~第13話 告白(2)~
もふもふ、もふもふ、もふもふもふもふ。
未だ、レクサから衝撃の事実を突きつけられた三人は、まだこちらの世界に戻ってこれていない。
そんな三人を尻目に、カーバンクルの毛並みに癒されるレクサ。
そこへ、今まで空気を読んでいたのか、話すことをしていなかったシャルがレクサに声を掛ける。
「ねぇ、にーにぃ。……もふもふ、触っても、いい?」
「ん? シャル、カーバンクルに触りたいのか?」
レクサの問いかけに、首を縦に振って肯定するシャル。
「そうか、ちょっと待ってろよ」
そう言って、レクサは自身に抱えられているままのカーバンクルに問いかける。
「なぁ、妹がお前を触りたいんだって。触らせてやっても良いかな?」
――キュゥ? キュイ、キュイ!!――
「……ん、そっか。シャル、カーバンクル触っても良いってよ」
カーバンクルから許可が下り、恐る恐るといった具合にシャルは手を伸ばし、カーバンクルを撫でた。
「……わぁ、もふもふ……」
カーバンクルに触ることができとても嬉しそうに笑っている。まるで、この場が春の木漏れ日を受けて輝くお花畑のようだった。
うぉ!! 超かわいい! 良い笑顔だ。この場にカメラが無い事が非常に残念でならんわ!!
「……ふふっ……」
うおぉぉ!!!
さらに超かわいい! 滅多に見ることが出来ない、シャルの笑顔だよ!! と、とりあえず脳内HDDに永久保存しないとな!!
「レ……サ、……レクサ!!」
「……っは! はい!? 何でしょうか!!」
父、ジョセフに大きな声で呼びかけられ、自分の世界へ旅立っていたレクサは意識を取り戻した。
「大丈夫なのか!? 先ほどから声を掛けても、まったく返事が無くて……。まだどこか調子が悪いのか?」
「い、いえ! 大丈夫です。少し考え事をしていただけですので」
あ、あぶねー。まさか、妹でトリップしてました、なんて言えるか。一応家族には出来る兄で通してたんだ。流石に居なくなる人間だけど、印象を悪くする必要な無いよね。
「そうか……。まぁこちらも余りの内容に少し取り乱してしまったからな。お互い様だな」
自分が取り乱したのが恥ずかしいのか、鼻の頭を書きながら、そう言ってくるジョセフ。
「とりあえず、レクサが職業を4つ所有していることは分かった。にわかに信じられん話だが、流石に目の前で見せ付けられたのだしな。これについては、気になることもあるが、先に異世界からの転生とやらについても、詳しく聞かせてくれ」
「わかりました。では、話を続けますね。なぜ僕が前世の記憶を持って居るのかを」
そうして、レクサは一呼吸置いて、この世界へやってくることとなった理由を話し出した。
「すべては前世で僕が行ってしまったことが原因なんだ。前世の僕には一人の妹がいたんだ。唯一の肉親だった妹とはとても仲良く暮らしてた。
でも、ある日、僕等の身に不幸な事故おきてしまった。僕らはその事故に巻き込まれそうになったんだけど、僕はどうにか妹を助けたい一心で妹だけは助けることが出来だよ。
まぁその代わりに僕は死んじゃったんだけどね。でも、その後、僕は知らない場所で気がついた。そこで出会ったのが、その世界の神様らしいんだ。
そこでね、神様が僕に衝撃の事実を伝えてきたんだよ。本来死ぬはずだったのは、僕ではなく妹の方だった、って。しかも、死ぬはずだった妹を助けた代わりに僕は死んでしまった。
まぁ僕が死んだおかげと言っては何だけど、本来僕が生きるはずだった寿命を妹へ受け渡すことが出来たから、妹はこれからも生きられるらしい。僕としては妹が助かったから、僕が死んだことについてはどうでも良かったんだけどね。
でもね、その神様がさらにこう言ったんだよ。『人の身でありながらその意思の強さで運命すら変えてしまったお前に、敬意を評して願いを叶えてやる』って。だから僕は生き返らせて欲しいって頼んだんだ。
そりゃ、自分の代わりに妹が助かったんだし、それは良かったんだけど、そのおかげで妹に二度と会えなくなっちゃうのはいやだったからさ。即答でそれを頼んだよ。でも、それはその神様の力じゃ駄目だからって言って断られた。
その変わりに異世界にだったら記憶を持って転生させてやるぞ?って言われたんだ。だから僕はついでに力も付けてくれって頼んで、この世界へ転生したんだ。
その後は父上と母上の間にレクサナールとして生まれて今まで生活してきたんだよ。力については、こっそり出かけた先で練習していたんだけどね。
これが、僕の秘密のすべて」
レクサは、大まかな説明を終え、息をついた。正直なところ、自分が持っている力のことについては、目の前で見せれば証明出来るから説明しやすかったのだが、こちらの話については証明のしようがない。
恐らく、こんな突飛な説明をされても、『はい、そうですか』なんてひつと返事で頷いてくれる人間なんて居ないだろうな、なんて思う。
まぁそれでも、嘘をつかずに話したわけだ。これ以上語れることも無い。
「……なんとも、突拍子もない話だな……。では、何で今までこの事を黙っていたんだ?」
先ほどの能力の証明の時と打って変わって、取り乱さなかったジョセフがレクサに問いかけた。
「……そ、それは……」
正直、こんな力や記憶を持っていたら、異端扱いを受けて捨てられるか、最悪殺される、なんて思ってたからなんて言える訳が無い。
「まぁ推測は出来るがな……、大方『こんな力や記憶を持っていたら、異端扱いを受けて捨てられるか、最悪殺される』なんて思っていたのだろう?」
「……うっ……」
流石のレクサも図星を突かれて、出る言葉が無かった。
「はぁ……、では、なぜそこまで隠していた力を使おうと思ったのだ?」
「……それは……、最初は使うつもりは無かったんだ。父上と母上なら大丈夫だからって、アリスさんも言ってたし。
でも、父上と母上がスノードラゴンに苦戦してて、村も危険だから避難したほうがいいって話を村長からされたときに、シャルが居なくなってることに気がついたんだ。
その時、鮮明に家族を失うってビジョンが僕の頭をよぎったんだ。その後は何も考えられなくって、気がついてたら力を解放して駆け出していたんだよ」
「なるほど、な」
両親が意味深に頷き、そこで話が途切れた。重々しい空気が場を支配していた。
だから、レクサ自身この空気に耐えられなかった。だからこんな発言をしても仕方なかったと言えば仕方なかったのだろう。
「ま、まぁ安心してよ! これからは、この家を出て行くから家には迷惑を掛けないようにするつもりだしさ!! あ、あはは……」
ここで、レクサの前世の話をしだしたあたりから、喋ることをしなかった母エリナが突然立ち上がり、レクサの前に歩みだしてきた。
――バチン!!――
部屋中に大きな音が響く。エリナがレクサの頬を思いっきり平手打ちをしたのだった。
「いい加減にしなさい!! レクサ! あなたは家族を、私たち両親を何だと思っているの!?」
「……ふぇ?」
突然のことに驚きを隠せず、間抜けな声を出してしまうレクサだった。今まで両親に怒られる事をして来なかったレクサは、今何がおきているのか理解できていないようだ。
「異端扱いをされる? 殺される? しまいには、迷惑を掛けないように家を出て行く出すって!? 馬鹿なことを、……言わないで!!」
怒気を孕んでいた声が次第に弱くなってく。そして、エリナの目が潤み、涙が溜まってゆく。
「い、いや。でも、僕みたいなのが近くに居たら、迷惑を掛けるし……」
「あなたは……、私たちの息子なの! ……私がお腹を痛めて生んだ、息子なの!! ……貴方にそんな力があろうと無かろうと、私たちは家族なの!! ……お願いだからそんなこと、二度とそんな寂しい事……言わないで!!」
涙を流しながらレクサを叱り、そして抱きつくエリナ。このような事態を想定していなかったレクサは戸惑ってしまう。
ジョセフがレクサに近づき、頭を撫でながらやさしく言った。
「そうだぞ、レクサ。お前は私たちの息子だ。そして、家族なんだ。例え、どんな困難があろうとも、お前を捨てることなどしないさ」
それまで、黙っていたシャルもレクサに抱きつき、小さくつぶやく。
「……にーにぃは、にーにぃ」
ついに、レクサの目から涙がこぼれる。
「……ち、父上、は、母上、シャル……。……僕はここに居ても、……いいんですか? みんなの家族でいても……いいんですか?」
「当たり前じゃない……」
「……当然だ」
「……(コクン)」
三者三様の方法でレクサの質問に肯定する。
「で、でも、多分、これからも迷惑をかけるかもしれないんだよ? それでも……?」
「えぇ」
「あぁ」
「(コクン)」
再び、家族みんなが力強く肯定する。
「……そっか……。……そっか」
そっか。僕はここに居ても、いいんだ。
レクサは、涙を流しながらも、家族の暖かさに触れ、心が温まる思いだった。
心温まる風景がそこに広がる。
ただ一人、関係者であり、関係者でない、アリスを置き去りにして……。
「あたし、ホントにここに居ていいのかしら……?」
その問いかけに誰も答えることは無かったとか……。
お待たせしました!
少し遅くなりましたが、前回「次回第一章完です」とか言っておきながら、終われませんでしたorz
また、急いで書き下ろしたので、誤字脱字がある可能性があります。
もし、誤字脱字等を発見された方は、ご報告していただけると、非常に助かります。
今度こそ、次回で終わります!
これからも「兄転生、妹召還」をよろしくお願い致します。