響きます。


「でも実際、僕達の中で誰が一番偉いんだろうね?」


声の元は……少年のノートでありました。


入学祝に買って貰った机の上に置かれたノートのページが一人でに開くと、其処から起き上がる奇妙な生き物。近くで見れば、それは少年の書いた『耳』と言う文字でした。


「まあ、実際一番偉いのは僕だけどね。なんて言ったって、一番上にあるんだから」


そう言ったのは『目』です。


起き上がりながら目は自信満々に言います。


「それに僕が居なかったら何も見えない。なら、僕が偉いのは当然じゃないか」


「ちょっと待ってよ」


その声につられる様に『口』と言う漢字も起き上がりました。


「僕がいなければ話せないんだよ?それに食べ物も食べれない。僕が居なくちゃ、生きていけないじゃないか。だから当然、僕が一番偉いんだよ」


「それは聞き捨てなら無いよ」


次に起きたのは『手』でした。


「僕が居るから、口である君は上手く食べる事が出来るんだ。それに君が居なくても、僕が居れば文字が書ける。話そうと思えば、それで話せるよ。だから僕が一番偉い」


その言葉を許せなかったのは目です。


「ちょっと待ってよ。そうは言うけど、そもそも僕が居なかったら食べ物も食べることだってままならない筈だろ?それに、君が文字を書いても、僕がいなければ伝わらない。ほら、やっぱり僕が一番偉いじゃないか」


「だけど僕がいなかったら――」


「だからそれを言うなら僕が――」


「それなら僕だってそうだよ――」


目の言葉に半端するように口。そして耳。最後にまた目。


三すくみの様に口論を続ける三者を見つめるのは一番に起き上がった耳でした。


しかし止める事は出来ません。自分には彼らの様に色々出来ると言う訳ではない事を、自覚していたからでした。


(僕は聞く事しか出来ない。僕が無くても死なないし、僕が居ても言葉は通じない)


それでも三者の喧嘩を止める必要があると思った耳は、自分同様に口論に参加していなかった『足』へと助けを求めました。


「ねえ、足君。お願いだからあの喧嘩を止めてよ」


「そうは言っても……」


足が起き上がりながら耳に返します。


「僕だって、体を支える位しか出来ないよ。歩いたり走ったりもできるけど」


「十分じゃないか。僕は聞く事しか出来ないんだよ?」




「別に誰が偉いとか、無いと思うよ?」


口論を続ける目と口と手。喧嘩を止めるようにとお互いに押し付けある足と耳。


そんな五者の間に新たな声が響きます。


誰だろうかと全員が辺りを見渡すと、ノートの傍らに置かれていた漢字ドリルが開き、其処から『鼻』という漢字が出てきました。


「いいじゃないか。誰が偉いとか、関係無いよ」


「何言っているんだ。僕が一番に決まってるだろ!」


「君じゃない。僕だよ!」


「いや、僕だ!」


仲裁する様に現れた鼻でしたが、目と口と手はその言葉に聞く耳を持たず、口論を再開してしまいました。


溜息をつく鼻。そんな中、もぞもぞとベッドの上で眠っていた少年が体を動かしました。


慌てて漢字達は本来自分の居るべき場所へと戻ります。


やがて少年は体を起こすと寝ぼけ眼で辺りを見渡しました。首を傾げ、それから奇妙な匂いに気がつくと、部屋を出て両親の寝室へと向かいました。


「お母さん、お母さん」


眠っている母親を揺すりながら声をかけて起こします。


やがて母親は完全に目を覚ますと、息子の頭を撫でながら「どうしたの?」と尋ねました。


「何か、変な臭いがするよ?」


「変な臭い?」


息子の言葉を聞き、母親が匂いを嗅いでみますと、確かに異臭がしました。


その匂いに心当たりのあった母親は、急いで体を起こすと階下へ。


キッチンに入ると、その匂いの原因であったガスの元栓を慌てて閉めます。


それから大急ぎで換気扇を回し、家中の窓を開けて換気をしました。


やがて異臭は完全に消え、母親は一息つくと、母親を追って階下へ降りて来ていた息子を抱えあげました。


「ありがとうね。お陰で助かっちゃった」


「……?うん」


訳が分からない少年でしたが、母親に褒められて悪い気はせず、素直に頷いて返します。


そしてその様子を陰から見守るのは、先程口論をしていた漢字達です。


「ね?誰が一番偉いとかじゃないと思うよ。


耳が居たから、あの子は僕達の声を聞いて、目を覚ました。


鼻が居たから、変な臭いに気が付いた。


目が居たから、あの暗い廊下を危なげなく進めたし、


足が居たから、あの子は親の寝室へ辿り着いた。


手が居たから、母親を起こせたし、


口が居たから、変な臭いがする事を親へと伝えられたんだから。


だからもう変な口論しないでね。今まで通り、助け合っていこう?」


「……うん。ごめんね、口、手」


「いや、僕こそごめんね。目、手」


「僕だって。ごめん」


一番口論していた目と手、口がそれぞれに謝り、安堵した耳と足。


そんな五者に「戻ろうか」と鼻が告げ、五者はノートへと戻って行きました。


唯一残った鼻は、母親に抱えられている息子の方へと目を移します。


「早く大きくなって、僕の事も書けるようになってね」


何処か寂しげにそう告げた鼻は、唯一ノートではなくドリルへと戻って行きましたとさ。


ジャスト2500字に収めた本編。ごまだれです。


この作品では体の部位で特別偉い所は無い(もっと細かい仕事とか、心臓とか脳とか言い出したら、キリが無いです)という結論にしました。童話っぽく。


最初は寝ている少年の各部位が喧嘩する予定でしたが、想像したら気持ち悪かったので止めました。




一応裏のテーマの様な物は助け合いとかそんな感じにしました。


かなり身近な助け合いで考えて、体の部位というかそれが出てきて、今回はそこから。一時間ほどで書いたものなので、出来がいつも以上にあれですが。もうちょっと書いても良かったかもですね。



では久しぶりに。


ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


この時間が貴方にとって、少しでも有意義であったら嬉しいです。


今回はここまで。ごまだれでした。



久し振りだからちょっと違うな。

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