~第7話 日常の終わり(3)~
お待たせしました。
もう少ししたら、色々と話が進んでいくかと思います。
頑張って更新していきますので、これからもよろしくお願い致します。
では、どうぞ。
「ちょうどよかった、二人とアリエスさんに話がある」
「なにかあったの?」
これほど、父上が神妙な面持ちで話しかけている事は珍しい。
普段は堅物な父上だが、それでもここまでほどではない。
「昨日、アリエスさんを襲った魔物についてなのだが、村長と話した結果、この村から調査団を出すことにした」
「「え?」」
俺とアリエスさんが示し合わせたかのように同じタイミングで声を上げてしまった。
更に、エリアスさんが先ほどの父上の発言に対して大声を叫んで反対した。
「し、しかし、一般人では危険過ぎます!」
「……ッ!」
余りの大声にシャルがビックリしてしまったようだ。
「大丈夫ですよ。調査団には私達夫婦が一緒ですし、そもそも調査を前提としていますので、極力無用な戦闘は避けるつもりです」
「で、でしたら、私も一緒に…!」
「いえ、あなたは一応けが人ですよ? そのような方は流石に連れていけませんよ」
父上がアリエスを冷たく(まぁ彼女の体調を思えば当たり前だが)拒絶した。
「し、しかし……」
それでも納得できないでいるアリエスさんだったが、流石に父上たちの次の言葉に渋々納得したのだ。
「大丈夫です。我々夫婦も引退はしましたが、そこそこ有名な冒険者だったんですよ」
「そうよぉ。私達夫婦は元A級冒険者だったのよ」
「「え?」」
再び、俺とアリエスさんが示し合わせたかのように同じタイミングで声を上げてしまった。
「A級冒険者ですか!? ジョセフ……、エリオナール……。ま、まさか《劇薬の魔術師》と《守護の歌姫》と呼ばれていたジョセフ殿とエリオナール様ですか!?」
な、なんだってー。
……って、それがどれだけ凄いことなのか、よくわからないんだが。
と言うか、さっきの二つ名だよな? とても厨二っぽいのだが。まさかそんな名前で呼ばれてなんて……。
「まぁそんな名前で呼ばれていたこともあったな」
「えぇ。懐かしいわね」
ホ、ホントに呼ばれてたのか……。
「数年前に引退されてから、行方がわからなくなったと世間では噂されていましたが……。まさかこのような場所で暮らしていらっしゃったのですか」
「まぁ別に行方をくらましたつもりはないのだがね」
「そうね。世間からくらませたと言うよりは、おじい様から姿をくらましたのよね」
「エ、エリナ……」
「な、なるほど……」
何か三人の中で納得しているようなんだが、全くわからない。
しかも、父上がかなり沈んでしまっている気がする。
「ち、父上。話がそれてます……」
「おっと、すまない」
流石にこれ以上脱線するのもマズイと思うし、一応方向転換を試みる。
「アリエスさん」
「は、はい!」
先程から、急に緊張しているように見えるアリエスさんが声を上ずりながらも返事をした。
「あって間もないのに、このようなお願をするのはとても心苦しいのですが、私たちが留守の間、子供たちをお願いできないでしょうか?」
「し、しかし、自分で言うのも変ですが、私のような素性が分らないものに、そのような頼みをするのはどうなんでしょうか?」
うん。至極当然の答えだよねぇ。普通あって間もない人に自分の子供を預けるなんて普通の人では考えられないよね。
まぁ人のよさそうな人だから、恐らく問題ないだろう。
それに、十中八九俺が本気を出せば、勝てなくても引き分けくらいには持ち込む事は出来るだろう。
「その辺は大丈夫よ。だって、あのギルドマスターの娘さんなんだもの」
「ッ!」
母上のその一言に彼女に電流が走った。
「な、なるほど。そこまでお見通しでしたか。まぁこちらとしても隠すつもりはありませんでしたが、あの父ですからね。無用な混乱を避けるために普段から名乗らないようにしていただけですしね」
彼女の父親は何かあるのだろうか? ギルドマスターと言っていたけど、どのような人物なのだろう。
そんなことを俺が考えている間に、話がまとまり出していた。
「分りました。お子さんの事は私が責任を持ってお預かりいたしましょう」
うむ。俺が話が分らないままに、色々話が決まってしまっているな。
しかし、魔物の調査についてだが、大丈夫なのだろうか?
そもそも、調査なども普通は冒険者などがやったりしないのだろうか?
俺の中での疑問が募るばかりで、一向に解決しなかったので、父上に聞いてみることにした。
「父上」
「なんだい? レクサ?」
「父上たちと村の人だけで調査を行うのって危険がないの? そもそもそういった事をするのが冒険者じゃないの?」
「ふむ。まぁ絶対に危険がないと言えば、ウソになるだろうな。それに確かに本来ならば冒険者が行うことだとは思う」
「だったら……!」
俺の言葉を遮るように父上が話を続ける。
「だがな、レクサ。そもそもこのような自給自足で成り立っている村ではお金があまりないのだよ。調査するにも冒険者への報酬としてお金がかかる。それに討伐するのもそうだ。ならば、調査くらいならこちらでやってしまった方が安上がりだろう?」
「そう、だけど……」
確かにそれは正論だと思う。所詮世の中はお金がすべて、とまでは言わなくてもお金が無いと儘ならないのは何処に行っても変わらないものだろう。
「まぁ大丈夫だ。私達夫婦もそう簡単に殺られはせんよ。それに、余程のことがない限りは戦闘はせんよ」
「そうよ。レクサは心配性なのねぇ」
「う、うん……」
父上たちが言っていることはもっともなことだろう。そもそも、調査に留めるとまで明言しているわけだし、元A級冒険者がどれほど凄いことなのかわからないが、少なくともアリエスさんが驚くほどなのだ。きっと問題はないのだろう。
ただ、なんなのだろう。この言い表すことが出来ない、胸騒ぎは。
「父上……、母上……、どこかにいっちゃうの?」
俺の不安に当てられたのだろうか、話についていけなかったシャルが、不安そうに二人に問いかけた。
「あぁ、シャル。私たちは1日ほど家を空ける。村の人たちのためになることだからな。いい子にして待っていてくれ」
「シャルちゃん。レクサと一緒にいい子に待ってるのよ? アリエスさんも一緒にいてくれるそうだからね」
「……うん。わかった」
まぁ流石に急に両親がいなくなってしまうと不安になるだろうな。
シャルを不安にさせてどうするんだよ、俺。
よし、ここは兄が安心をさせてやらないとな。
「シャル。兄ちゃんと一緒に父上、母上の帰りを待っていような?」
俺は優しくシャルの頭を撫でながら、シャルの不安を取り除いた。
「…うん!」
俺の言葉に少しは安心することができたのか、笑顔を取り戻してくれた。
「まぁそういう訳だが、レクサ。1日ほど家を留守にする。その間、申し訳ないがシャルを頼んむぞ」
「あら。レクサは、いい子だからちゃんと留守番出来るわよ。ね、レクサ?」
「わかったよ。父上、母上」
母上の言葉に若干苦笑しながらも、俺はその言葉にうなずいた。
「それで、父上。出発はいつになるの?」
「あぁ。そうだな。出発は明日の早朝だな。まぁ準備などをしないといけないから、これから作業になるだろうが」
「私も武具の点検をしないといけないわねぇ」
なるほど。最悪魔物に遭遇してしまった場合は、戦闘になるだろう。
その場合に武具や道具が使えなかったら大変だもんな。
先程からシャルが何かソワソワしながら、二人を見ていた。
恐らく、明日両親が出かけてしまうことが不安なのだろう。
まぁそうだよね。
まだまだ、親から離れられない歳だし、1日でも一緒じゃない時間があると不安になっても仕方ないだろう。
よし。
「じゃあ、何か僕達が手伝うことはあるかな?」
「ふむ。そうだなぁ。特に無い「もぅ、ジョゼ」と……、ん?」
俺の華麗なるパスを完全にスルーしそうになった父上だったが、母上がとっさにフォローを入れてくれた。
「あぁ、なるほど。そういうことか」
流石の父上も理解したようだ。
「ふむ、そうだな。では、裏山に生えている薬草でも一緒に取りに行くか?」
「そうね。良かったわね、シャル」
「……はい!」
うん、うん。シャルはやっぱり笑顔が一番だよねぇ。
「じゃあ、アリエスさんの看病は私がするから、親子水入らずで行ってきていいわよ」
「わかった。じゃあ薬草を摘み終わったら、戻ってくる。二人共行くぞ」
「はい」
「うん」
こうして、母上とアリエスさんを残して、俺たちは裏山に薬草を摘みにでかけた。
まぁ特に語ることとも無く無事に薬草を摘んで日が暮れる前に帰路についた。ただ、少し裏山の雰囲気がおかしかったようなきがする。こう、なんというか、あまりにも静かすぎるのだ。
普段なら、動物の声や小鳥のさえずりが聞こえてきてもおかしくないのだが、まるで森の中に死そのものが充満してしまっているのかのように、静寂に包まれていたのは、少々怖かったな。
まぁシャルは全く気が付かなかったようだし、父上と一緒に薬草を摘みに出かけれただけで、嬉しそうだったみたいでよかった。
家に着いた父上は、早速摘んできた薬草を精製して、薬品に調合すると言って診療所にこもってしまった。
俺たちは特にすることもなかったので、母上のところに行って夕食の準備をした。
今日の食事は、アリエスさんも交えてちょっとだけ豪華な食卓になった。
まぁ普段食べることができないような、ご馳走が出たときは、俺もシャルもちょっとテンションが上がってしまったんだけど、それは仕方ないことだと思う。
そして、明日が早いこともあり、俺ら家族は早めに就寝することにした。
翌日、日が出て間もない時間に両親は村の有志の調査隊と共に森へと出かけた。